17話 異世界勇者の中学生

 そろーーーーりそろりと。

 今、二人の女子高生は息を殺して路地裏を通っていた。

 日も当たるわけがない。その薄暗い空間をまるで泥棒ネズミの如く、なるべく気配を消してその道を歩くので大分の力を使っていた。

「あっ、どうしよう夕陽ちゃん。くっくしゃみが……くしゃ……みっ、みが……へっ…へ…っへっっっっ!」

「くしゃみの一つ我慢しなさい! バレたらマスコミの餌食になるのよ? その両手でなんとかしなさいっ」

 


 ……必死で口と鼻を抑えた。

 


 さて。ちょっと過去にさかのぼってみよう。



 目覚まし時計を止め起床し。

 欠伸しつつも、いつもと変わらない朝を迎え。

 制服も着替えて、お母さんが夜に用意したであろうお弁当をカバンに詰め。

 玄関でちょっと窮屈な靴をコッコッと履き。いざ、学校へゴーぉ~! 

 と、扉を開けて広がる世界は。































 ――シャッターフラッシュで視界が無くなった。





 僅かに見えた視界からは……こんなボロアパートに何百人者のマスコミ関係者が詰め寄せ吐き気がした。


 それは一回戦を突破した後だった。


 帰宅し。重い足取りで夜ごはんの塩むすび一つを食べようと、ただいつも通りテレビのリモンコを手に取り。


 ――ピっ。


「『一部ニュース内容を変更してお伝えしています。本日、∞ドルを賭けた学生部門の対局において、とんでもない王様プレイヤーが現れました。それは謎の美少女。けれど実力はプロリーグ以上の力を持つ。そして……その女子高生の名は――葉田白子さん!』」


 ごはん噴き出した。


 何かの間違いだろう。そうだと言ってくれと神様に願って……再びテレビを見る。

「『この映像をご覧ください! 先程まで白旗を抱えていた少女は今瞳を変えそのまま駒を置き放ち――』」



 ピっ。



 思わずリモコンも落とし。

 力が抜けた白子はゆっくりと。

 そのまま……天を見上げ……。































「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~!!」


 と、盛大な溜息をぶつけた。


 どうやらこの私。葉田白子は全国で地上波デビューをしてしまったらしい。

 いつのまに撮られてたの? いやそもそもこんな誰一人も注目してない対局で誰が撮ってたの? 盗撮だよこれ立派な犯罪だよ。

 朝起きた時、一瞬だけ「あぁ……悪い夢だったんだ」と願ったけど。

 現に……今。

 カシャカシャカシャカシャ! と。

 無限に鳴り響く音。それはもはや真夏のセミ以上でして。



「葉田白子さん! 今世間を騒がしている自覚はあるでしょうか? そこについてお答えお願いします!」


「黒子さんとはどの様な関係でしょうか? 一緒に手を繋ぐ様な関係なんでしょうかー?」


「お答えお願いします! チョコはたけのこ派でしょうか? それともキノコ派でしょうか? お答えお願いします!」


「対局に挑む際の勝負下着を教えてくださーい」





 うーーん、出直して?





 何その心底どうでもいい質問の嵐。あと特に最後、それ答えると思ってるの?

 新入社員? ベテランだったら頭抱えるレベルだよコレ!?

 結局。どうやって学校へ行くか考えている内、その異常事態に無二の友人・夕陽の気転で部屋の窓から脱出したのはいいけど……二度とあんな木へ飛び移って地面に着地する登校はしたくない。心底そぅ思った。

 今もこうして何とかマスコミを巻いて登校している。登校している……が。

 まさか、こんな毎日コソコソしながら登校するのか? っと思うと、段々と憂鬱な気持ちになってきた。

「そんな凹んだ顔しないの白子。大丈夫よ、毎日マスコミが集まるんだったら

「それはやめて」



 もしそうなれば……。





 『速報! 現役女子高生、ラケット一本で群がるマスコミ一掃!? 全員意識不明の重体』なんて記事が出たら世界中のマスコミ群がるよ? ただでさえ『日本一不良か多い町=木更津』と不名誉な事謳われるのに。ラケット一本で女子高生暴れ回ったなんて広まれば『日本一ヤベー町=木更津』って塗り替えられちゃうよ最悪だよ。

 




