くろーぜっとの痴女
「恭ちゃんが……結愛さんの告白を受け入れた?」
その日の色葉はずーっと上の空で過ごすことになり、告白シーンを目撃した後、いつの間にか教室に戻り、授業を受け、だと思ったら、授業を終えていた。
既に帰宅しているが、今日、一日何があったかまるで思い出せないほどだった。
「恭ちゃん……」
恭介の明かりがついた部屋を眺めつつ、思い耽る。
よくよく考えてみれば恭介が色葉を好きになる道理がなかった。
色葉は自分でいうのもなんだがそれなりに美人だし、胸も大きいし、男好きするえっちな身体をしていると思う。
しかし恭介の前ではただの粗野な幼馴染になり下がり、そんな視界に入るだけでもうんざりな娘より、誰の目から見ても可愛らしい結愛の方が万倍も魅力的に映り、告白されれば即座にオッケーするに決まっていた。
「恭ちゃん……わたし、恭ちゃんのことがこんなに好きなのに……」
例え好きという想いが結愛よりも強かったとしても、言葉にしなければ相手には伝わらない。
しかし想いを届ける勇気を持たぬ恋に臆病な色葉。
彼の前にはまともに立つことでさえ困難なのに、告白なんて恥ずかしい真似、どう転んでも色葉にはできそうになかった。
とりあえず乱れた心を一時でも早く落ち着かせたかった。
恭介の明かりがついた部屋を眺める色葉。
そしてその瞬間が訪れる。
恭介の部屋の明かりがパチンと消え去ったのである。
「よっし、オナニーチャンス!」
この時間、恭介が風呂に行っている間が勝負の時。
色葉は屋根を伝って暗い恭介の部屋に忍び込む。
「はれっ?」
気のせいか、匂いが薄い?
「ま、まさか……!」
ゴミ箱に顔を突っ込み、鼻を鳴らして愕然とする色葉。
そしてゴミ箱を物色するも、やはりお目当ての品は見つからなかった。
深く落ち込んだ今日に限り、使用済みのティッシュがないなんて……
「……ど、どうして?」
昨晩から今日にかけて、一度もしていない? いや、違う。おそらく恭介は、ゴミ箱に使用済みティッシュを捨てているのを色葉に指摘され、煽られたせいで処分方法を変えたのである。
トイレにでも流したのなら回収不可。
ティッシュに包まれた時点でそれはもう、色葉のオカズであり精神安定剤であるというのに、色葉に断りもなく、なんて真似を。もったいない。
しかしここでくよくよしている場合ではない。早くしないと恭介が戻ってきてしまう。
色葉は電気を点けて部屋を漁る。
できれば恭介を身近に感じられるものがあればいいが、匂いが染みついているものはあまりない。
とりあえず今日はこれで……
縦笛。小学校で使用していたソプラノリコーダー。まだ捨てていなかったらしい。
もう幾度となく舐め尽くしているからドキドキ感は薄いが太さがなんか手頃な気がする。
とりあえず色葉は目を閉じてリコーダーをくわえ、すーっと息を吸い込み――
「はぁっっ!」
色葉はハッとし、リコーダーを布団にぽむっと投げつけた。
「あ、あっぶな、危うくあまりりするとこだったわ」
陶酔してアマリリスを奏でそうになったのである。音を出している場合ではない。家の人に気づかれてしまう。
そして色葉は恭介のベッドに飛び込み、枕に顔を埋めて匂いを一気に吸い込んだ……
「あれっ? 電気消し忘れたっけ?」
何てことだろう。
まだ途中だったのに、恭介が戻ってきてしまった。
寸前で足音に気づいたが、屋根を伝って逃げる間がなく、色葉は慌てて窮屈なクローゼットに隠れこんでいた。
この扉を開けられたらおしまいだ。
凄まじい緊張感。自身の心臓の鼓動がクローゼットの外まで聞こえてるのではないかと思うほど、心臓がバクついていた。
「で、でも……開けないよね?」
寝る前にクローゼットを開けることはしないはず。
色葉は呼吸を整え、
「……よ、よしっ!」
静かに一枚一枚、服を脱いでいき――
クローゼットの中で全裸になった。
開けられたら、そう思ったら脱がずにはいられなかったのだ。
扉が開けられる可能性は低いとはいえゼロではない。これで本当に扉を開けられたら、言い訳のしようがない。
胸を躍らせる色葉。
でも、やっぱり裸を見られるのは恥ずかしい。
それに性器はモザイクがかかる卑猥な場所なので、見せると犯罪になるかもしれない。
と、なると……
色葉はクローゼット中で静かに回転し、丸く形のいいお尻を突き出した。
これで開けられたらお尻の穴まで丸見えだ。
「い、いや……やっぱり恥ずかしい……」
暗くて見えないが、顔が熱くて真っ赤になっていると思われた。
見られるなら、見せていいお尻の穴。モザイクのかからないお尻の穴。
しかし本当に見られてしまうかと思うと……
色葉は、わくわくと不安が混ざったような変な感情のまま、クローゼットの扉を開くのを待つことにした。
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