第13話 わたしたちのレール
春の陽気が感じられる、そんな日だった。
「え、鉄研キラ総裁が行方不明!?」
原作 Junichi YONETA
「ええ! いつもは、こんなことないのに!」
製作 北急電鉄
「部室にも、学校にもいません!」
協力 追兎電鉄
「薄々、嫌な予感はしてたけど」
協賛 山岸技研
「でも、キラ総裁だから、大丈夫なんじゃない?」
協賛 奇車會社近畿
「いや、ああいう人が一番心配。だって、何するかわかんないもの」
協賛 奇車會社筑波
「だけど、このへんな文章と改行、何?」
製作著作 米田淳一/「鉄研でいず!」製作委員会
「アバンタイトルの代わりだって。アニメの最終話はアバンがかっこいいって」
「作者、相変わらず、やることがわけわかんないわね! 小説でそんなのやっても意味ないのに!」
「ともあれ、部室に緊急集合!」
「そういや、副総裁って、御波ちゃんだったね」
「そうよ! 自分でも忘れてたけど」
最終話
第13話:わたしたちのレール
「どこ行ったんだろう……食堂サハシにもいないし」
「ほかにも模型店とか撮影地とかいろいろ問い合わせたけど」
「書き置きもないところが心配よね」
「そうそう。それに、総裁の時々見せる狂気がすごく心配」
「総裁、どっかヘンだもんー」
「華子までそう思ってたの」
「まさか、中の人が出てきちゃったとか! 『イリュージョーン』、って」
「『ふなっしー』じゃないんだから。でも、なんか、それを完全に否定出来ないのが困ったわ」
「でも、なんでよりによって、この日に」
「日?」
それに、カオルが気づいた。
「もしかすると!」
カオルは確認のために、部室内の鉄道雑誌のライブラリに向かった。
不安
皆、カオルの話で、海老名から列車に乗った。
「間に合うといいんだけど」
「いや、間に合わせるのよ」
「ああ、こういう時に限って電車が遅く感じる! パンタグラフ半分下がってるんじゃないの!」
「今からこの電車、種別変更して快速特急とか、超快速になってくれないかしら!」
「それは無理よ!」
「ああ、でも総裁、無事かなあ!」
「キラ、一人でいるときがないから、一人になったらどうなってるかと思うと」
「やだ、それ、ぞっとするじゃない!」
「あの総裁がいるから、私達、この1年を楽しく過ごせたのに」
そのとき、ふっと、みんな、思った。
「……これ、もう、ぜんぶ終わっちゃうのかな」
みな、だまりこんだ。
電車は、静かに走り続けている。
他の乗客も、いつもどおりに、スマホをいじったりして、静かに過ごしている。
「総裁次第、かな」
みんな、言葉が途切れだした。
「そんなの、やだ」
でも、みんな、言葉がうまくつながらない。
「また、『だまりゃ!』とか、『さふである』っていうの、聞きたいよね」
「そうよね」
「もう中毒みたいになっちゃったけど、総裁のあの実行力で夏のコンベンションも出られたんだし」
「そうよね」
「私たち、総裁にいろんなことしてもらったけど、わたしたちは、総裁になにかしてあげられたかな」
「キラ総裁……!」
「……うわっ、それ、フラグよ!
