近藤さん
「ふぅ~、すっきりした……」
色葉との星空デートはカップルに襲いかかる霊のせいでお流れになった。
おそらくそんなものは存在しないだろうが、今日のデートに色々と迷いもあったのでそれ以上追及することはしなかった。
結果的にはそれでよかったのかなと胸を撫で下ろす自分もいたりした。
しかしそれはそれとして、収まりがつかなくなってしまったものがあった。二日間ためにため込んでいる性欲である。
どこかで発散しなくては暴発しかねない。
帰りの車内で眠り込んでそんなことになってしまったら目も当てられない事態になるだろう。
とはいえ旅先での一人シュッポッポはなかなかハードルの高いものでもあった。
女性陣の部屋は2階とはいえいつ階下に降りてくるとも限らないので堂々とおちんちんを出すわけにはいかない。
おちんちんを出していいのは風呂場かトイレくらいか。風呂はもう入った。となるともうトイレしかなかった。
そんなわけで恭介は、トイレで一人シュッポッポを決め込んだのだった。
「さて、すっきりしたしとっとと寝るべ」
大側レバーをガチャンっと引いて水を流す。
そして手を洗ってトイレを出ると、
「うをっ!」
そこに結愛が立っていた。
「い、いたんだ。ごみん。ゆっくりしちゃって……ど、どうぞ」
気持ちが昂っていて、外の状況をまったく気にしていなかった。とりあえずトイレで長居しても大をしていたと思われるだけなのでよしとする。
鍵を掛けといてよかったと恭介は心より安堵していたのだが……
「あ、あの瀬奈君? スマホの音が漏れてたよ?」
「んっ?」
恭介はぴきっと表情を引きつらせる。
もちろん見ていたのはえちえちな動画だ。
「さすがに……イヤホンくらいした方がいいんじゃないかな……って?」
「わ、忘れて! あ、あと色葉たちにも内緒でお願いします!」
必死に懇願する恭介。
「えっ? あ、うん……別にいいんだけど……あ、それじゃあ忘れる代わりにお願いしたいことあるんだけどいいかな?」
「な、何なりとどうぞ」
「えっと……明日……と言ってもあと30分ほどで12時回るけど……そしたら瀬奈君、わたしの彼氏になるでしょ? だからね――」
◆
「う~ん。おしっこ……」
深夜に目を覚ました色葉はついでなのでトイレに行っておくことにした。
眠い目を擦りながら一階に降りる色葉。
「トイレは……えと……こっち……だっけ」
そして、トイレのドアを開け放った瞬間だった。
トイレ内に残った恭介の残り香が鼻腔をくすぐったのである。
「これは……恭ちゃんがおちんちんをいじっていた匂いだ!」
色葉の眠気は一気に吹っ飛んだのだった。
「ふぅ~、すっきりした……」
トイレですっきりした色葉は完全に目が冴えてしまった。
「どうしよ」
恭介が眠る寝袋をちらっと見やり、無性に体を動かしたい衝動に駆られる。
軽く運動をすればぐっすり眠れそうな気がする。
どんな運動かと言えば下半身を露出して熟睡する恭介の顔を跨ぐようにスクワットをしたりしたかった。
恭介の眠りは深いし、仮に目を覚ましてしまっても彼女であれば彼氏の顔の上でスクワットしても問題ないだろう。しかし残念ながら今日の彼女は結愛の日なのでそれをするのはさすがに憚られた。
それに霊の存在も怖い。念のために距離を置くべきだろう。
とりあえず寝顔だけ見て寝床に付くことにしよう。
「――って、あれっ?」
寝袋はあったが抜け殻だった。まだ温かいので先程まではここで寝ていたようであるが……
「ま、まさか……!」
バドミントンで色葉から勝利をもぎ取り恭介の今日の彼女となった結愛の顔が思い浮かんだ。
ここ数日の間、色葉は恭介がお尻の穴に入れたくなるよう仕向けてきた。
しかし土壇場で拒絶した形となってしまっていたため、彼の抑えきれなくなってしまった衝動が、結愛のお尻の穴に向いてしまったのではという疑念が生じてしまったのである。
色葉は慌てて階段を駆け上がり、結愛の部屋の前に立ち、ドアに耳を当てる。中からそれらしき物音はしてこない。
とりあえず小さくノックし、ドアをゆっくり開けてみる。
明かりが消え、人のいる気配がまるでなかった。
「ゆ、結愛さん、お邪魔しまーす」
やはり部屋はもぬけの殻。
恭介はともかく、いるはずの結愛の姿も、である。
となると二人で外出した? どこへ行った? 普通に考えて星空デートか? しかしそれは建前で結愛のお尻の穴目的で外に連れ出していたとしたら?