 さて、そんな軽い脳内ツッコミをしている後。

 曲がる突き当りまで来た辺りか。

 そこで何も考えず、角を曲がった瞬間……に――立ち止まる。


 薄暗い細い路地。ただでさえうす気味悪い場所。


































 ――そこには。

 
































 ――ニコニコと笑みを浮べ。































 

 ――目元に包帯を巻かれた。































 

 ――車椅子に乗った少女が立ち止まっていた。






























「あらあらっ、初めまして私は」「「ぎぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁお化けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!?!?!?」」

 

 しか思えない。


 もはやパニック状態の二人。夕陽関してはラケットとボールを構えやけくそ状態。

「来るな! 来るなお化け……! 白子だけには手を出させないわよ!」

「ごめんなさいごめんなさいお化けさん日頃の行いが悪いからでしょうか生まれて来た事が悪いでしょうか申し訳ございません許してくださいこの白旗を見て下さいごめんなさいごめんなさい許してくださいお化けさんごめんなさい」

「お化けに土下座なんかして解決するわけないでしょ!? 少しは冷静になりなさい白子」

 下半身がガクブル状態でよくそのセリフが言えたよ。

「あらあらっ。私、生きてるんだけどな~……口で言っても信じてもらえそうには見えないから困ったわ~」

「わわわわわわわわわお化け喋ったぞぉぉぉぉぉぉ!? 何!? 私達食べられるの!? 丸のみされるの!?!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい命だけは許してくださいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごっごっごごごごこごごごごごごこ」

「最後バグってどうするの!? とにかく今は白子だけでも助かる方法を――」

 その時、何かに気付いた夕陽は。

 自らの腕に目線を移した時。


 お化けに掴まれていた。


 ぐいっ。

 

「いやぁぁぁぁ夕陽ちゃんを食べないでぇぇぇぇぇ!!!!」

































「はぐはぐ~♪」

 

 ……は?


 白子が目開くと。それは予想を反する光景が目に写っていた。

 食べられた……ではなく。

 ぎゅぅ~~~~っ! と、お化けにハグハグされていた。

「むぅぅ~~!?」

「落ち着いて。ね? はぐはぐ~♪」

 胸元で藻掻く夕陽。だが……徐々に大人しくなり。

 そして、されるがままに数分後。

「は~い、もぅこれでおしまい――ね?」

 っと、解放された暴君は。































 ……浄化された女神の顔立ちで立ち尽くす。


「あのーっ……夕陽ちゃん? 生きてる? 魂吸われてない?」


「マシュマロだったわ」


 どうしましたか?

 ましゅまろ? ……何が?

「マシュマロの世界って……案外悪くないわね。私もそんなマシュマロ――二つ持ってみたかったわ」

 悲報=友人がぶっ壊れました。

 何故その様な意味不明な発言をしたのか理解に苦しむ……マシュマロ食べたいのかな?

 そして何故死んだ顔して自ら胸を触ってるのか理解できないが……あまり深入りしない方がいいだろう。直感的に。


「お化けだったらハグなんて出来ないわ。だから、ね? 怖がらないで白子さん達」

「ごごごごめんなさい! 勝手にお化けって騒いで驚いてあのっ……って、私の事知ってるんですか?」

「あらあらっ、もちろんよ♪ テレビで聞いてた有名人さんが傍にいるって驚きなのに、話せるなんてもぅ夢を見てるみたいだわ」

 ふわふわとした雰囲気を全開で言う少女。

 薄ピンクのYシャツを着てスカートを履いていた。

 顔は整った顔立ち。肌も女子高生にしては綺麗なモチモチ感。

 セミロングの髪の毛からは少し距離があるものの、嗅いだことない心地よい匂いがする。

 して、何よりもその落ち着いた雰囲気。けれどその少し幼い見た目で判断するなら恐らく高校生だろう。

「ふふっ、たまには冒険してみるものね。路地裏なんて初めて通ったけど、まさか今世間を騒がす天才少女の、あの【∞ドルに最も近い女】なんて謳われる白子ちゃんに会えるなんて……あらあらっ、今日も良い一日が続きそうね」

「うっぷ!! ……夕陽ちゃん、吐いていい?」

「せめてファン一号の前では我慢しなさいよ……」

 

