Cルート編

みっしょん

 朝、教室に入ってきた恭介の姿が目に入ると、色葉は自身の席で小首を傾げた。


「体調……悪いのかな?」


 長年恭介のことは見ているが、今日の彼は、顔色も優れず、ぐったりと疲れているように見えたのである。


「どうしよ……」


 色葉は彼に声を掛けに行くか迷った。

 学校では恭介との関係を明かしておらず、恭介と話していて素が出てしまうのを避けるため、なるべく距離を取って接していたのである。


 そんなわけで席も少し離れているし、今回はどうしようかと迷っていると、朝倉もその異変に気付いたようで、


「何だ? お前……ひどい顔してんぞ?」


 と、恭介に声を掛けた。


「ははっ……ちょっと寝れなくて」


 どうやら寝不足らしく、乾いた笑みでそう答える恭介。


「ほぉ~、夜遅くまで何だ? ゲームでもしてたのか?」


「あ、いや……レンタルしといた海外ドラマを見てた……的な? 何か……止めれなくてな」


「何だ? そんなに面白かったのか?」


「ああ、まあ――」


 色葉はそのまま二人の会話に聞き耳を立てていたのだが、


「おはよ~、色葉ちゃん」


 言いながら唐突に色葉の視界に割り込んできた彼女にそれを遮られる。


「あ、おはようございます。依子さん」


「あの二人がどうかしたのー?」


 どうやら気にしていたのがばれてしまったらしく、依子が恭介たちを横目に訊いてきた。


「い、いえ……何でもありませんよ」


 と、色葉は依子に真っ直ぐ向き直り笑顔を向ける。

 まあ、恭介の方は体調が悪いというわけでないようだし、これ以上の心配も不要だろう。


「ふ~ん。まあ、いいや~、えっ~とさ、色葉ちゃん……」


 と、特に疑う様子もない話を続ける依子に合わせて会話を続けることにしたのだった。



          ◆



 恭介は、学校に来てから一日中うつらうつらとしていた。


 眠気がピークに達したのは、昼食すぐ後でお腹が満たされた数学の授業のことであった。


「あんっ?」


 それ気付いた数学担当の山下が片眉をビクンと吊り上げる。


「お~い、瀬奈よ?」


 しかし反応はなく、恭介は舟を漕ぎ続ける。

 すると隣の千里子が気を遣って、


「瀬奈君、ちょっと? ちょっと?」


「んっ? えっ?」


 恭介は、そこでジトッとした山下の視線に気付くと一気に覚醒して、


「あっ!」


 と、ピンっと背筋を伸ばした。


「瀬奈ー、俺の授業はそんな退屈かー?」


「い、いえそんなことは……ないっす」


「そうか……そりゃよかった。なら再開すっから最後まで起きてろよー」


「は、はい……」


 そして恭介は、今度はしっかりと目を見開いた状態のまま、数学の授業を終えたのだった。




「あー、つ、疲れた……」


「バーカ、だったら端から休んどけ」


 と、朝倉。


「いや、そういうわけにも……なあ? とにかく今日は家に帰ったらすぐ寝るよ」


 恭介は伸びをしながら言った。


 まあ、実際は帰りに寄り道していかなければならない用もあり、すぐ帰って眠るというわけにもいかなかったのだが……



          ◆



 色葉が帰宅して、テスト勉強に時間を割いている頃合いである。


 自転車の音にふいに窓の外を見やれば、恭介が今帰宅した様子が窺えた。


「あれっ? 今帰ったのかな?」


 今日は一日中眠そうに過ごしていたため、色葉より先に帰宅して眠っていると思っていたのだ。

 しかしその認識は間違っていたようで、どうもどこかに寄り道をし、色葉より遅れて帰宅した模様であった。


「そっか……じゃあ今から寝るのかな……」


 あれだけ眠そうにしていたのだから、これから眠るのは間違いないだろう。




「……って、い、いつまで寝てるのよ?」


 色葉はやきもきしながら部屋の置時計を見やる。

 向いの窓から少量の光も漏れていないということは、帰ってから今現在まで深い眠りについているということ。


 これは困った。


 いつもならお風呂に行く時間帯を見計らって部屋に侵入し、手早く済ませて戻るわけだが、今日はいつお風呂に行くか不明であり、そのタイミングが計れなかった。

 いや、そもそも今日はお風呂に入らないかもしなかった。


 これは非常にまずい。

 今日は恭介の部屋でオナニーすると決めていたのに、予定が狂ってしまった。

 これでは深刻な恭ちゃん不足が発生してしまう。


 どうしよう。


 とにかく色葉は、部屋の明かりがつき、恭介が動くまで待つことにした……


「って、本当にいつまで寝てるのよ! もう明日になっちゃうじゃない!」


 むらむらしながら色葉は待ち続けたわけだが、恭介の部屋窓を監視続けた限り、一度も起きた様子は見受けられなかった。


「ううっ……」


 我慢に我慢を重ねていたが、今すぐ恭ちゃんの匂いを感じつつオナニーをしなければ明日の学園生活に支障が出兼ねないレベルだ。


 もうこうなれば部屋に侵入してこっそりオナニーして帰ってくるしか道はないだろう。


 時刻はもうすぐ午前零時を回って日付が変わろうとしている。今日の恭介の彼女は姉の里緒奈。

 そして零時を回れば自身であった。


 つまり例え不法侵入が見つかっても、昨日体調が悪そうであったので、彼女としてお見舞いに行ったということで乗り切れるはず。

 更に言えば、もし恭介が深い眠りについてぐっすりと眠っているなら、パンツを下して、おちんちんを弄っても見つからない……かもしれなかった。


 まあさすがにそれは無謀なので、全裸になってオナニーするだけに留めるのが無難であろう。


 兎にも角にも、色葉は即座にそのオナニーミッションを実行することにした。

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