エクストラステージ あの世で待つモノ達

 


 朝から騒々しく始まる報道番組。



 何処もかしこも、想像以上のビックニュースに世間は賑わいを見せる。

 どのチャンネルを切り替えようが内容は全て同じ。

 何処もかしこも、その話題で持ち切り状態。

 その話題で、全報道チャンネルを隅々まで独占していた。

 





























 たった一人の。若き一人の女子高生をスポットに当てて。

 




























「先ほどから繰り返しお伝えしています。今、∞ドルを賭けた【ワールド・チェス・グランプリ】の真っ最中。ある一人の女子高生が注目を集めています。

 ご覧の通り、無邪気に笑いながら駒を指す一人の女子高生。

 とても楽しそうに対局している様にも伺えます……しかし。専門家によると『この子の戦術・機転・プレイスタイルは常人の域を超えている』との事。

 驚くことに。チェス関連者達の皆様は口を揃えて全く同じ意見をこう述べています。


 『この少女の手捌は。チェス・プロリーグの域を優に達している』とのこと。



 今。この世間を賑せている少女は一体何者なのでしょうか……そこで本日、日本が誇る伝説のチェスプロプレイヤー。東風嵐子ひかぜあらしこプロを特別ゲストとしてお呼びしております。嵐子プロ、本日はお越しいただきありがとうございます」




 特別席。その者は今堂々と腰を下ろしている。

 色鮮やかに紅の桜の模様が美しさを物語り。

 羽織袴はおりばかまを着こなすその姿。その姿を例えるなら―――まさに天照大神。

 あのボロボロの赤ジャージ姿とは全くの別人が、今。

 口を緩ませ。だが何処か物々しいオーラを放つ……彼女がいる。





 チェス・日本ナンバーワン王様プレイヤー――『チーム・風林火山ふうりんかざん』総リーダーにして。

 ――【日本一強引な駒捌き】の異名を持つ――。





























 ――東風嵐子が、その王者の風格を現していた――

 





「――――うん、よろしくな可愛い子ちゃん」





 その王者の軽い挨拶。嵐子にとっては軽い『大人の挨拶』のつもりだ。

 どこにでもある。ただ本当に軽い挨拶程度だった。

 ……だが。

 アナウンサーの手は、テーブル下でガタガタと震わせていた。

 それは仕方ない事だろう。それ程にも尋常ではないオーラに包まれようが、今こうして逃げ出さずにいれるのは女子アナとしての誇りがあるからだ。

 して、なんとか。軽く息を整え……。

「嵐子プロ。当時、この白旗少女が対局していた会場に出くわしたとの情報をお聞きしてます。当時の様子、そして白旗少女はどんな人だったか……詳しくお答えをお願いします」

「前半は軽く見てた程度だが……その目線でいいなら、一言で表してやる」

 今か今かと。

 カメラマン。ディレクター。衣装がかり。そしてアナウンサー達も。

 周囲の視線は……今、嵐子の。

 その口元に誰もが注目の眼差しを向け。





























 そして。

 






























 深く閉ざすその口を――重々しく開く。

 





























「正直ザコだったわ」

 





























 …………。

 ……………………………。

 …………………………………………………………………。


 はい?

 

「あ……嵐子プロ? それは弱かったと言う解釈でよろしいのですか?」

「弱い処の話じゃないね~うん、もぅ話にならない。どぅフォローしても救いようない……まぁ初心者なら十分頑張った方じゃねぇ? ……あー悪いね、もぅこれ以上カバーできない無理だわ」

「しかしですが! 嵐子プロ、現に彼女が勝っている事は事実です。それでも……弱いと言う表現をお使いなられますか?」

「なるよ。どう見ても初心者当然だっだぜ? アレは」



 なんともふてぶてしい態度。

 周囲の関係者。特にプロデューサーなど髪をわしゃわしゃと掻き乱して。

 なんたる現状……現場は騒然としたカオス状態だ。

 

「そう、あれはどう見ても初心者のはずだった…………






























 あ の 瞳 が 現 れ る ま で は ――な」































 ――ッ!?

 静かなる。その発言。

 誰もが黙り込むその沈黙を……女性アナウンサーが破った。

「瞳……ですか……」

「何らかのトリックか。はたまた初心の皮を被ってたクズ野郎か……それは私の目でも分からなかった。だがな……一つ断言する事は出来る」





























「あの∞ドルに最も近い男――黒子を唯一チェックメイトできる存在かもな――と」


 

 

 ☆ ☆ ☆



 テレビ画面を見詰め、嵐子の発言を一通り聞いた後。

 ぷちっ。……と、テレビ画面は暗くなった。


「きっひひひひ! あーあー、メリーさんメリーさん~? 次の対局相手『奇皇帝高校』と私達、どちらが勝ちますか~~~~??」


 相変わらず持ち歩く、そのカビが生えた携帯電話を耳に当て。今日も不気味な友人に電話越しに話す。

 綺麗に整った歯を。いつもの様に歯を立てて笑い。


「きゃっひひひひ! だよねだよねー。流石メリーさんは何でもお見通しだ」


 満足の返答を頂いた様だ。

 大会は来週日曜日。二回戦目の対局まで案外と時間は少なかった。

 

 しかし。私達に心配など無用の事。

 ――私にはいるから。

 そう。みんながいれば――敗北など無縁の話。


「きっひひひ。ケン君と私が負ける事は万に一つもありえない。部長は安心して……その力を思う存分と披露してください。勝利は――もう確定していますからね」


 「きっひひひひひひひひひ!!」と、その声は響き渡る。

 何体も壁に並ぶ骸骨の中心で。

 血の様な。赤黒の地面の下で。

 チェス盤の前に。ただ黙って座る……少女の前で。

 

 『魔界不思議高校まかいふしぎこうこう』。それが次の白子達が相対する相手達。

 

 そして、白子にとって。その対局は未知なる戦争を体験する事になる。

 なにせ……対局相手は一人だけではないのだから。


 その席で佇みただ本を読み続ける少女

 少女はかつて、町ではそう呼ばれ。

 ある人々は神として崇められた時代もあった。

 




























【あの世とこの世を結ぶ者】

 





























 白旗少女は覚悟しなければならない。

 覚悟なしではその対局に勝つなど皆無に等しく『勝利』など無縁の話になるだろう。

 

 その歴代の。猛者であった王様達が……天国から地獄まで。

 






























 白旗少女に――チェックメイトをする為に蘇ってくるのだから。

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