フラグがたっちゃったわ!」
「ダメ!」
「フラグ、ダメ! ゼッタイ!」
乗換駅に付き、そのコンコースを降り、列車を乗り換える。
「足元に気をつけて。こういう時こそ、安全第一で」
「そうね。ちゃんと目的地につかなきゃ、意味ないもんね」
「『輸送の使命は安全である』、って総裁が教えてくれたねー」
「総裁、ぜったい昭和のおっちゃんが中に入ってると思ったけど」
「そうじゃないのかもしれない」
「まさか、キラ総裁の正体、宇宙人とか、未来人とか、ロボットとか、そういうの?」
「そういう、いかにもの安いもんじゃないと思いたいけど」
「でもねー。私達からの著者への信頼度、正直、ゼロだからねえ」
(著者)ほんと、すみません……。
「とはいえ、総裁、どっか、いっちゃうのかな」
「いかないわ。わたしたちの総裁よ」
「そうよね」
その時、みんなは、コンコースで見慣れた顔を見つけた。
「あら、あなたたちも?」
「その声は!」
「夏旅行の第9話から、またまたぜんぜん出番のなかった、ライバル・森の里高校鉄研部長の、美里さん!」
「また読者に大激怒されるご紹介ありがとう。ふんっ!」
美里は頭から湯気を吹きそうに激怒している。
「でも、キラ総裁には私達も借りがあるわ。
一緒に捜しに行くわ」
彼女は森の里高校の鉄研部員たちを引き連れている。
「じゃあ、おおよその行き先は」
「わかるわ。わかる。
だって、私達、鉄道ファンが忘れてはならない場所の、一つだもの」
そして、都心ちかくの、大きな乗換駅についた。
運命の駅
「この駅よね」
みな、駅を降りた。
「ええ。
何年前だったかの今日」
みな、線路脇の道路を歩きながら、思い出していた。
「朝の通勤通学ラッシュが終わりかけた時だった。
この駅の東京方の区間では、地下鉄のトンネルから上がってきて、駅に入って地上線に乗り入れる地下鉄列車と、地上線の私鉄列車が、しばらく並走する。
その日も、いつもの朝の風景だった。
いつもの、ラッシュが終わる時間帯。
その並走する地下鉄の電車の台車の重心が、ひどく狂っていた。
それはあのころ、検査の項目に入っていなかった。
そして、最後尾の車輌の台車が、車輪と線路の摩擦係数などさまざまな要因で、そのバランスを完全に崩して、脱線しようとした。
そして、今の基準だったら設置されるはずの護輪軌条も、そのときはなく、脱線は阻止できなかった。
脱線したことに運転士は気づかなかった。
当時はまだ、それを知るセンサーもなかった。
でも、車掌は気づき、すぐに車掌弁を引き、非常ブレーキをかけた。
だが、それよりさきに、併走区間の地上線と地下鉄線の工事用の渡り線がやってきた。
車輌は渡り線に車輪を横どられ、車体はそのまま並走中の列車に真横から激突した。
そして、当時最新のシングルスキン構造の車体は、その衝突には、あまりにも脆かった。
車輌は大破した。
その結果、死者5名、負傷者63名。
この事故によって保線関係者が5名送検されたけど、あまりにも当時の時点で未知なことが多すぎ、責任を問うことはできないと、不起訴になった」
「あのこと、調査が終わるまで、ずいぶん時間かかったわね」
「ええ。しばらく『謎の脱線』と言われたし、いろんな『自称』鉄道専門家が勝手なことを言いまくった」
「そう。忘れないわ。
事故は人数じゃない。『何人の犠牲者』じゃなくて、『一人の犠牲者』が何人もいるの。
その悲しみに、胸が潰れそうになる。
あれからあと、車体構造の改良、護輪軌条の設置方法の改善、台車構造の改善と台車検査項目の追加、何もかもが変わった。
もちろん、鉄道に関心のない人にとっては、目立たない改良でしかない。
でも、改良は、今もなお、着々と続いている。
その事故の慰霊碑は、この東京方の線路脇に作られてたはず」
向かうと、蕾の膨らんだ桜に包まれるような木立の中に、白い天幕がはられ、慰霊祭の看板が立てられ、読経の声が聞こえていた。
「やっぱり」
鉄研のみなは、制服姿でここに来て、よかったと思った。
学校の制服は喪服の代わりにできる。
