星に願いを…

デート

「そんじゃあ次はさ、女子高生らしく占いの館でも、いっとく……みたいな?」


 休日の昼下がり、文化祭関連の買い出しが一段落するとクラスメイトの亜美がそう提案してきた。


「いいねー、わたしも『フォルトゥーナ』気になってたんだ」


 と、亜美に乗っかって依子。

 占いの館『フォルトゥーナ』はこの近くにある話題のお店らしかった。


「色葉もそれでいい?」


「はい、亜美さん。わたしは構いませんが占いの館って女子高生らしいんですか? わたし行ったことありませんが?」


「わたしもないよ。ただ最近部活の子とかが話してたから気になってたんだよねー」

 亜美はスマホを手早く操作しながら、続けて『フォルトゥーナ』の情報を教えてくれた。


「20分3,000円……数名の占い師が在籍中……あ、数名で占ってもらうこともできるって。予約も取れるらしいけど近いからそのまま行っても同じかな? 占ってもらいたいことも事前にまとめておいた方が時間的にいいみたいだけど?」


「そう言われると占ってもらいたいこともありませんね?」


 占いの定番というと恋愛か? とは言え恭介との関係を秘密にしている手前、恭介との関係を二人の前で占ってもらうというわけにもいかなかった。 


「わたしもないけど運命の人がいつ現れるかでも占ってもらおうかなー」


 と、依子。


「じゃあわたしは――」


 亜美は言いかけたが、何か気になったのか目線を遠くにやって、


「あれ? あすこにいるのって瀬奈君?」


「!」


 恭介の名に色葉はハッとし、振り返る。


 今日、この状況で彼とエンカウントするのは色葉にとってあまり都合のいいものではなかった。

 理由は交代制をとっている今日の恭介の彼女が自分ではなく、九条結愛であったから。

 そして案の定、車道を挟んで少し離れた道を歩く恭介の隣には結愛の姿があった。

 亜美たちもその可愛らしい同伴者の存在に気づいたようで、 


「ていうか隣にいる可愛い子誰? どっかで見たような……うちの生徒?」


「ああ、あれはね、瀬奈くんの彼女だよ。名前は……何だっけ。聖泉女子の子」


 と、亜美の疑問に答える依子。


「ああ、思い出した。前に色葉に会いに来てたよね? 聖泉女子の制服着た子」


「は、はい……九条結愛さんです」


 亜美に問われ、色葉は観念したようにそう答えた。


「へぇ~、あの二人付き合ってるんだ」


「うん。そうだよ。わたしのバイト先の漫画喫茶にきてチュッチュしたり男子トイレから二人出てきたりしたるような仲だよ」


「うわっ、そうなんだ! 羨ましいけどトイレはちょいひく」


 色葉は引きつった笑みを浮かべつつ、


「え、えーっと、依子さん、亜美さん、瀬奈君とお連れさんのお邪魔しては悪いですから――」


「おーい! 瀬奈くーん!」


 色葉は何とかその場をやり過ごそうとしたわけだが、依子がお構いなしに大声で手を振りながら恭介にアピった。

 恭介がこちらを見やり、おそらく色葉に気づいたのだろう、ギョッとして固まった。


「ははっ、デート現場クラスメイトに目撃されちゃってびっくりしてるよ? 冷やかし行こ」


 と、駆け出す依子とそれに続く亜美。


「ちょ……依子さん! 亜美さんまで!」


 仕方なく後ろから追いかける色葉。


「こんにちはー、デート?」


 恭介は依子のその問い掛けに目を泳がせつつ、


「え? ああ、まあ、ははっ……」


 すると顔を真っ赤にして俯いた結愛がすっと恭介の手に自身の手を絡ませる。


「うをっ、世に言う恋人繋ぎ……!」


 と、感嘆する亜美。


「ちょ、このタイミングで……」


 恭介も面食らったご様子で、一瞬躊躇うような仕草を見せたものの、しっかりとその手を握り返した。

 恥ずかしいのか恭介の顔も真っ赤になっている。

 それをからかう依子と亜美。

 更に照れる恭介と頬を紅潮させる結愛。


 本当に、絵にかいたような初々しい高校生カップルであった。




「――って、ことがあったの。ひどいと思わないお姉ちゃん? せめて依子達と別れた後にやればいいのにわたしの前でもいちゃいちゃと……恭ちゃんひどいよね?」


 結愛とのデート後、色葉の部屋に呼び出された恭介は正座をしながら目の前の美人姉妹のやりとりを伺っていた。


「でも九条さんが今日の恭介くんの彼女だったのよね? だったら仕方ないんじゃない?」


 恭介をいじめることに生きがいを感じてるのではと感じることがあるほどの恭介に対してドSな里緒菜であったが色葉の誘いには乗ってこなかった。


「仕方なくないよ。だって依子さんたち完全に結愛さんを恭ちゃんの彼女って認識しちゃったんだよ。そしたらもうわたしはお外デートもできないし学校でも付き合ってること公にしていちゃいちゃしたりもできなくなっちゃったじゃん」


「別に付き合ってなくても仲良くして大丈夫でしょ? お隣さんなんだから」


「ダメだよ。仲良くしてたら彼女持ち寝取ろうとしてるワルい女みたいに見えちゃうじゃん。恭ちゃんだって陰で二股包茎おちんちん野郎とか言われることになるんだよ? そんなの嫌でしょ?」


