オムツ系女子

 結愛は引っ込み思案な性格で、昔から友達と呼べる人数はとても少なかった。


 中学時代も「わたしの友人です」と胸を張って紹介できたのは相田喜久子くらいだった。

 その分、彼女とは軽く依存していると思われるほど深く付き合ったし、好きな人のことを含め、互いに何でも言い合えるような仲になっていた。


 高校は別になってしまったが、彼女との親交は高校に進学してからも止まず、毎日のように電話して話したり、休みの日には一緒に遊びに行ったりしていた。


 そんな折、喜久子が言ってきた。


「結愛? 瀬奈に告白はしないの?」


「えっ? む、無理だよ、きっこちゃん。な、何で唐突にそんなこと……?」


「今だって好きなんでしょ? だったらすれば? 高校別々になったんだし、振られたら会わなければいいだけだし、気が楽でしょ?」


「そ、それでも……無理だよ。瀬奈君には色葉ちゃんがいるんだし……色葉ちゃんには勝ってこないよ」


「その件だけどさ、この間それとなく色葉に探り入れてみたんだけど、あの二人は単なる幼馴染ってだけで、それ以上でもそれ以下でもないって言ってたよ?」


「そ、そんなはずないよ。あの二人は……多分、好き同士のはずだよ?」


 中学生の時、恭介のことはずっと目で追っていた。だから分かる。いくら本人同士が否定しようと、あの二人は相思相愛で、自分なんかが割って入る隙は微塵もないのである。


「だったらわたしの制服貸してあげるからこっそりうちの高校に来て今の二人の様子みてみれば? わたしが言っている意味わかると思うし」


 喜久子がそこまで言うのだから真実なのだろう。一時的に険悪な関係になっているか、それともそれがずっと続いているのかは不明であるが。とにかくもしもそれが本当であれば、確かめる必要がある。とはいえ制服を着て潜入し、あの二人に近づくのはどう考えてもリスクが高すぎる。

