痴女の波動
「本当に、起きたら元に戻ってんだろーな?」
恭介は再び眠りについた姉の藍里をベッドに戻しながら、幽霊女に訊いた。
『はい、既に催淫効果は切れています』
「それならいいけど……」
『ちなみに先ほどの出来事は淫夢と認識しているので起きても夢として処理されます』
「ほ、ほぉ~……」
幽霊女は多少波長の合う女性であれば強制催淫により対象を淫らにすることができるらしかった。
『それで恭くん? わたしのお願いですが……』
「ああ、痴女探しに協力すればいいんだろ? つーか、恭くんって言うな」
『はい。では早速――えっ!』
幽霊女が突如、驚いたように跳ね上り、宙に舞い上がった。
「な、何ぞ……?」
『い、いえ、近くに痴女の波動が……』
「はっ?」
『すいません、もしかしたら見つけたかもしれないので、失礼します!』
そう言い残し、幽霊女は壁をすり抜け、藍里の部屋を後にした。
「……み、見つかった……って?」
痴女の波動――自身に見合う肉体が見つかったということなのだろうか?
それならもう恭介には用がないということだろう。
藍里はすやすやと気持ちよさそうに寝入っている。
恭介は藍里のタメにもあの幽霊女が再び戻ってこないことを祈りつつ、自室に戻ることにしたのだが……
「あ……あれっ?」
部屋のドアを開けた瞬間、幽霊の足がすーっと閉め切ったままのクローゼットの中に吸い込まれるのが見えた。
確か波長の合う痴女の許に向かったはずであるが、どういうことか?
クローゼットの中に身を潜ませる理由もないし、ただ通り抜けただけか?
「まあ、一応な……」
恭介は念のためにクローゼットを開け、中に幽霊女が潜んでいないか確認しようとして、
「!」
その瞬間、目が*となった。
完全に不意打ちだった。
「……し、失礼しますた」
恭介は表情を引き攣らせつつ、それだけ言ってクローゼットのドアを静か引いて閉めた。
「…………」
暫し茫然とそのまま固まる恭介。
「な……何で色葉が……」
お尻を向けた状態で、顔は見えなかったが、間違いなく色葉がそこにいた。
そして何故か下を穿いていなかった。
『いや~、ダメでした』
平然と、幽霊女がクローゼットの中から顔だけを覗かせた。
「お、おまっ……!」
恭介は幽霊女に食って掛かる。
「お前、何してんだ! 色葉に何しちゃってんだ!」
『色葉さんとおっしゃるんですか? 痴女の波動がしたんですが……ダメでした。中に入ろうとしたんですが弾かれまして……その影響で、催淫効果がちょぴっとばかし働いてしまったようです』
どうやら幽霊女のせいで色葉の欲求が暴走した結果らしかった。
「これ……大丈夫なんだよな? 催淫効果とやらが切れたら夢みたいな扱いになるんだよな?」
『はい。そうなります』
「そ、そうかよ。だったら……」
よくはないけれどもう仕方ない。
兎にも角にも恭介は、この悪霊を早急にどうにかせねばならないと思った。
「じゃあ行くぞ?」
『はい? どこにです?』
「痴女力が高い女を探してんだよな? 俺、痴女の知り合いが一人いたの思い出したんだ」
『ほ、本当ですか?』
「ああ、成仏できるように協力してやんよ」
恭介は、この悪霊をとっとと成仏させてやることに協力することにした。
「ねぇね、起きて? ねぇね……?」
恭介は藍里を優しく揺さぶり目を覚まさせる。
「う~ん、おはよー、恭くん?」
「起こしちゃってゴメン。あんま寝ると夜眠れなくなるかと思って」
「うん、いいよ、なんかもうスッキリしたしー」
「そうか……よかった。じゃ、じゃあさ、ねぇね? ちょっとだけ付き合ってもらっていいかな?」
「えっ? つ、付き合いたいって……お姉ちゃんと男女の仲になりたい……と、そう受け取っていいの?」
「いや、いくない……寝惚けるのも大概に。一緒に外出したいってこと。ダメならいいんだけど?」
幽霊女は誰かに憑りついていないと遠出できないとのことで、目的地まで藍里か色葉に憑りついてもらう必要があったのだ。
そして藍里はちょっぴり残念な顔をしつつも、
「ああー、そっちかぁー……お姉ちゃん、がっくり」
「……ダメ?」
ダメなら色葉を誘うしかないわけだが……
「ダメじゃないよー。ちょっとがっかりしただけー」
「そうなん? じゃあ、下で待ってるから準備できたら降りてきて」
恭介は言いながら、部屋を出る。
「え~と、気分は……どう?」
着替えて玄関前まで降りてきた藍里に、しっかりと憑りついている幽霊女をチラ見しながら恭介は訊いた。
すると藍里はふらりとよろけるような仕草を取って、
「ああ、うーんと、お姉ちゃん、あんまよくないかもー」
「えっ? マジで?」
幽霊女の話では、藍里に憑りつく前はエネルギーやらが足りずに藍里から生気を吸収したため、姉は脱力したという。
しかし今のところ幽霊女は生気を吸う必要はないということであったが……
「うん、だから恭くん……腕かしてー」
藍里は言うと恭介に寄り添うように腕を絡めてきたのであった。
「…………」
恭介は、藍里の笑顔と幽霊女の顔を交互に見比べる。
正直、普段通りな気がするが、憑りつかれているのは事実であり、何かしら違和感や不調を肌で感じている可能性はないとは言い切れなかった。
「ま、まあ……いいや。もうそれでいいか行こう」
恭介と藍里は恋人同士のように寄り添いつつ、家を出た。
「……人の目とか! やっぱ、あんまひっつくのはさー」
「いいじゃん。仲のいい姉弟なんて恋人も同然だしー。それより恭くん? これからどこに行くのー?」
幽霊女を成仏させるために藍里に協力してもらうわけだが、それを言うとややこしくなりそうで、まだネタバレするわけにはいかなかった。
「あー、うん。まあ……散歩……目的地があるっていうか……まあ、ちょっとそこまでって感じの」
「ふーん? まあ、いいやー、いこー」
藍里は更に恭介に寄り添いつつ言ったのだった。
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