「えっ? 何その呼び名……後半関係なくない? っていうか、大声で言うのやめて。下のおばさんとかに聞こえたら変な誤解されるから!」


「そうよ、色葉……二股包茎おちんちん野郎なんて呼んだら恭介くんの股間におちんちんが二本あると母さんが誤解してしまうわ」


「いや、そんな誤解は誰もしませんて!」


「ぷぷっ、恭ちゃんにおちんちんが二本……」


「色葉……想像して一人で愉しくなるのやめなさいな」


「べ、別に愉しくなってるわけじゃないし! そ、それより恭ちゃん!」


「は、はい? なんで――あ、待って!」


 訊き返そうとした色葉を制する。

 階下より階段を上ってくる足音が恭介の耳に入ったのだ。


「入るわよー?」


 ドア越しの艶っぽいその声は当然のごとく色葉ママンの声で、ガチャリとドアが開かれる。


「恭介ちゃん、こんにちは、よかったらどうぞー」


 人数分のコーヒーとお茶菓子を載せたトレイを部屋の中止にあるテーブルの上に置く。


「あ、ありがとうございます。おばさん」


 それはそれとして色葉ママンの胸は相も変わらず豊かであり会釈して頭を上げるついでに自然と目が追ってしまう。


「こんな狭いところに3人で……お話なら下ですればいいのにねぇ?」


 と、色葉ママンは部屋の片隅に正座して当たり前のように座る。


「えっ? ママ何してるの?」


「うーん。なんか寂しくて……ママも混ぜて?」


「だ、ダメに決まってるでしょ! 出てってよ!」


「あら、怒られちゃった。反抗期かしら。怖い怖い」


 色葉ママンは胸をたぷんと揺らしながら立ち上がって、


「あ、恭介ちゃん?」


「はい?」


「おちんちん2本あるって本当なの?」


「ぶほっ!」


 どうやら聞こえていたらしい。


「ち、違いますよ! んなわけないじゃないですか! 何か聞き間違えたんじゃないですか? 何の妖怪ですか?」


 と、落ち着くためにも恭介はコーヒーカップに口を付けて傾ける。


「聞き違い? そうよね? 小さい頃は一本だったし……じゃあゆっくりしていってね」


「は、はい、どうも。あ、ありがとうございます」


 とりあえず納得してくれた? のならそれでよしとする。

 そして色葉ママンは部屋を後にした。


 色葉はママンの足音が聞こえなくなるのを待ってから、


「話が途中になっちゃったけど恭ちゃん、わたしも恭ちゃんともっといちゃいちゃしようと思うの。というかしないといけないの。占い師さんにもそう言われて」


「占い師? 占い師って……唐突に何の話だよ?」


「うん。あの後に占いの館で占ってもらったの。占い師さんに」


「占いの館って『フォルトゥーナ』……だっけ? そこ?」


「そう。よく知ってるね? そこに行ってきたの。せっかくだから客観的に見て意見もらおうと思ったんだけど……」


 最初色葉は友達三人と一緒に占ってもらう予定だったらしいが恭介たちと遭遇して気が変わり、一対一で見てもらうことにしたらしい。

 別に色葉が占いを信用しているとかではなく、今の状態を客観的見てどう思うか第三者の意見を聞きたかったようだ。

