色葉、おしおきされる。

 色葉は自室の窓から顔を出し、外を見やる。

 人の気配はない。今のうちである。


 色葉は屋根伝いになるべく音を立てぬように、恭介の部屋に向かう。


 こんな真夜中に屋根の上を移動しているのはかなり怪しい気がするし、通りがかった人に泥棒として通報されると困ることになる。

 しかし周囲には人の気配がないので大丈夫のはず。


 とにかくとっとと恭介の寝室に潜り込まなくてはならなかった。


 そして恭介の部屋の窓の前までたどり着くと窓に手を掛け、鍵が掛かっていないことを確認した。


「こ、このまま……慎重に……」


 色葉は息を呑み込み、窓ガラスをゆっくりとスライドさせる。

 恭介はまだ眠っているだろうか?


「お、お邪魔しま~す」


 口の中で言いつつ、色葉は恭介の部屋に忍び込む。


「ふ、ふぅ~……」


 恭介はベッドの上ですやすやと寝息を立てている。

 この状態ならおちんちんを弄れるだろうか……?


 無理だ。


 恭介が帰宅してすぐに横になっていたとしたら、もういつ起き出してもおかしく無い頃合い。

 そんな状態でおちんちんを弄ろうとしていたことがばれたらただの変質者ではないか?


 いくら彼女だとしても、それはさすがに許されないだろう。


 ならばキスはどうだろうか?


 色葉は恭介の彼女である。

 仮にキスした途端に目が覚めたとしても、目覚めのチューということで乗り切れるはずだった。


 結愛だって恭介と何度かキスをしている。

 よって色葉もしていいはずであった。

 結愛とはその辺の情報を交換しあって、互いに同じことをしようと約束したのである。


 そんな感じでキスさえできれば例え恭介が目を覚ましてしまっても、それをお持ち帰っていろいろと捗るというもの。

 本当は恭介のパンツに手を突っ込んでおちんちんを弄りながらキスしたいが、今回はキスだけ、あくまでキスだけして逃げ切ることにした。


「で、でもちょっとくらいならおちんちんも……」


 既に頭の中はおちんちんのことでいっぱいになりつつあるが、


「ダメ! とりあえずチューだけ。おちんちんは弄らない。今回は弄らない……」


 色葉は口の中で繰り返して自分に言い聞かせつつ、ベッドで寝入っているであろう恭介の寝込みを襲うべく、忍び寄る。

 暗がりに薄っすら見える恭介のシルエット。 


「今回は弄らない……今回はいじ……弄る? いや、弄らない」


 その考えを払拭するように頭を振りつつ、頭をこちらに背を向けている恭介に近づく。

 さてどうするか?


 キスのために顔を無理やり向けさせようとすれば起きてしまうかもしれない。

 やはりベッドに自身も乗っかりチューするしかない。


 その前に服を脱ぐべきか?


 いや、恭介が目を覚ました際、全裸になっていたらただの変態と思われてしまう。

 今日はあくまでキスだけなのである。


 色葉は改めて息を呑み込み、唇を潤すように舐める。


 そして鼻息荒く、ベッドの上の恭介に跨ろうとしたその時――


「!」


 恭介ががばっと跳ね起きたかと思ったら、そのまま色葉にタックルをかまして来た。


「きゃっ!」


 小さく悲鳴を上げ、ドサッと尻餅をつく色葉。

 痛がっている間もなく、恭介が色葉の穿いていたパジャマとその下のショーツに指をフックさせてきた。


「えっ?」


 このままでは脱がされるとそう思った。

 色葉は恭介に恐怖を感じ、激しく抵抗した。


 しかし抵抗むなしく、恭介はそのまま彼女のパンツをずり下げる。


「い、いやぁっ!」


 暗闇でシルエット程度しか見えないとはいえ、ぺろんと生尻を露出していたら恥ずかしくないわけがなく、更に抵抗した。


「こ……こりゃ、暴れんなし!」


 ぺちぃぃん!


