第四章 泣き虫勇者と強がり少女編

オープニングステージ 指切りをおしえて




 出来立ての目玉焼き。



 それを特製ハンバーグの上に手慣れた手つきで載せて完成した。



 ……相変わらず私はこの組み合わせに夢中だ。



 子供の様な。これと言って豪華な食事とも言えない、ただ食べたい物を作った。

 

 テーブルへ並べ終わった時。ふとっ、何故かまた。

 






























 私は天井を見てしまっていた。

 




























 見飽きた頭上彼方。


 瞳に映り広がるは漆黒で覆われた世界だ。


 夜空に浮かぶ星々があるわけでも。


 数億千年先の銀河が泳ぐ景色でもない。


 その【黒】が。まるで私に襲いかかる様な。


 いや、そんな生ぬるいものじゃない。


 ――ケタケタと大口を開け。


 私を見詰めたその死神達が手を差し伸ばし。


 その手招く指先から――「来い」と言ってる様にも感じる。

































 不思議ね。今は朝なのにね?
































 暖かい陽が上るその世界。


 小鳥も大きく羽ばたく様に。


 その小さな羽根を広げ飛んで行く。


 自由と言う文字があちこちに広がる空へ。


 囚われない空へ。


 夢のある空へ。


 きっと――そんな世界が広がる朝なのに。
































 不思議ね。今は夜じゃないのに。































 ……ふとっ、その方へと目を動かす。

 感じたその眼差しに視線を向け、一つのダブルベットを見つめる。


 まるで寝ぼけた顔で起きた貴方に――思わずクスっと溢れる。


「あらっ、別に悪い意味じゃないわよ。人の寝顔を見るのなんて初めてだったから、ちょっと心がくすぐっただけよ。……けど、気持ちを悪くしたなら申し訳ないわね」

 

 そーね……ならばこうしましょう♪


「お詫びとして、私の朝食でよければご馳走するわ。『マズい』以外の毒は入れてないから安心して?」































「それと――あのお話の続きを聞かせてあげるわ」

































 そう、あの物語の。

































「――あの白旗少女の、ハッピーエンドの物語を  ね?」


 ★ ★ ★

 

 今では数少ない、大人達の勝手に潰され少なくなった子供達の家。


 都内にある公園。

 

 その砂場で少女は空を眺めている。


 綺麗な夕暮れの茜空。

 自由に羽ばたく見慣れたカラスの群れ。

 戦争とは無縁のそんな景色だった。

 

 【平和な夕焼け】――それは世界遺産として登録しても申し分のない絶景だ。

 白旗を持つ少女は思う。


 ずっと。


 ずっとこんな景色が見ていたかった。


 ずっと。


 ずっとこんな平和が続けばいいと思っていた。
































 

 

 ――でも――。































 ――そんな風景は――。



































 ――白旗少女の優勝と共に亡くなった――。







 ダダダダッ! と、その音が響く。







 突如。上空彼方から降り注ぐ銃弾と共に響き渡る。


 その鈍く。

 その重い銃音。

 その木魂する音が消え去った時、少女は辺りを軽く見渡す。

 何個物の黒い物体――それが周囲に転がっていた。

 表情一切変えないその少女の足元に転がるは。





























 この世から去ったカラスの抜け殻。

 

 黒い物から溢れる赤色の液体を眺め。

 けど、少女は見飽きたかの様に、表情を変えず……少女は歩き出す。

 




























 何羽物の死体を踏み潰し――興味なさそうに。

 

 




























 泣き叫び。

 ただひたすら逃げ惑う子供

 公道のど真ん中で、「ママ。ママ」と空へと呼びかける。





 しかし、そんな子にでさえ。





 空からたった一発の爆弾が落下した――瞬間。






 ほんの一瞬の光を放ち消え去った。

































 それは∞ドルを取った後の世界。


 世界は核兵器・核ミサイル・核爆弾と。己の国を死守する事に全霊を注ぐ。

 地球上に生存する人々は約半数以上がこの戦争で命を落とし。

 約一年の時を刻むが……その戦争に終わりは見えない。





 ぽつんっと。一人の少女は道路を歩き。



 ただ前へと。



 ただ前へと。



 ただ前へと……進む。



 無表情のままに何処へと進むが。


























「アイツだぁぁ! あの女を殺せぇぇぇぇ!!」



 少女の頭上。そこには既に火炎瓶らしき物があった。

 きっと当たれば【髪が燃え広がり大火傷を負う】だろう。

 医療など皆無のこの世界で……いや、そもそもこの女を助けてやろうと愚かな考え持つ者がいない。そんな状況下でもし当たったらと思えば命の保証はないだろう。
































 