 まあ、事情を隠している友人には相談できないから完全な赤の他人の占い師さんに意見を聞こうということだろう。


「そしたらその占い師さんね、いろいろとズバリ言い当ててきたの。もしかしたらあの占い師さん本物だったのかもしれないわ」


「へ、へぇ~、ちなみに俺と結愛の情報とかも占い師さんに伝えたの?」


「うん。伝えたとはいっても占いに使う生年月日だけだけどね」


 恭介の誕生日は以前から把握しており、結愛の誕生日も日替わり恋人の日程を決めるのに聞いていたためちょうど知っていたらしい。


「それで占い結果は? 占い師さんから何か言われたの?」


「うん。付き合いが長い分、六対四くらいの割合で恭ちゃんの気持ちはわたしに向いてるって」


「六対四……か。なるほど、ね」


 それはあくまで占い結果であるので正解かどうかは答えるつもりはない。というより恭介自身数値化しろと言われても正確に割り出すことは不可能と思われた。


「あなたが勝ってたんでしょ? よかったじゃない? それで何が不満で恭介くん呼び出したのよ?」


 と、里緒菜が訊いた。


「うん。お姉ちゃん。それはよかったんだけどね、その後がね……確かに今はわたしが勝ってるけど結愛さんが頑張ったらいつでもひっくり返されるって言われたの。だからわたしは今のゲーム差を維持、もしくは突き放すためにもっと恭ちゃんといちゃいちゃしないといけないの。けど近場だと安心してデートできないし」


「つまり遠出したいけどその場合親の許可とかも必要になるからわたしも呼んだってことかしら?」


「うん、そう。日帰りならともかく泊りがけとかするならお姉ちゃんも一緒じゃないと許可下りないかなって思って」


「泊りがけってあんたどこ行くつもりなの?」


「うーん。温泉なんてどうかな?」


「どうかなって……もっと高校生らしいとこにしなさいよ。泊りなら父さんたちの了承もいるのだから」


「えー、ダメなの? じゃあ恭ちゃん? 恭ちゃんは行きたいとこある?」


「えっ? 急に言われても……ちょっと離れたとこにある遊園地とか遊べるとこあるとことか? あとは海とか山……っていうかキャンプとか……イベントあるならそういうのに合わせるとか?」


「キャンプね? いいんじゃない今の季節。色葉はどう?」


 と、里緒菜が色葉に訊いた。


「キャンプってテントとか自分で張るの? 素人だけで大丈夫なの? 結構難易度高いんじゃないの?」


「無論、素人コースよ。バンガローとかコテージに泊まる超初心者コース。道具も一式借りれるようなところ」


 そう言うと里緒奈をスマホを取り出し操作して、


「あー、今度の連休……どうする? 丁度よさそうなとこ予約取れそうだけど?」


「うーん、キャンプ場……星を綺麗そうだしいいかな? 恭ちゃんは?」


「えっ? まあ……素人だけでも大丈夫ならいいのかな」


「そう? じゃあ予約取るわよ」


 そんな訳で連休の予定にキャンプが組み込まれたのだった。

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