 その時。


 車椅子の少女はハッとし。

 何故か……腕時計へと手先を触れ。

「あらあら! もぅこんな時間なのね。もっと白子さんとお話したかったんだけど……残念ね。それはまた今度のお楽しみに取っとくわ」

「こんな私でいいなら……はい、またいつか会いましょう。えーっと……名前は……」

「『ころみ』よ。紹介が遅れてしまってごめんなさいね?」

「そんな謝らないで下さいって! 最初に聞かなかった私も悪いわけですしその……とりあえず改めましてよろしくね、ころみちゃん」

「はい、しろこちゃん♪ そういえばもぅ人方、お名前は……」

「赤橋夕陽よ」

 そぅ言うと。

 夕陽は見えないころみの手を取って、その行為、つまりは握手に気付いたころみも暖かく微笑み応じていた。

 そこはスポーツマンと言うべきか。自分か白子へ危害がないと判断したからこそできる行為だろう。病弱の子……ましてや両目を包帯で覆っている子にいつもの『閻魔後衛』の様な暴君状態で接してたらそれこそ絶縁している。

 逆に。そういう一面を知っているからこそ、今も夕陽と一緒に居られる理由の一つかも知れない。


「まぁこれも神様のイタズラだと思って……よろしくなマシュマロ」

「夕 陽 ち ゃ ん ?」

「あらあら! ニックネームなんて初めてだから嬉しいわ。ふふっ、怒って頬が膨らんだしろこちゃんも可愛いわ♪」


 ころみちゃん。それ、多分良い意味で取っちゃダメな奴だ。私の直感がそぅ言っている。

 

 して、軽く会話をした後。

 ころみはそっと、手を壁に触れ。

「短い間でしたが、とても心が晴れましたわ。しろこちゃん。そしてゆうひちゃん」

「また会いしまょマシュマロ。けど……この先の路地狭いし、車椅子でもギリギリの幅よ?」

「あらあら、それなら心配ないわ」






























 ――だって。
























「私には壁さんがいるから、大丈夫よ」


 ……?


 どうしてか……何故か。


 何故か――妙な違和感を覚えた気がした。


 が、それを遮るかの様に。


「ではまた」


 ゆっくりと。その車椅子が動き出し。

 それは歩く速さで……去っていく姿を見送った後。「ほらっ、行くわよ白子」っと、夕陽の言葉に引っ張られ歩き出す。





























 ……けれど、どうしてか足取りが重かった。


 先ほどまで記憶。ころみと出会ってからの僅か数分間を思い返す……けれど見つからない。

 確かにあるはずだ……そう。

 その妙な違和感。

 この不可解な出来事。

 きっと見落としている箇所がいくつもあるはず……そぅ……あるはずなのに、

 






























「そうだしろこさん」

 

 っ!?

 スタスタと歩き進む夕陽は聞こえてない。

 その足取りを止め。

 白子は振り返り……その後ろ姿を見つめる。

 





























 そう、本来ならば既に去っていた少女。

 まるで『この場面を想定していた』かの様に……その人は前にいる。

 ハンドルに付けられた――『』を揺らして。

 

「私。楽しみに待ってますわ」

 

 その声に変わりなかった。

 数分前の、会話を弾ませていたあのゆったりとしたあの口調。

 何処か暖かく。

 けれど安らぐような。

 そっと。白子の耳元で囁く声で。





























 

 宣戦布告する。
































 

――



 ――――ッ!?

 その言葉の真意を問いかけ様とした時は……既に遅く。

 気づけば、ころみはその場から消えていた。

 まるで――本当に居たのか? と、不思議に思う程に。


 

 けれど。

 

 この二つの疑問を思う限り……それだけであの少女、『ころみ』が居た事実になる。


 











































 どうして目が見えないのに、時間がわかった?

 
















































 どうして目が見えないのに――白子と気づけたんだ? ――と。 

 








































 

 ☆ ☆ ☆

 

 奇皇帝高校に入学して早三か月が経つ。

 白子達にとって初の夏到来を間近にしていた。

 

 現に。その証拠に……今、ぐったりした足取りで。

 びっっっっしょびしょに濡れ。

 ほぼ重りになった制服を着て歩いていた。

 ……全く空気を読まない、煌々と照らす太陽の下で。



「よしっ。決めたわ白子」

「……何を?」

「あの太陽撃ち落とすわ」


 うん。やめな?