 ――でも、少女は呆気なく掴み。地面へ置く。


 まるでそぅ――それはもぅ見ていたかの様に。


 そして、その少女は見た。


 白旗少女の目の前に広がる――大勢の人々が群がる光景を。


 目に映るはつくつものの大弾幕を翻し。


 怒りに満ちた瞳を浮ばせ――私を見ていた。



 


「お前が決めたせいだ! お前のチェックメイトで世界は終わったんだ! 何平気面した顔で歩いてんだこの悪魔がァッ!! 化物がァ!! 人殺しがァァァァァァッ! 

 ――返せっ!! 俺達の平和を返せ!! っっ俺の妻と子を返せぇぇー!!!!」






 涙交じりに響き渡る男の声……けれど、少女はそんな光景を横目に過ぎ去って行く。


 毎日見慣れた光景だからか。

 それとも少女に心がないのか……それは未だに分からない。

 心無い罵声を背で溶け止めつつ。






























 少女は前へ進む。






























 ただ前へ。































 ただ前へと。

































 そして……茫然と空を眺めた。


































 ――ただ無色で広がる空にも関わらずに――。

































 気づけばあっという間。

 その場所にやっと帰ってきた少女は……中へと入る。

 山の奥に聳え立つ高層ビル。しかし最上階から見る景色を思えばそこまで小さくはない。

 長く続く階段から上がり終えた先。

 そこに……その人はいる。

 




 ガラス張りで覆われた冷たい一室。

 そこから眺める東京の地平線まで見える景色、そこがあの人の特等席だ。

 




「ただいま」


「外の景色はどうだった?」





 ……期待していた言葉は帰ってこない。

 その人がどんな人だと言う事も理解していたはずだ。

 しばらく……軽く口を閉ざし……。

 して、





























「皆怒ってた」


「そうか」


「私がチェックメイトしたせいだからって……」


「そうか」


「……ねぇ」


「どうした? 言いたい事があるのか?」






























「……私、悪いことをしたの?」































「何を言ってるんだ。お前は悪い事をしたんじゃない。


 この腐り果てた世界をお前は変えたんだ。


 それは世界の為であり、私の為でもあるんだ。

 

 お前のチェックメイトでこの世界は変わった。

 

 この救いようのない世界を終わらせた。

 

 平和になる為の一手を――お前は決めてくれたんだ。

 
































 ありがとな――私の大切な白子」

 



 その言葉を聞いた時、少女は確信する。

 あぁ、私は正しかったんだ と。

 何を悩んでいたんだ。親愛なる人が笑顔でそぅ言ってくれた。

 だから少女は。

 今こうして……親愛なる人に送る。






























 

 暖かい、無邪気な笑みを浮べて喜ぶ。


 

 ★ ★ ★

 

 

「……あらっ、そんなにこのお話怖かったかしら? それとも……ハンバーグはお嫌いだったかしら」

 ある程度の話を終えた所。

 冷め切ったハンバーグを見つめ……少し、寂しい思いを味わった気もしたわ。

「食べ物は気にしないで。まだ材料も死ぬまでの分はあるから、そんな暗い顔をしないで」



 ――そうだ。



「じゃあこうしましょう。今度、貴方が作ったハンバーグ食べさせてちょうだい」



 突然の提案。


 それに対し君は慌てて横を振るなんて……思わずクスっと笑ってしまう。



「大丈夫よ。別に『美味いものを食わせて』とは言わないわ。ただ、たまには人が作った物も興味があっての提案よ」

 ……気づくと、それは突き出されていた。

 ピンっと伸び、真っ直ぐ伸びた手と共にその小指は。

 ――私の前にある。

「あらあら、その突き出した小指は何かしら? 『不味くても文句は言わない』? それとも『必ず作ってあげる』の方? まぁどっちの意味でも面白い事するのね、あなた」

 思わず軽く笑みを零し……クスっとしてしまう。

 それは未知への体験に。軽くワクワクした期待への現れかも知れない。

































 だから    そうね。





























 

 そのお決まりの定期文。けれど、あえて声を弾ませながら言おうかしら。






























 

 指切りげんまん♪ ――っと。

 


 

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