色葉は再び階下に降り、明かりを点けて恭介の荷を漁る。
「あった!」
バッグの中から薬局の小さな袋に包まれたそれを見つける。大きさ的におそらくこれだろう。そして袋の中のそれを確認してホッと胸を撫で下ろす。それは――おちんちんに被せるカバーの入った箱の封は切られていなかった。
恭介の目的が結愛のお尻の穴目的であればこれを持っていくはず。即ち二人が出かけたのは純粋に星空デートを楽しむため。これなら問題は……いや、完全に問題がないとは言い切れない。
なぜならばこのキャンプ場にはカップルを襲うと言われる悪霊が存在するかもしれないからだ。もし必要上にイチャついて悪霊を刺激してしまったなら、恭介のおちんちんが持っていかれる可能性があった。
おそらく二人は霊の存在をまったく信じていないのだ。
「ど、どしよう……」
「何がどうするの?」
唐突に背後より声を掛けられギョッとする色葉。
振り返るとそこには里緒菜が立っていた。
「な……何だ。お、お姉ちゃんか……急に声掛けるのやめてよ。びっくりするじゃん」
「それより何をしているの? それ恭介くんのバックよね? その前に恭介くんの姿も見えないようだけど?」
「あ、これは……」
色葉は手にしていたおちんちんカバーの箱が入ったそれを静かにバックに戻し、少し考えてから、
「大変……そう、大変なの!」
「何が?」
「このままだとおちんちんが……恭ちゃんのおちんちんが持ってかれちゃうかもしれないの!」
要領を得ない色葉の説明に眉根を寄せる里緒菜。
「はっ? 何を言ってるの? 説明するならちゃんとなさい」
「だ、だから、あのね……」
色葉は順を追って説明する。
恭介と結愛が星空デートに出掛けたかもしれない、と。
そしてあまりイチャつき過ぎると、耳なし芳一よろしく恭介のおちんちんが悪霊に持っていかれてしまうかもしれない、と。
「だから二人を追いかけないと!」
「いや、無理でしょ? 発信機でもあればともかくどこへ行ったかも分からないのに。それより色葉? あんた幽霊とか信じてる?」
「う、うん……全部じゃないけど」
霊については幼いころに祖母がたくさんお話してくれた。異様に怖がりになったのはその祖母のお話のせいでもあるが、霊が存在するのは確かだった。そして世の中には人に悪さをする霊がいる。しかし色葉自身に霊感はないからその手の噂が嘘っぽくても細心の注意を払う必要があるのである。
「そうね。お祖母様も言ってたわね。現世は嘘でまみれてるって。霊の存在を面白半分に広めたり金を稼ぐのに利用したり」
それは悪徳な霊能力者だったり宗教法人だったり。テレビに出てくるような霊能力者もテレビの演出に付き合ってるだけでほとんどの霊能力者はそのそんな特別な力は持ち合わせておらず、唯一宜保愛子だけが本物だったと祖母が言っていた。
「そう、だから恭ちゃんのおちんちんを守るために星空デートを中断させないと行けないの。万が一にも本物だと困るから」
「う~ん、必要ないわね。あれ、偽物だから」
「な、何でお姉ちゃんがそう言い切れるの? お姉ちゃん、霊感あるの? 宜保愛子なの? 令和の宜保愛子なの?」
「いや、違うけど。あれ、記事自体フェイクだから」
「えっ?」
「エイプリルフール企画の残骸らしいわね」
里緒菜にスマホの記事を見せられ色葉は愕然とした。
確かに昼間見せられた記事の上の方にはエイプリルフール企画の文字が躍っていたのである。
「そ、そんな……清廉潔白そうな結愛さんがそんな真似までしてわたしと恭ちゃんの邪魔をしてくるなんて」
「まあライバルでもあるるわけだし多少わね? それより色葉? 話は戻すけど、あんたはここで何をしていたの?」
「えっ?」
「恭介くんの荷物から何か取り出してたわよね?」
「えっ? 何も?」
「ちょっとどきなさい? 確認するから」
すると色葉は恭介の荷物の前に立ちはだかり、頑とした姿勢で言う。
「い、いくらお姉ちゃんでも、他人のバック漁るのはよくないと思うな!」
「どの口で言ってるの? いいからどきなさい」
力で里緒菜には敵わない。
敢え無くそれは里緒菜の手に渡ってしまったのであった。
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