 暑さの影響でバグるのは勝手だが、本気でやるなら全力で止めなければいけない。

 万に一つ。その流れ弾が鳥さん達にヒットすれば。

 あたり一面……悲鳴が絶えない鳥さん達の横たわる物体だらけになる。もはや空も地上に平和の二文字だって存在しないよ。

 

 遠回りをしたものの、予想よりも遅れずに。

 たまたま通った小さな公園。そこに設置された時計をチラっと見れば8時40分……今から走れば9時の朝礼には間に合うだろう。

「意外と時間ないわね……でも白子を走らせるなんて……心が痛むわね」

「えっ、いや、私は別に走るの大丈夫だよ?」

「何言ってるの!? もし! もし走って白子の足が折れたら……いやそもそも転んで足が取れたら私……私っ! 一生自分を恨む事になっちゃうわよ!!」





 私の足はレゴかブロックなんでしょか? 





 一々そんな走っただけで足が壊れてたらここまで生きてないよ私。てか、そんなに脆くないから。一応テニスやってたから。









































 なんも変わりない。

 いつも通りの。そんな何年も変わりない会話を交わす。

 白子にとって唯一の。

 夕日にとって唯一の。

 唯一無二の親友と歩き声を交わす――そんな最中。

 


 それは突然と訪れる。













































「喰っっらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! これが異世界ヘル・アースの苦労の末に取得した秘伝技――ゴォトゥ・ヘルアンドヘブンだぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」


 は?

 

 真っ先に浮かんだ言葉の一言。いや、一文字である。

 真上から突然の……いや、正確に言えば違う。

 丁度頭上にあった木の中から飛び出す人の姿。それだけは辛うじて伺えた。

 今、白子に向け……木の切れっ端が振り下ろされそうとして。

「あ痛てぇ!?」

 ガンっ!

 みしっ! ……みしみしみしッ!

「――ねぇ夕陽ちゃん気のせいかな? 私の目の前にふっとい木の枝が倒れ様としてるけどアレ私に当たらないよねアレ人も乗ってるから当たったら痛いよねそんな漫画チックに顔に直撃しないよねねぇそーだよねユウヒちゃぶへぇっ!?!?」


 顔 面 直 撃 。


 その勢い。例えるなら飛行機が顔面着陸した並の衝撃だっただろう。

 地面に倒れた後、意識は段々と……遠退き……、

 ……して、力尽きる。


「痛っててぇ、尻って打つとこんなに痛いのかぁ……ハッ!?」


 慌てて起き上がり、謝罪の一つ頭を下げ様とするかと過った。

 ……そして。


 何故か、仁王立ちで高笑いを始めた。


「にぃっっはーーはっはっはっ! 思い知った様だなこの魔王め。テレビで見た通りお前から悪のオーラを感じる、倒して正解の様だったな! にぃっはーーはっはっはっはっヴバァッ!?」

 轟音。それが響くと同時だったか。

 背をさすり……明らか背が折れたかの衝撃に少年は顔が青ざめていた。

 恐る恐ると少年が後ろへ振り向く。

 そこには。


 本物の魔王――夕陽が居ました。


「ワタシノしろこにナニシテンダオマエ」

 ザ・怨念のオーラ。

 それが全身に纏っているかの様。手元から流れ出るラケットを持ち、目からは血涙を流す少女。

 彼が怯え震える目を……夕陽は逃さなかった。 

「コレデしろこがシンダラドウスル? ワタシノしろこのカワリガミツカルワケガナイ。しろこがイナクナッタセカイヲオマエはセキニントレルノカ? ドウシテクレル? ドウスルドウスルドウスルドウスルドウスル」

「なっ、何だお前。ちょっ、目が正気じゃないぞ……待て! そんな僕に近づくなそれ以上!?」

「ドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスルドウスル

 ……ドウスルコトモデキナイナラ」












































「 ク ビ ニ ウ ツ ゾ ? 」










































 そのわずか数秒経たず。

 盛大な鳴き声が近所中に泣き響いた。


 ☆ ☆ ☆



 今。その公園の砂場、その上で正座する彼を問い詰めていた。


 ……主に親友の夕陽が。


「はぁ~っ……アンタ、真面目に解答する気ある?」

「聞捨てならんなそのセリフ。この僕様を正座させといて溜息とは笑わせる――お前の様な下級ゴブリンに似た奴など聖剣『ゴット・ジャッチメント』で一発なんだぞ。お前なんて無力同然のザコキャラなんて一瞬であの世行なんだからなっ!」


