17 命がけで家具屋さんへ

 この星を優しく照らす太陽!

 鮮やかな青空! 穏やかな風!

 ついに……ついに……!


「ついにこの時が来てしまった……」


 陽が頂点を過ぎた頃、父さんが手配したレンタカーに乗り、相棒のベガと共に後部座席へ。

 現在命をかけて、家具屋へと向かっています。


 レンタカーを待っている間も外に出ていた。外へ出る瞬間こそ異様な緊張感があったものの、ローテナリアが助けに来てくれることを信じていたためか、出てしまえばふと、ギチギチだった心はほぐれていった。彼女の守ってくれる範囲にある今は、リガルスが来る気がしなかったからかな。

 待っているその時に、ベガが試したいことがあると言って、それを実行に移した。上手いこと行かなかったみたいだけれど、僕は結構驚いた。こんなことが出来るんだなって思って。

 ……何というか、これがまたデジャヴなような気がしてしまったんだよね。本当に、どうしてだか。初めて見たはずなのにね。


 待つことしばらくして、父さんの乗る車が到着して乗り込むと、全身の毛という毛が逆立つような感覚に見舞われた。

 一つの「悪い予感」が脳裏をよぎったためだ。


「鈴香に言われたとはいえ、ルイは怯え過ぎだぞ」

「そうだそうだ。リガルスって奴が追ってきたとしても、このでっかい車さえあれば逃げ切れるはずさ」

「ただでさえ運転が荒っぽいんだからやめて」


 まあベガの言うことも、運転をしている父さんの言うことも一理ある。

 けれど、あのリガルスだ。あいつが何をしでかしてくるかが分からない。


 その獲物を狙ったような表情。獲物は逃がさんと言わんばかりのその表情を、僕は決して忘れることはないだろう。

 悪い予感……あいつは絶対に、僕たちを狙ってくることだろう。

 理由は単純だ。家具屋というのはこの町にあるわけではない。二つほど離れた、別の町の隅に存在している。そのため、ローテナリアの助けを借りることはできないだろう。彼女はあくまで、あの町でお兄さんの捜索をしているんだから。仮にもここまで来る方法も、僕らが彼女に助けを呼ぶ方法も、見出すことは出来ないだろうし、出来ない。


 これで誰かが助けに来ることも無い。


 リガルスにとって、これが絶好のチャンスとなってしまう。

 ローテナリアとは違って、奴は謎のワープみたいな技が使える。いつでも僕たちの所に来て、ハチの巣にすることができるのだ。恐ろしくて堪らない……。


『貴方たちは明日、どこかへ行くことになると思う。その帰り道に、貴方たちは立ち止まってはいけない』


 鈴香の声が反響する。

 恐らく、やって来るのは今では無い。まだ、心配していて良いのかもしれないけれど……。


「もし狙われたならアレを使うことにする。勝負に出るぞ」

「そんな……危ないよ」

「ルイ。他に打ち負かせるだけの方法があるか……?」


 返せる言葉が見つからなかった。

 そうだ。考えてみても、確かにそれ以外の方法なんて無い。

 それ以上に効率的に、あいつを追い返す方法……浮かばないや……。


「お前ら、考えすぎだぞー」

「「え?」」


 ハモってしまった。二人して脳裏にハテナが浮かんだってことだろう。


「その嬢ちゃんは、『立ち止まるな』って言ったんだろ?」

「確かに言ったけど……」

「そうですね……あ、もしかして」

「……?」


 ベガは何かに気が付いたようだけれど、まだ僕には言いたいことが掴めていない。

 というかこれだけで理解できるベガが凄い。


「そうだベガ、察しが早いな。車内では、『立ち止まる』行為をすることは無いだろ? だから俺たちは、車に乗っている限り、狙われることは無い!」

「「おおー!」」


 父さん、久しぶりに良い事言った!

 でも絶対ドヤ顔してる! 素直に褒めたくないっ!!


 言葉遊びなんだろうけど、でも、この言葉が結構心に安心をもたらした。なんだ、これなら不安に駆られる必要も無かったんじゃないか。ベガも同じような気持ちだったのか、真面目な表情もどこへやら、徐々に浮かれ調子に変わっていった。


 そして楽しく話すこと数十分。家具屋に到着した。

 ベガは興味津々に一つ一つ見て回っていく。

 真剣に考えているようで、話しかけて邪魔するのも酷なほどだった。


 邪念が入り、そして足が若干痛くなってきた頃に、ようやく全ての品物が決まった。

 ベガがセレクトした家具は、どれもシンプルだった。


 ベッド、デスク、本棚、タンス、ランプ……。


 結構カラーリングの強いものを選びそうだなと、勝手に思っていたのだけれど、別段そんなことも無かった。寧ろそのシンプルさにセンスを感じてしまう。


「自分の部屋が手に入るのって、凄くわくわくするものなんだな!」

「すっごい目がキラキラしてるよ」


 本当に楽しそうで、一つ一つのことで楽しそうにする様子を見ていると、こっちまで気分が良くなってくる。不思議だなあ。


 注文した家具は、トラックで運送してくれるようだ。


 店から出ると、少し離れた駐車場辺りに、何やら人だかりが出来ていた。

 ざわめきが酷い上に、人が多すぎて、何が起きているのかが分からない。


 けれど。


「何だ何だ。一体何事だ」


 父さんは不思議そうに見つめているが、僕は気付いてしまった。


「あそこって……ベガ」

「間違いない!」

「あ、おいお前たち!!」


 僕らは走って先に向かった。

 父さんの注意に、耳が行き届かなかった。


 予想が正しいなら、これは……。


「ひっ……」

「やっぱりか……! リガルス!!」


 そこでは、どこもかしこも穴だらけの、変わり果てたレンタカーが煙を吐いていた。

 思わず僕たちは、立ち止まった。


「待ってたぞ」


 瞬間――銃声が、鳴り響いた。

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