34 一時終息
翌日、僕らは笑顔で、合格発表の帰り道を歩いていた。
試験の結果は勿論合格だ。全科目9割9分は取れていて、そして残りの1分も漢字のミスやら脱字など、ほぼケアレスミスと言っても過言ではないものらしい。ということはつまり、あの二週間だけで、膨大なテキストの内容を全てを覚えきっていたということになる。並々ならぬ努力があってこそだ。そりゃそうだ。その間この子は勉強、食事、勉強、食事、勉強、食事、勉強の生活を送っていた。
ちなみにお風呂とか歯磨きとか、そういった生活で当たり前のことはしっかりとしていた。物事を習慣化して行えるって凄いと思う。僕は父さんに言われないと中々行動に移せなくて、少し困っている。父さんの言葉が寧ろ動くための習慣になっている節があり、無意識に言われるのを待っている自分が居るのかもしれない。
中学生からは自主自立ってテレビか何かで言っていたし、来年度の目標にしよう。僕ならきっとできる。朝も一人で起きよう。ぐうたらせずに何かをやっていこう。
と、一人意欲に燃えていると、ベガが不思議そうにこちらを見てきた。えっと……何か顔に付いているのだろうか。
「さっきからニヤニヤして、どうしたんだ?」
「へ? ああ、うん。来年度の目標は自主自立かなって」
「え、ルイが?」
「うん」
「朝早起きして、夜天さんに言われなくてもお風呂や歯磨きするのか?」
「うん」
「へえ……――」
「――ま、頑張れ!」
「え、何その間」
ベガはどこで覚えたのか、ウィンクをしながらサムズアップをした。正直表面だけ見れば可愛らしいけれど、状況から嫌でも察してしまうが、餃子の皮にクル巻いた皮肉にしか見えないのだ。ベガだしそこまでドス黒いものが内にあるわけでは無さそうだけれど、ベガだし。信じてる。ベガだし。多分「絶対無理だろうなぁ」ぐらいには思ってるんだろう。でも僕は来年度で変わる! 僕は進化するんだ!! 見てろよベガ!
それからしばらく二人して黙って歩いていると、ベガが急に話しかけてきた。
「ルイ、あのさ」
「え、どしたの急に」
「……やっぱり正直に言うけど」
やけに神妙な面持ちをしていたため、こちらも思わず心配になってしまう。一体どうしたというのか。何かあったのだろうか……。僕はベガの話に心から意識を向けた。
「多分早起きは無理だと思うぞ」
「……心から意識を向けたら一気に胸を貫かれたよ」
帰ってから間もなくして、ベガは父さんにも電話をかけた。律儀にも早々に報告すべきだろうと思ったらしい。電話を済ませてからしばらく待った後に切っていた辺り、多分父さんが切るのを待ったのだろう。聞くと、相手に不快感を感じてほしくないがゆえに、自分もできる限り誠意を尽くしているということらしい。そんな僕の父さんにそこまで気を遣わなくてもいいのにと思ったけれど、それがベガの良さでもあるのだ。周りに対する思いやりが深いのは、本当に良い事だと思うし、ベガらしいと思う。
ベガは電話を終えた後からソファーに座っていたが、しばらくすると、眠りについてしまった。頭と身体、その両方の疲労は凄まじいものがあったはずだろう。勉強を二週間、それもほぼオールタイムでぶっ続け。加えてリガルスとの戦闘、そして……「ティリス」。あいつとも一応闘ったことになるし、その全てが緊張感に苛まれていた。それらの緊張から解放されたのだから、脱力してもおかしくはない。
でも丁度いい。これで、僕がこっそり進めたかったことが出来るってわけだね。
本当は、一緒に作ろうかなと思っていたけれど、こうなってしまった以上はサプライズにせざるを得ないだろう。寧ろ好都合かもしれない。
さあ、ベガが寝ている内に、ささっと準備を進めよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます