シークレットステージ ちっぽけな戦争
君津の田舎の田圃中。
その細道をスポーツカーで走る……なんとも不釣合いな絵ずらだろう。
何処を見渡してもただ稲があるのみ。そんな和やかに過ぎ去って行く景色を眺めて。
白子は……「はぁ~」と溜息を洩らす。
「お前が田んぼ見て溜息吐くなんて意外だなー。なんだ? 嫌いだったら一緒にここを火の海にするかー?」
「何でそぅ物騒な発想に展開するんですか……別に田んぼ見て溜息吐いた訳じゃないですからね?」
「おっかしなー。他に溜息吐く事なんてないはずだけどなー」
あと数分で着く地獄を考えて吐いてる事ぐらい気づけないのかな?
いや、分かってての反応か……それなら尚たちが悪すぎるだろ。
そうして、しばしば無言が続く。
揺れる事わずか……数分。
「おーい白子。学校もあと数分で着くからなぞなぞ出すぞー」
「……その理由で何故なぞなぞ出す事になったのか聞いてもいいですか?」
「最終問題ー。今、私のパサパサ口に欲しいものはなーんだ?」
またスルーかよ。
「……ってそれ、普通に喉乾いただけじゃないですか」
「大ッッ正解だ白子ー! 景品は『綺麗でピッチピチの先生にコーラ一本買ってくる権利』を贈呈だー。うん、おめでとう白子」
「それって景品ですか? 普通に罰ゲームに聞こえるんですけど……」
「一々細かい事気にすんなー。ほらっ、ちょうど通り過ぎた自販機あったから、クレカ貸してやるから買って来ーい」
あーこれは諦めよう。
きっと何を言い様が、私が車降りるまで言い続けるだろう。
「………………………………………………………………ちなみに私の分も買っ」
「ダメ」
……このケチ教師……。
☆ ☆ ☆
カンカンとコンクリートを照らす太陽の下の元。
少し巻き戻り、先程過ぎ去り時見たあの自販機の元へおぼつかない足と共に歩いていた。
……早くあんななぞなぞ出してないで『ジュース買って来い』って言えば、こんな歩く労力は使わなかったと思うが、考えた所でまた無駄なストレスが溜りそうなので「あー熱いなー」っと無駄に独り言を言って気を紛らわす白子。
ようやく約1㎏近くの徒歩を終えようと。今、最後の気合を振り絞り前へと進んだ。
だが。
ふとっ、その光景が目に入る時。
歩む白子の足を……立ち止まらせる。
なんの変哲もない、変わりのない古き自販機。
……だが。
その、白子が見つめる目線の先。
自販機を眺める――少年がただ一人立っている。
横顔でしか確認出来ないが。
背はさほど白子とは大差などなく中学生か高校生かで変わるが、男子の部類ではかなりの低身長だと思われる。
学ラン姿で。
しかもこの田圃中で。
たった一つの古びた自販機前に。
その少年を――気付けば白子は眺めていた。
……だが、彼は一向に買う気配がない。
ぼぉーっと突っ立て。
少年は身動きせずその自販機を眺めているだけ。
(これは~……声を掛けた方がいいかな?)
流石に、この少年を眺めて一日を終わらすなんて無駄な事はしたくない。
……それに。
これ以上あの先生を待たしたら何とんでも罰ゲームされるかわかったもんじゃない。
「あっ……あのぉ~」
と……その瞬間――
【 敗 北 確 定 】
……思わず、そこで言葉が詰まりせき込んでしまった。
そこで白子は、今一度我に返ってみた。
冷静に。落ち着いて。その見た未来を分析する。
『先にジュースを購入した後、その少年がルーレットの当りでジュース二本出てしまい悔し涙を流してしまう』と言う未来を……。
凄っくどうでもいい未来ですねーはい。
私の『感情』次第でこの未来が見えてしまう。
そこまで未来が見えてしまうと思うと、この先も少々憂鬱に感じる。
恐る恐る、と……チラっ。
「…………」
どぉぉぉぉぉぉぉぉ~~しよめっちゃガン見されてるじゃないですかぁ~……。
こんなド田舎でウジウジしてる変人みればそうなるととは思っていたけど。
……いや、何を恐れている葉田白子、現役女子高生。
もぅ高校生は大人。立派な大人の部類なんだ。
ここはちょっと……そう。立派な大人のレディーの対応をするべき場面。
答えは言わずとも決まっている。
さぁ言おう。振る舞おう。そぅしよう。咳払いを軽くして……
白子は言ってやった。
「あ、あのっごめんなさい、選んでる最中に邪魔してしまって……どうぞどうぞ、ゆっくり選んでください」
「…………」
「私は後で買うので……どうぞお先に購入してくださいねー……あ、あはは……」
【悲報】現役女子高生、欲を選びました。
いや仕方ないじゃないですか。
ジュース一本がサービスで。しかも無料で一本貰えるとなら欲の一つ二つ出ますよ。
あの少年にはちょっと可哀想だが、私の欲の犠牲になってもらおう。
「そんな遠慮しないでください。ゆっくり、ゆっくりジュース選んで買ってくださいね~……(早く選んでそして早く買ってお願いだから私のジュースの為にっ!)」
うっかりと。心の声を悟られぬ様。
口角をなるべく上げ、我ながら最高に上手い笑顔が出来てると思う。
そう。それは白子だから出来る特権。
他者がその結末を知り得るわけない。だって、この力は。『自分の敗北確定した5分後の未来が見える』のは、この世界できっと白子だけなのだから。
白子だけが。その未来を見たはずだった……。
「――面白いねっ♪ それじゃあ君が当っちゃうじゃないかーー♪」
唐突に突き付けられるその言葉。
その一言に……。
え。
瞬間、頭の中は空白で埋め尽される。手も足も、そこから一ミリも動かす事が出来なかった。
ただ。彼がそう言葉を零すと同時にいくつもの疑問が浮かぶ。
本来……その返答は有り得ないはず。
それは確かだ……何故ならその未来は『白子だけ』が見る事が出来る特権なのだ。
『敗北確定の未来が見える』……それは白子だけが見える力。
他の者は見えない。いや、そんな『不確定の未来』を見えるはずがない。
……仕方なく白子が先に購入し、ジュース一本を持って去ろうと。
した……時。
『大当り~! もぅ一本プレゼントだよ~!』
自販機から聞こえるその音に……白子がふとっ振り返る。
ジュースを軽く投げ上げ。そして……。
ぐるりっ。
と、壊れた人形を思わせる不気味な笑みと共に。こちらにニコニコと見せ向けた。
「 ――――――っ♪ 」
訳が分からなかった。
白子はその言葉を耳にして、率直な疑問を彼に。
「今……何って――」
と、そう問おうとした時には……もう彼の姿はない。
錆びた自販機の前にその少年の姿は跡形もなく消え、そこにはただ白子だけが立っていた。
一瞬、まるで『そこに本当にいたのか?』と自分を疑いたくなった……だが。
現に、白子はこの手に。このジュース一本を持っている。
『敗北の証』である……たった一本のジュースを。
そして――。
確かに聞いた、あの発した言葉を……白子は忘れるわけがなかった。
その少年が微笑んで口にした……心底不気味な一言を。
「 また後でね――白子お姉ちゃんっ♪ 」
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