「きゃぅぅぅん!」


 軽く引っぱたかれ、お尻の肉がプルンと震わしながら変な悲鳴を上げる色葉。

 もう訳が分からなくなっていると、そのままショーツはするりと脱がされていた。


「こ、こんなの恭ちゃんじゃない……」


 なぜか急にぽろぽろと涙が零れてきた。


 恭介にお尻に暴力を振るわれたのは初めてだった。

 いや、お尻以外にも暴力は振るわれたこともないし、言葉の暴力すらもらったことはなかったのである。

 なのにどうしてこんなことを……?


 頭が?マークでいっぱいになっていると、ガチャリと唐突にドアが開いて、若干の光が差し込み、


「恭く~ん? 起きたの―?」


 と、眠そうな顔をした藍里が顔を覗かせた。

 どうやらドタバタやっていたので起きてきてしまったらしい。


「えっ? あっ……」


 恭介は色葉を背中で隠すようにして、姉の前に躍り出た。

 色葉も身体を小さくして、口を押えて泣き声が漏れないようにする。


「お、起こしちゃった、ねぇね? 騒がしくしてごめん……静かにするね?」


「うん……いいけど、お母さんがね、恭くんが起きたら食べるように夜食用意しておいてくれたから、もし食べるなら食べちゃっていいからねぇ~」


「ああ、うん……ありがと」


「う~ん、本当は恭くんに付き合ってあげたいけど……」


「ああ、いい、いい! おやすみ! おやすみ!」


 恭介は強引に藍里を部屋から押し出すようにして、


「ほんとに起こしちゃって、ごめん。ゆっくり寝ちゃって」


「う~ん、じゃあ……おやすみ」


「おやすみー」


 恭介は慌てて言うとパタンとドアを閉める。

 そして藍里が遠ざかるのを待ってからか、ら色葉に向かって、


「反省した……か?」


 と、訊いてきた。どうやら彼女とはいえ不法侵入してきたことに激怒しているらしい。


「反省してんなら、このパンツは返すから」


 恭介は諭すように言いながら、パチンと電気を点け、部屋に明かりが灯される。

 色葉はハッとなるが、恭介はこちらに背を向けていて、


「ふ、振り返るぞ?」


「あっ、まっ……」


 色葉は慌ててシャツを下に引っ張って、見られては困る部分を隠す。


「えっ?」


 すると恭介はびっくりしたように、目を白黒させていて、


「い、色葉! お、おまっ……何で?」


 まるで想定外のような顔付きをしていたのが不思議であったが、


「……ひ、ひどいよ、恭ちゃん。確かに勝手にお邪魔したのはごめんなさいだけど、パンツ脱がしてお尻叩いてくるなんてさ」


 と、色葉自身にも非はあるが、恭介にも非はあると言わんばかり涙目で訴える。


「ち、ちが……間違え! お前だと思わなくって! 何で……いや、ホントに!」


「ま、間違えってどういうこと?」


 そこで色葉はハッとして、


「ね、寝ぼけてて結愛さんと間違えたの? 結愛さんにはこういう乱暴なことしてるの? 色葉にはしないのに、結愛さんのお尻でパーカッションしてるの?」


 まさか恭介にそんな趣味があるとは思わなかった。


「し、してねーし」


「嘘! 結愛さんのお尻でパーカッションしてるなら、色葉のお尻でもしてよ!」


「いや、してねーから……そ、そもそも何で勝手に俺の部屋に忍び込んでんだよ?」


「うっ……それは……恭ちゃん今日元気なくて電話しても出ないし、帰ってすぐ寝ちゃったみたいだから……そろそろ起きる頃かなって……彼女だし……いいでしょ? っていうか、パンツ返してよ!」


 と、色葉はそこで話を無理矢理にでも終了させるべく、切れ気味に言った。


「あ、ああ……ごめん」


 恭介は頬を染め、ショーツを放り投げるように色葉に返して、彼女に背を向けた。


「とりあえず色葉……ねぇねに気付かれるとアレだから……その……今日のことは忘れて帰ってくれやしないか?」


「う、うん……」


 色々と釈然としない部分もあるが、色葉も不法侵入した身であり、今日の所は素直に恭介の言葉に従い帰ることにした。

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