「そっか♪ じゃあ来世でも タ ッ シ ャ デ ナ 」


 秒速で武装。いや、握ったラケットを突き出す。


「すみませんっでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! お願い、後生です、そのラケットで僕を殺さないで。テニスボールで死んだ勇者なんてダサすぎて転生できないよっっ!」

「最初から命欲しけりゃその態度でいなさいよ……この糞勇者が」






 ここは日本で合ってますか神様?






 会話だけで聞いてたら別世界のワードだよそれ、スライムとか飛び出てくる世界戦だよそれ絶対。

 どうやら観念したか……少年はため息を吐いて、先ほどよりは静かになった所で。

 夕陽は……ラケットを閉った。

「名前は?」

「前世の名前か? 前世の名前ならノベ・シルフイード・グラセンル・フィア」

「現世の名前で答えろ」

「……ひかりノベル」

 それは目で分かる程だった。

 先程までの威勢は何処へやら……肩を縮こませ。

 更には項垂れながら答えた。

 可哀想とも一瞬過った。だが、数分前の木からのダイレクトアタックを思い起こせば……そっぽ向いてしまった。

「あのねぇ……男だからって超絶可愛い白子に手を出したい気持ちはわかるわ。私が男だったら背後から忍んで頭から足までしっぽりムフフな天国味わってたわ。でもね……これと比べたらアンタのそれ犯罪だから! 警察呼べばアンタなんて一発刑務所行きなのよわかる!?」




 そうだね。友人の方は一発処刑確定の犯罪でしたね。




「少しは優しく言ったらどうだこの魔王めっ! ふーんっだ! 僕様はな、これでも異世界ヘル・アースを救った大英雄様だぞ。学校と両立しながら世界を救ったこの僕様に対し……なんだその図々しい態度は恥ずかしくないか? どうせ現世では金もなく食べ物にも飢えてそんな貧相な体となったんだろうな。あぁ可哀そうに可哀そうに~、ヘル・アースでお前がそんな態度だったら民から嫌われ町から追い出されて泣いて『許して下さいノベル様~!』って言ってただろうな~ぷーくすくすっ! でも? 僕様は? ちょーカッコよくて心もイケメンな勇者だから? そんな人生負け組のお前を救ってやる事も出来るんだぞ。今ここで謝罪して『申し訳ございませんノベル様、どうかこの無礼者にチャンスをくださいお願いしますノベル様ぁ~!』っと、僕様に言えばすこぉぉぉぉぉしだけ、そんな僕様は『やれやれ』と言って許してやる事も可能なんだぞっ~! 












































 ――さて、僕様に言う事は?」

「長い遺言乙」



 ドっゴォォォォンッ!!

 ……案の定と言うべきか。必然と言うべきか。

 砂場に空いた穴……あのテニスボールが何処まで到達したかは知らない。





 怒りに満ちた時速280㌔ファーストサーブが……ノベルの頬を掠った。




「ドイテ白子、その両手離れてくれないとソイツコロセナイ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっ! 私が代わりに謝るから土下座するから謝罪会見開くからその殺人ラケット閉ってェ!!」

 非力な白子の手で押さえても標準がずれた程度。

 だが、もし両手で押さえてなければと思うと……とても子供達には遊べない砂場になり果ててただろう。









































 ――その後。


 白目向き出しの気絶していたノベルが起きるまで3分近く待っていた。


 無視して学校に行ってもよかったが、流石に少年一人を意識ないまま放置は『まずい』と言う結論に至り。

 目覚める間の3分、久々の砂場に女子高生二人は小さなお城を作って時間を潰していた。

 

 そして。

 後にノベルが起きた時に問い詰めた所……驚きの事実が発覚した。

 小さい体に。けれど少し長く伸びた後ろ髪。

 服装はスボンとダボダボTシャツだけ……白子も夕陽も、何処から見ても小学生と思って接していた。


 しかし、よくよく年齢を聞いた所……。

 