 だがもし喜久子の言う通りだったとして、恭介が色葉とは別の誰かと付き合ってしまったら、色葉に遠慮し告白しなかったことを一生後悔するかもしれない。


「と、とりあえず……色葉ちゃんに聞いてみよっかな……」


「うん、そうしなよ? んで瀬奈にそのまま告っちゃいなよ?」


「えっ? で、でも……例え二人の関係が悪化していたとしても……瀬奈君に告白なんて……」


 口篭る結愛。


 確かにチャンスではあるのだが、恭介に近づくだけで尿意を催してしまい、告白どころではない気がしたのだ。


「ああ……そっか……」


 事情を知っている喜久子は納得するように頷いて、


「何ならオムツでもしちゃえば?」


「お、オムツ……?」


 固まる結愛に喜久子は笑って、


「ははっ、まあそれは冗談として、直前におトイレいっておけば大丈夫でしょ……?」


「う、うん……どう……かな?」


 あまり自身がなかった。恭介のことを話題にしている今でさえ尿意が湧いてきているのに、本人を目の前にしたら……


 とにかく色葉に直接会って話を聞いてからだ。




 翌日、早速学校の前で色葉を待ち伏せ恭介の話を聞かせてもらった。


 結果から言えば、喜久子の言っていた通りだった。


 しかし中学時代の二人と色葉の言動を鑑みると、もしかしたらちょっとだけ喧嘩をしているだけの状態で、引くに引けずに好きではないと言い張っているだけかもしれない。

 恭介が『ホモ』であると言っていたが、仮にそれが嘘であれば色葉は他の女性を恭介に近づけたくなくてそう言っていると考えるべきであろうし。


 とにかく、だとしたら喜久子が言うように、今のうちに告白すべきなのだろう。

 しかしそうなるとやはり尿意の問題が……


「何ならオムツでもしちゃえば?」


 喜久子のその一言が頭の中でぐるぐると回る。


「……オムツ……」


 さすがにそれには抵抗があった。


 確かに結愛は尿道が緩いが、女子高生だ。

 女子高生がオムツだなんて……


 それでも万が一、漏らしてしまうよりかは幾分かマシだと思われた。


「……う~ん……」


 結愛は引き寄せられるように、ドラッグストアに入店し、大人用オムツ売り場で自身に合いそうな紙オムツを物色した。




「へ、変じゃないかな……?」


 ドレッサーに映る自身の姿にほんのりと頬を朱色に染める結愛。


 今、彼女が着用しているのは、下着タイプの紙オムツ一枚のみで、胸も露わに様々な角度からどう自身のオムツ姿が見えるか確認していたのである。

 もこもこしているけれど、少しくらいスカートがめくれたとしてもパッと見であれば、そもそもオムツをしているとは思って見られないはずだから、気づかれない……と、思う。


 それくらい最近のオムツはスタイリッシュにできていた。


「あ、後は、吸水性……かな?」


 薄型のオムツを購入したのはいいけれど、漏れてしまっては意味がない。

 さすがに抵抗はあったけれど、確かめないわけにはいかない。


「ん……ふっ……」


 じゅわー。


 顔を更に紅潮させた結愛は、思い切って、そこに放尿した。


「あ、ああっ……何か……」


 生温かな、妙な感覚が拡がっていく。


「う、うん……大丈夫……かな?」


 とりあえず漏れる心配はなさそうだ。

 これで万が一尿意に襲われても最悪な事態は回避できる。


「でも……やっぱり恥ずかしいな……」


 やはりこれはただの保険。


 恭介の前でおしっこなんて……できるはずがなかった。



          ◆



「瀬奈君……」


 恭介への告白は、喜久子が段取りしてくれた。


 彼の前に立つと、やはり凄まじい尿意に襲われた。

 でもこの制服の下にはオムツをしてあるから安心だ。

 オムツがなかったら不安で彼の前に立つことさえままならなかっただろう。


 結愛はすべての想いをぶつけるつもりで、言う。


「わたしとお付き合いしてくれますか?」


 恭介の答えが返ってくるまでドキドキであった。


「じゃあ……付き合って……みる?」


 恭介は結愛の告白をはにかみつつ、そう答えてくれた。

 嬉しくて溜まらなかった。尿意は溜まっていた。


「じゃあこれからよろしくね、瀬奈君」


 右手を差し出す結愛。


「うん。まあ……よろしく」


 手を取ると、恭介の温もりが伝わってくる。

 思えば恭介に触れるのは初めてな気がする。


 でも、付き合うということはもっといろいろと……


 そんな卑猥な妄想が頭の中に駆け巡ったむ瞬間だった。


「えっ!」


 これまでにない、猛烈な尿意に襲われた。

 オムツはただの保険であった。


 こんな場所で、恭介の前でお漏らしなんて恥ずかしくてできるわけが……


「んっ? どうした? 何か顔色が……?」


 恭介が覗き込むように結愛の顔を見てくる。


「だ、ダメ!」


 結愛は心の中で絶叫する。


「そ、そんなに見詰められたら……わ、わたし……も、もう……!」


 既に尿意は限界突破していた。


「あっ……」


 チョロ……


 少しでも出たらもう自身では制御できない。


 じぉわぁ~。


「はぅっ~……」


 結愛は恭介に見られたまま、オムツの中に盛大に放尿していた。


「九条? おい、大丈夫か……?」


 冷や汗を掻いていた結愛は恭介のその声に、紅潮した顔を上げる。

 放尿はしてしまったが、恭介にはバレていないはず。だから大丈夫。


「う、うん……な、何でもないよ……?」


 結愛は無理に笑顔を作ってそう答えた。


 衣服を着用したままする放尿は、トイレでする時とはまた別の趣があった。しかも恭介に見られたまましてしまったのだ。恥ずかしいという概念は持ち合わせているものの、ちょっとした背徳感と一緒に、何か自分の中で別のものが芽生えつつあるのを結愛は感じていた。


 それは病みつきになりそうな、とても言葉には言い表せないような、心がぴょんぴょんする感覚であったのである。

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