並ぶ鉄道職員の制服の列。
そして、遺族らしき人々の列。
みんなも続いて献花しようと思ったが、その時間もなく、慰霊祭は終わった。
そのあとの会場に、キラ総裁と、海上自衛隊の制服を着たキラのお兄さんらしき人物がいた。
「総裁!」
「うむ」
キラは、うなずいた。
その向こうには、当時、この事故の事故調査と原因究明に尽力した、詩音の父、武者小路教授もいた。
「ご家族が、この事故に」
「うむ。
我が弟は、この地下鉄の列車に乗っていて、その幼い命を落としたのである」
「そんなことが」
「弟とは、ともに幼いながら、よく鉄道を見たり、乗ったりとテツ活動をしていた。
遠くにも、近くにも、電車で遊びに行った。
電鉄のロマンスカーの前展望の切符を買い、ゴールデンウィークの大混雑の箱根に共に遊びにもいった。
あの日、弟は、最後尾の車輌の、窓際にいた。
おそらく、並走する列車を見たかったのだろう。
それ故に、事故に巻き込まれた」
みんな、言葉もなかった。
「その弟はつねに言っていた。
『おねえちゃんの、電車に、乗りたいな』と。
それは、未だ、ワタクシの非力で、すこしも果たせておらぬ。
それでも、日々、考え続けた。
ワタクシが鉄道職員になることがその答えなのか。
いや、それでは、真の鉄道の理解と改善には、日常業務に惑わされ、たどり着けぬやもしれぬ。
そこで、思ううちに、気づいた。
まだ学生の今のうちから、経営や歴史を含めた考察と、それに関わることが必要なのだな、と。
だから、鉄研を作り、そのうえで」
「『鉄道王になる』」
「さふである」
「まさか、あの言葉にそんな意味が」
「未だに鉄道会社には、女性の経営者はほぼいないと言って良い。
経営がそうであるからこそ、それ以上の役職にも女性は進出しておらぬ。
私はそれを何とかしたい。
女性だからというわけではないのだ。
等しく、鉄道を真の意味で愛し、そのすばらしさを運営に活かせるようにしたいのだ」
「だから、『テツ道』を」
「そうであるのだな」
キラは、とおりすぎる列車を見送った。
長い髪を束ねた動輪の髪飾りが、青空の天空光を反射して揺らめく。
「でも、あの弟がいるからこそ、ワタクシは、この涙を拭って、前に進むのだな。
弟の望み、弟との誓いを叶えるには、寸時も足踏みしているわけには行かぬのだ」
「でも、それを、なんで私たちに言ってくれなかったの!」
「言うべき時を、迷っておった」
「迷う、なんて……」
皆、言葉につまった。
「同じ列車、同じ場所でとった写真でも、その風景は、どうやっても二度と戻ってこない」
その沈黙を破るように、華子が口にした。
「でも、それは当たり前。
私たちは、今も、こうして明日を作っているんだから。
私のお父さんも、撮り鉄に行く時、よく口にしてる。
明日は、みんな、どれもいい意味で白紙。
そして、いつまでも悲しんでくれ、って、亡くなった人は思わないと思う。
そんな了見の人は、天には召されないと思う。
だから、私は明日を作る。
この手で、このカメラで」
皆、涙を浮かべていた。
「だから、ボクはそれでも、また写真を撮る!」
ツバメも口を開いた。
「うん、私も乗る!」
詩音も言った。
「私も作る!」
御波も続く。
「私も調べる!」
カオルも無理に笑顔でいう。
「それが、私たちの『テツ道』、私たちのレールだから、ね!」
キラは、それに答えた。
「さふであるな」
頷くキラに、みんなも同意した。
「それが、わたしたちのレールなのだ。
わたしたちが、自分で定め、自分で敷いた、レールなのだ」
皆、涙しながら、頷いていた。
帰還
帰りの電車の中で、話は続いていた。
「さて、御波くん、君が思ふに、この話の終わりはどうしたものであるか?」
キラが、またいたずらっぽく微笑んだ。
「ハッピーエンド? なんか、それにしちゃ、どうにも」
「でも、これ、『おめでとう』エンドかなあ」
「いやいやいや、ここは『さあ、行こう!』エンドで第2期を!」
「とはいっても尺が合わないから、ここは劇場版を!」
「そんな! もう著者の体力はゼロよ!」
