Dream3 仮面とベガ

    ★☆★


「さあ、お前の全力を叩きこんで来い」


 少し不思議な形をした―形状は「彼」の意志によって切り替わるらしい―剣を持つ、赤い長髪。顔に付けた仮面は鋼鉄で、口元より上を垣間見ることはできない。首元にも謎の機械が巻かれているが、その正体は良く分からない。


《高速移動》


 対してベガは走り出す。目にも止まらない速度で。

 ――なんてことだ。瞬間だ。瞬間的に、ベガは仮面の男の目の前に移動した。

 自動車並みのスピード……? いや、そんなもんじゃない!


「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」


 ぶん殴らんと言わんばかりの振りかぶりっぷりだ。

 これは当たる。間違いなく、一発大きいのをブチ当てることができる!


「――遅いぞ」

「んえ……?!」


 当たるかと思ったんだ。なのに、彼はベガの背後に回っていた。


「お前の全力は……」

「ぐっ……」

「その程度かっ!」


 彼が剣を大きく振ろうとしたその瞬間、ベガはニヤっと笑った。

 ベガには秘策があったのだ。


《高速回転:なぎ払い》


 なんと、自身の速度を回転に充てたのだ!

 これには予想外だったのか、相手もまた「ぐっ……」という声を出していた。


「オイラをナメてもらっちゃ困るな!」

「そうだ! 頑張れベガー!」


「フッ……いいな……」

「え、どうしたんだ急に」

「…………」

「お前、良く分からないな」


 互いが瞬間的に移動し合い、そして刃と拳でぶつかり合う。

 手に汗握る緊張感。

 刃がスレスレに通る恐怖感。


 互いが命をかけて戦っているはず、なのに……。


 どうして二人は楽しんでるの!?


《物質散乱:刃収納》


 彼の持つ剣は、重そうな柄を除いた刃の部分が全て、綺麗に消えてなくなった。

 そして、柄の部分を背中にある型のようなものに収めた。

 目的は何か。それは直ぐに解った。


 ――拳と拳の闘いだ。


 何が起きているのか、きっと誰にも分からないだろう。僕にだってわからない。

 勿論、ベガにも、そして仮面の男にも。


 力のこもったパンチ。

 それを受け付けない軽やかな回避。

 一息すれば、優勢劣勢も変わった。


 今、この海辺の上空は、闘技場だ。

 観客はこの僕、ただ一人。

 これは、命を賭けた闘いだと思っていた。

 でも、本当にそれが本来の目的なのだろうか。

 剣と拳での闘いであれば、命がけのものであったことだろう。

 そして、理不尽極まり無いものとなっていただろう。


 だが、今の二人は、どうだろう。

 まるで戦士だ。戦士の表情をしていた。

 同じような雰囲気で、同じような能力を使用している。


 とても、彼が敵だとは思えなくなっていた。


「隙有りだっ!」

「何だと!?」


『一撃でも当てた方が勝ち』


 その条件を提案したのは仮面の男だった。

 だが、拳を当てたのは――。


「てやぁッ!!!」

「ぐふ……!!」


 ベガだ――!

 やった! 仮面の男の背中に、その拳がついに命中したのだ!


 しかし、喜びもつかの間だった。

 何かが彼の背中から向かってくるではないか。

 何だろう。


 あっ――。


「「ルイ!!」」



 悲運なことだった。

 ベガが命中させたその場所から、先ほど収めたであろう重そうな剣の柄の部分が飛んできていたのだ。

 それは、僕の顔に直げき――。

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