ぶらっく・ほーる

「ただいま~」


「おかえり、恭介。色葉ちゃんが遊びに来てるわよ?」 


「えっ?」


「高校に入ってから初めてよね? お母さん、色葉ちゃんがお嫁に来てくれればいいなって昔から思ってたのよ? 色葉ちゃんと仲良くしなさいよ、恭介。大体あんたは……」


「わ、わかったって。ごめん、俺行くから」


「あ、ちょっとあんた――」


 母の長話を遮るようにして、恭介は階段を駆け上がって二階へ。


 恭介が寝室のドアを開けようとすると、内側からドアが開いて、


「おかえりなさい、恭ちゃん」


 笑顔の色葉が恭介の帰りを出迎えてくれた。


「お、おう……どうしたん?」


 受験前までは頻繁に恭介の家に出入りしていた彼女であるが、玄関からこうして訪ねてきたのはあの受験前日から初の出来事だった。


「うん。わたしね、恭ちゃん成分が不足してるの」


「はっ? 俺の成分って……何それ?」


「恭ちゃん、今まで使用済みのティッシュ、ゴミ箱に捨ててたよね? あれ、今までわたしが回収してたんだよ?」


「……は、はいっ?」


 唐突なぶっちゃけに固まる恭介。


「恭ちゃんの匂いが染みついてるんだよ? わたしにとっては何よりも恭ちゃんを身近に感じられるアイテムなんだもん。毎日、それでもらいオナニーしてたんだよ?」


「……お、おな……えっ?」


 正直、何て言っていいかわからなかった。

 色葉がオナニーしている姿なんて、微塵も想像したことがなかったからだ。


 というか何のつもりなのか、何でそんな告白をしてきたのだろう?


 色葉は恥かしい思いをし、それを世界的に有名な催眠術師のミスター・エムを使ってまで恭介の記憶から抹消しようとした。

 だというのに、もっと恥ずかしいと思われる行為をなぜに恭介に告白してきたのか、まったくもって意味不明であった。


「えへへ、やっぱり恭ちゃん、引いているよね? でも本当だよ? 恭ちゃんのことを思って一日何度もオナニーしているし、学校でもこっそりしてる。そんな女の子……引かれて当然だよね? わたしだってこんな告白するつもりなかったし」


「だ、だったら何で……?」


「恭ちゃんが使用済みのティッシュをゴミ箱に捨てなくなっちゃったのって、わたしのせいだよね?」


 その通りだった。色葉に指摘され、ゴミ箱に捨てるのは止めた。もしかしたら母にもばれているかと思うと、ゴミ箱には捨てられなくなってしまったのだ。


「だからね、恭ちゃん。恭ちゃんの使用済みティッシュが欲しいの。欲しくてたまらないの」


 恭介は表情を引き攣らせて、


「はっ? そ、そんなの……やれるわけ……ないだろ?」


「うん。知ってる。だからね――」


 色葉は携帯電話を取り出し、恭介に向けてパシャリ。


「!」


 まさかとは思ったが、その携帯電話はエムの携帯電話であった。

 つまり先ほどの告白もすべて消去するつもりで色葉は自身の変態性が知れるような発言をしてきたのである。


 一瞬、迷った恭介であったが、色葉の催眠術に乗ることにした。というか乗るしかなかった。色葉にこんな告白をさせたのに、今更あの催眠術はすべて偽りでしたなんて、口が裂けても言えるわけがなかった。


「消去――」


 色葉は魔法の言葉を唱え、思った通りに彼女が先ほどした変態性告白の記憶と、使用済みティシュについて色葉に指摘された記憶、それから処分方法を変えた記憶を封印するように恭介に言ってきた。


「……はい……」


 恭介は大人しくそれに従う。

 無論、すべてお芝居なわけであるが。


「これで今日からまたゴミ箱にポイしてくれるよね、恭ちゃん?」


「…………」


 記憶に関する問い掛けではないのでそれには答えない恭介。

 そして色葉は再びパシャリと恭介の催眠状態を解除して――


「おかえりなさい、恭ちゃん」


 恭介が帰ってきたところから始めるようで、改めて恭介の帰りを出迎えるように、色葉は笑顔で言った。




「ほ、本当に、回収してんのかな……」


 風呂から上がって、服を着ていく恭介は、それだけが気がかりであった。


 色葉が本当に使用済みのティシュを回収しているのであれば、それはいつか?

 恭介が一人でしゅっぽるのは大体夕食の後。


 その後風呂に入るのであるが、部屋に侵入するならおそらくは今のこの時間帯だと思われたからだ。

 風呂に入る際、部屋の明かりは消す。そして風呂の明かりが点けばしばらくは戻らないと予測でき、部屋に忍び込みやすいからだ。


 いろいろ迷った恭介であるが、風呂に入る前に使用済みのティシュをゴミ箱に捨ててきた。

 下手に小細工して色葉の裏をかくような真似をすれば、催眠術にかかっていなかったことがバレてしまうかもしれなかったからだ。

 早急に雪菜に携帯電話を取り上げてもらう必要がありそうだ。


 使用済みのティシュの件はそれから機をみて処理方法を変えていくべきだろう。


「……あれっ?」


 部屋から明かりが漏れていた。


 確かに明かりは消したはず。つまりは色葉が部屋に忍び込み、逃げ遅れたということだろうか?

 ゴミ箱を漁る色葉と出くわしてしまったらと思うとドアを開けるのに一瞬だけ躊躇するも、開けないわけにはいかなかった。ここで引き返してしまったら、もし中の色葉が気付いていたら彼女に変に思われてしまうかもしれないからだ。


 恭介は素知らぬ素振りでドアノブを回して――


「……い、色葉?」


「こんばんは、恭ちゃん?」


 色葉は特にゴミ箱を漁っている様子もなく、恭介を待っていたのか、普通にベッドの上に腰かけていた。


「ど、どうしたんだ、こんな時間に……?」


「恭ちゃんともっとお話ししたくて」


「話?」


「うん。だって受験前日のあの日以来、全然お話しできなくなっちゃったから、いろいろ話したいことがたまっているんだもん」


「そ、そうか……そう……だよな?」


 今回は色葉が純粋にただ今までの空白を埋めるために対話を求めてきたのだとわかり、恭介はホッと胸を撫で下ろし、訊く。


「……で、したかった話って?」


「うん。とりあえず見せたいものがあるんだけど……いい?」


 しかしそう言った色葉の手には、例の携帯電話が握られているのみで、


「み、見せたいものって何?」


 と、何となく嫌な予感が脳裏をかすめつつ、恭介は訊いた。


「うん、それはね……」


 色葉は少し頬を染め、もったいぶるような仕草を取ってから、


「お、お尻の穴……かな」


 と、言った。


「んんっ? 何て?」


 聞き間違えではなければ、すごいことを色葉が言っているような。


「うん。だからね、恭ちゃんに、お尻の穴を見せたいな~、って」


 どうやら聞き間違いではないらしく、彼女ははっきりと〝お尻の穴〟とそう言った。


「そうだよね? やっぱりそういう反応になっちゃうよね? わかってたんだ」


 色葉は少しだけ苦いような顔でそう言うと、携帯電話のカメラを向け、恭介を催眠状態に陥らせる。


「えへへ、これで恭ちゃんの前でどんな恥ずかしいことしても平気だよね?」


 色葉は身動きが取れぬ恭介の目の前でスカートの下に手を入れ、ショーツをずり下ろす。


 心臓が激しく波打つ。


 恭介は、それを目の前の色葉には悟られまいと、表情を変えぬまま、ごくりと静かに息を呑み込む。


 どうやら冗談ではないらしかった。


 色葉は恭介の眼前でお尻を突き出し、


「し、しっかりとその目に焼き付けてね……」


 恥じらいつつ言うと、スカートをふわさっとめくり上げて――

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