(著者)ほんと、すみません。
「でも、思いの外、みんなが読んでくれるようになったのは、嬉しいわね」
「いろんな人が、有形無形に手伝ってくれたからね。心から感謝よね」
「なんでいろいろな物語で、高校時代がネタになるのかというと、みんなが経験してるし、みんなそれぞれ、今から何とかしたかったなー、と思うからだと思うの。
でも、みんな、それぞれの時代、それぞれにその時の精一杯だったのね。多分。
もちろん、運悪く、ダメな学校、嫌な連中のせいで、高校をやめちゃう人もいるけど、時間の過ごし方に正解なんてない。
高校をやめたとしても、その生きてきた歴史に、ムダなんてない。
ムダだとしたら、ムダにならないことに単に、気づかないだけなのよ。
レール通りの人生なんてない。レールはどうにでも分岐するし、どうにでも曲がるから。
レールはどこにでもつながっている。
でも、レールは終わらない。
そんななか、時々、隣のレールがどこからどうつながっているかを見たくなる。それも当然だし」
「比較は人を不幸にするけど、でも、これは比較じゃないわ」
「そして、何があっても、まずそれを楽しみ、楽しくできればいい」
「それが『テツ道』だもんねー」
「そうね」
「とりあえず、部室に戻りましょう」
「うむ」
キラは、すこし間をおいた。
「黙っていて、本当に、すまなかったのである」
「いいんですよ。これはこれで」
「でも、無事、詩音ちゃんのお父さんたちのおかげで、2年生に進級できたし」
「そうそう、2年生になって、さらに鉄研活動!」
「うむ、それはもう計画済みなのであるな」
「新入生の募集も!」
「そうね!」
「またみんなでがんばりましょう!」
いつもの部室
そして、部室に戻ってきた。
「うむ、1年で、この部室も、すっかり我々にとって、居心地のいい部屋にしてしまったのだな」
「除湿剤もおいたし、捨てられてたソファも修繕して、買ってきたぬいぐるみとかとおいてるし」
「コンベンションに出したセクションレイアウトもある」
「引き取ってきた昔の時刻表とか、昔からの鉄道趣味誌でライブラリも作ったし」
「テレビもあるし。さすがにこれ以上、冷蔵庫まで置くのははばかられるけど」
「うむ、しかしそれも時間の問題であるな」
みな、笑った。
「みんなの『秘密基地』状態だもんね」
「そういや、カオルの将棋はどうなったのだ?」
「あ、大丈夫です。抜かりなく棋譜の研究、続けてますから。
鉄道の揺れと音のリズムって、ぼくの棋譜研究にいい感じなんです。
でも、将棋と同じぐらい、魅力的なものに出会えて、嬉しいのが正直。
もうちょっと、これを楽しんでから、全力で電王戦対策します。
まあ、でも人間のほうがまだ上だなと思うと、もうちょっと待っていいかなと。
先輩の棋士たちが、将棋ソフトのアルゴリズムをヨんで、罠にかけることがまだ出来ますからね。
ぼくが本気でやりあうには、将棋ソフトはまだまだですよ」
「すごい自信」
「これもキラ総裁と、みんなのお陰ですよ」
「そうなのかなあ」
みんな、笑った。
「食堂サハシはうまくいってるの?」
「ええ。少しずつお客さんが増えて。2階の座敷のレイアウトも復活させたいなあ、って」
「ツバメのお父さん、あいかわらず?」
「そう。年末の脱線事故でしんどかったけど、相変わらずの列車運転士よ。
でも、相変わらず、って、案外、いい言葉なんだな、って思うようになった」
「うむ、何事もない日常こそ、実は一番、維持するのが困難で、それゆえにありがたいのだな」
再び、みんな頷いた。
「よかったのである」
「そうね」
「ほんとうに、よかった」
「ええ」
みんな、感極まっていた。
「では、やはり、定番で〆るのであるな」
「ええ!」
みんな、円陣を組んだ。
「じゃあ、これからも!」
「せえの!」
「ゼロ災でいこう、ヨシ!」
〈了〉
鉄研でいず!女子高校生鉄道研究風雲録(改1) 米田淳一 @yoneden
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