ぺんぺん

「あっ! ご、ごめん……なさい! い、今のなし! じょ、冗談! 冗談だから!」


 おしっこの件について、慌てて訂正してくる結愛。

 まあ、さすがにそんな真似をするわけないからそりゃそうだろう。


 恭介は口を拭い、ティッシュで床を拭きつつ、


「や、やめてくれよ……そういう冗談は……びっくりするわ」


「う、うん……ごめん……なさい。い、一応確認してからの方がいいかな……って思って」


 結愛はそこで頬を染めて、


「パンツ脱いで水筒に跨るとこまでしかしてないから……大丈夫……だよ?」


「えっ?」


「だ、だからその……せ、瀬奈君が入れて欲しいって言ったら……わ、わたし……入れてもいいかなって。な、何なら入れてるとこ見ててくれて好きなところでストップって言って調節してもらってもいいし……」


 恭介はもじもじしながら言って来る彼女に眉を顰めつつ、


「も、もしかして……ほ、本気で言ってる?」


 すると結愛はハッとなって、


「あっ! ううん、も、もちろん冗談だよ!」


「……だ、だよね?」


 一瞬、本気なのかと思ってしまった。


「ご、ごめんなさい……今日、色々と……空回っちゃって……その……怒った?」


「いや、別に……ただ変な嘘は止めてくれって」


「そう……だよね? 怒るよね? こんな料理もできない彼女なんて……」


「いや、そこは怒ってねーけど?」


「だったら瀬奈君? しっかりとその……叱ってもらっていい?」


「んっ? だから怒ってはないけど?」


「ううん、そ、それじゃあわたしの気が、お、収まらないし……」


 結愛はそう言うと、なぜか部屋のカーテンをしゃーっと引いた。


「えっ? 何してんの? 何でカーテン閉めてんの?」


「う、うん……外からは見えないと思うけど……ぱ、パンツ脱ぐから……一応」


 その発言に慌てる恭介。


「えっ? ちょ……ぱ……ぱ……パンツ脱ぐって、ど、ど、どうして!」


「し、叱ってもらうから……脱がないと?」


 さも当然と言わんばかりの結愛。


「いやいや、おかしいよね? 叱ってもらうのにパンツ脱ぐ必要ないよね?」


「で、でも……お尻叩くならパンツ越しより生の方が……その……瀬奈君もいい……よね?」


「ん、んんっ? お尻を叩くって……」


 唐突に彼女は何を言っているのだろうか、恭介は途轍もなく嫌な予感がして、


「あの……結愛ちゃん? もしかして色葉から何か変なこと吹き込まれてない? その……お尻叩きについて?」


「えっ? べ、別に……ただ、瀬奈君がお尻を叩くが好きってことしか聞いてない……よ?」


「うん、違う。違うよ。それ誤解……誤解だから」


 色葉と結愛は恭介に関しての情報を共有しているという話は聞いていたが、やっぱりであった。


「か、隠さなくても……わ、わたしは引いたりしないから……好きに叩いてもらって……わたしも叱ってもらわなきゃだし……お尻を叩いてもらえれば瀬奈君も満足できて、一石二鳥……だよね?」


 恭介は表情を引き攣らせる。


「いや、ほんと……あれは寝惚けて叩いただけだからさ」


「う、うん……わ、わかった……で、でも、わたしのお尻は……叩いて? こ、このままお咎めなしじゃ、わ、わたしも……帰れないし……だから、叩いて? う、ううん。し……叱って?」


 結愛が瞳を潤ませ、上目遣いで懇願するように言ってきた。


 別にお尻を叩きたいというわけではないが、お尻を叩かれることで今日の失敗が気持ち的に和らぐというのであらば、彼氏として結愛の小振りなお尻を叩いてあげるのが優しさというものではないだろうか……?


「あっ……でも……ダメだ。やっぱ……」


 彼女のお尻を叩くには、一つ問題があった。


「えっ? な、何が……ダメ……なの?」


「いや、なんつーか、もしかしたら、部屋が濡れちゃうかなぁ~……って」


 結愛は恭介に触れられるとお漏らしをしてしまうことがしばし。

 お風呂場でならばまだしも、やはりここでは無理かなと思ったのである。


「そ、そうか……だ、だよね?」


「う、うん……何なら――」


 風呂場に場所を移そうかと言い掛けて止める。

 結愛の方がそれでトーンダウンしているようだし、今回はそれを理由に断るべきかと思ったのである。


 やはり女性の生尻を叩くのは少々抵抗があった。


「わ、わかった……い、今から準備するね、瀬奈君?」


「んっ? 準備って……あっ?」


 紅潮した表情で気張る結愛に恭介はハッとして、


「も、もしかして……してらっしゃる?」


「う、うん……」


 結愛は気恥ずかしそうに頷いてから、


「こ、これで暫く……大丈夫だから、叩いてくれる……よね?」


 彼女は前もってオムツに排尿することにより、その危険性も排除したのである。


 そして結愛はスカートの下からオムツを脱ぎ去り、ずどっと重量感が増したそれを床に落とした。

 彼女にここまでさせたのだ。


 男として、そして彼氏として、もはやそれは断れないと恭介は思った。



          ◆



 昼食後、とろんとした目つきで歯磨きをする色葉。


 彼女は昨日、恭介の部屋に監視カメラを設置した。

 彼女とはいえあまりよろしくないことは承知している。


 目的は、おちんちんを弄っている映像だ。

 それを入手できたら、すぐにカメラは撤去する予定であった。


 昨夜は時間帯的におちんちんを弄ることはないのは分かっていたが、おちんちんを弄っている映像が今日にでも入手できると思ったら興奮してなかなか寝付くことができなかったのである。


「ふぁ~あ……」


 欠伸をしながら伸びをする色葉。


「部屋に戻ってもう一度寝ようかな……」


 恭介がおちんちんを弄るにはまだ早い時間。

 色葉はそれまで横になることにしたのだが……


「あ……れっ?」


 窓の外――恭介の部屋が不自然に感じられた。

 遮光カーテンが閉め切られているように見えたのだ。


「と、と、いうことは……」


 盲点であった。今日は休日だ。いつもと違う時間帯におちんちんを弄っていても不思議ではなかった。

 一気に目を覚ました色葉は、慌ててスマートフォンを取り出し、恭介の部屋に設置したカメラの映像を見やって――

「えっ……」


 目が点となった。


 何故なら恭介が、膝に抱えるように乗せた結愛、そして彼女が曝け出した生尻をぺんぺんと叩いていたからである。

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