「アンタ中三だったの!? 学校どうしたのよ今日平日の月曜日よ? 不良なの? その見た目で不良なのア・ン・タ!?」

「あんな劣等下級生物と同じにするな――僕様は勇者だ!」

「もぅその勇者って設定やめなさいよ! 会話がめんどくさくなる一方じゃない自覚してるアンタ!?」



 ……あぁ、ダメだ。このやりとり続けば下校チャイムが鳴く頃に登校してしまう。



 まずこの二人の口喧嘩を止めさせたい。

 先ほどからチラチラ横に目をやれば子供たちがヒクヒクと泣く声と怯えアゴをガタガタしているご様子だ。

 まぁ自分達より遥かに年上の女子高生が砂場を占領して中学生を正座させてれば。


 ――うん、そりゃあ怖いわ。


 私なら秒速で泡吹いて気絶してるね。自慢じゃないけど。


「あのぉ〜……ごめんね、そろそろ私達遅刻しちゃう時間だから……ごめんね、だからその」

「ニセ勇者は黙ってろ。わかったぞ僕が下手に出てるからって安心してるな……ふんっだ! この世に女神から貰ったエターナル・ブレイク・ソードがあればちっこいお前なんて真っ二つにしてあの世行きにっててててててて手手手手手ぇ! 手をつねるな暴力女!! 痛い! 死ぬ! 死ぬから許してぇぇ!!」

 無言の圧で手をつねってねじ伏せる友人がホラーなんだが。

 一応男とは言え、流石に中学生相手に暴力を振るうのはよろしくない。

 かと言って。この中学生を無視して登校するのも心苦しい……いや最悪後を付いてくる恐れもある。

 (どうしよ解決方法が~……)っと、答えが出ずに。

 ただ、頭を抱えていたその時。









































 

 ――そうだっ! と、白子は思いつく。

 


「ノベル君。よかったら明日の朝遊ぼうよ」

 


 その言葉を言った――僅か1秒後。

 夕陽と残像を残し――白子の元へ目を輝かせたノベルがいた。

 それはもぅ、尾っぽ振る子犬と連想させる程。思わず『なんだこの可愛い男の娘』と口が出てしまう程。

「本当か!? ウソじゃないな!? 明日もここに来るんだぞいいのかニセ勇者!?」

「ニセゆうしゃ……とか言葉は知らないけど、明日はこの時間の30分前に来てくれたら……ちょっとだけでなら遊べるよ?」

「ちょっ、白子アンタ頭大丈夫!? こんなぽっと出の野生の悪ガキの為に朝遊ぶわけ? 登校前の。早朝の。しかもマスコミに逃げてる身で?」

「逆に朝6時に今日の様に裏から出てれば……多分マスコミさんも追いかけて来ないと思うよ。それに――ゴニョゴニヨ」


 そぅ耳元で聞いた夕陽も……押し黙った。


 流石の夕陽も、「このままだと私達共々遅刻確定だよ?」と、その言葉には反論できなかった様で。

「……特別よ悪ガキ。アンタの為だけに明日相手してやるわよ」

「ゲっ、魔王も来るのか」 

「大切な白子をどこぞの変人中学生と二人っきりで遊ばせるわけないでしょ? 理解しろこの変人中学生」

「変人じゃない! 僕様は勇者だ」

「~っうーーあーーーーっ!」

 ……初かもしれない。

 あの閻魔後衛・魔王の夕陽が悶絶する姿を見たのは……。

「うぉぉぉぉぉぉぉ~! 約束! 約束だかんっな! 約束破ったらヘル・アンド・ヘブンの刑だかんなっ! 楽しみに待ってるがいいニセ勇者よ!!」

「……白子、本当にこんな変人と相手するの?」

「言っちゃったからね。多分……今断ったら近所中に迷惑かけると思うよ……主に泣き声で」

 覚悟を決め、でも何処か腑に落ちない夕陽。

 ……「はぁ~」と、重い溜息が白子の心に圧し掛かる。

「ふっふっふっ~♪ 楽しみすぎて夜更かしなんてするなよ――このニセ勇者!」

「あ、あはは……うん、ノベル君もね?」

 若干、頬が引きつるも。

 なんとか白子は笑みを作ってそぅ答えてしまった。










































 そして、後に気づき白子は後悔する事になる。













































 


 ――面倒な日課が増えてしまった――その事実に。



【 ♖ お待たせしました。次回は6月25日に更新予定 ♜ 】

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