13話 古びた駒


「パ、パーフェクトゲーム……winnersユウヒ アカバシ」



 ガタガタと体を震わせ、審判は震え声でやっとの思いでこの試合の勝者を口にする。

 無理もない事だろう。友人から見てもそれはもはや普通のテニスなど言う領域を超えて、もはやウィンブルドンの試合が可愛く思えてしまう……それほどの異次元テニスを目の当たりにしたのだ。

 スマッシュで凸凹おうとつに成り果てたコート。

 あちらこちらでボール一つ分の穴が出来上がり、

 肝心の富士美とは言えば……スコートのヒラヒラ部分など当の昔にボールで引き千切られ。

 サラサラだった髪。

 清潔感溢れるゴージャスなユニフォーム。

 セレブ丸出しのあのオーラも何処へやら……今、私達の前に居る彼女の姿を例えるなら。

 

 ――身の程知らずのお嬢様が戦場でミサイル直撃された姿に等しかった。

 

「……きょ、今日の所はっ……勝ちは譲ってあげますわ……」

 辛うじて立ってはいる。だが、あまりの恐怖だろうか? 尋常じゃない足の震えを起こし背筋も曲げ……はたから見れば見るに堪えないボロ姿だった。

「ただ覚えときなさい! 今のはただの……ただ、の……そぅ! ただの予行練習、つまりは小手調べにすぎないわ。次回はこう上手くいくとは思わない事ね赤橋夕陽――次が貴方の初敗北だと言う事を覚悟する事ねおーほっほっほっほっ!」

 ……そう言って。

「では……私はこれで失礼して」と残し去ろうと、ズタボロの体引きずり帰ろうとした。

 




























「いやいや何勝手に帰ろうとしてるのよ」

 

 ――だが、突然の待ったがかかる。

 当の本人も「へっ?」っと拍子抜けたご様子で。そして、

 




「だから――『私の勝った場合の要求』を、今してもらうのよ」






 そのお方は平然と仰る。

 あたかもそれは当然と思える程。一瞬ぽかーんと聞いていた。

 ……だが、富士魅は誰よりも先に我に返って。

「ちちちょちょちょちょお待ちなさいッ! そんっな約束一つも交わしてないですわよ。でたらめな事を仰らないでよ!」

「箱入り娘は社会の常識も知らないなんて情けない話ね」

 その目は……まさに悪魔。

 

 誰もが恐れるあの少女――閻魔後衛えんまこうえいがそこにいる。

 

「そっちが『私が勝ったら~』って提示した。なら私も必然的にあるってわかるでしょ? 暗黙の了解って奴よ」

「だ、だからって……」

「簡単な要求よ。そんな鬼畜な内容じゃないわよ――『ブラックバイトで働いて、そのバイト代を私に渡す』だけの話じゃない」

 鬼かよ。

 誰がそんな要求を呑むんだ……少なかれ、私は嫌だと思う。 

「まずは見てから文句を言いないさいよ。ほらっ、予めチラシ持って来てあげたから特別に好きな物選ばしてあげる。どれも安全な仕事なんだから選んであげた優しい私を感謝しなさい」

 働いた金を奪い取る時点で『優しさ』って何だろう……? っと、思いました。

 すると。夕陽はポケットから三枚のチラシを見せつける様に

 ボロボロ姿の富士魅も目をこすらせ、恐る恐る半信半疑の眼差しで。

 それを……確認する。

 





























『スタントマン』

『運び屋』

『サーカス団のラー君の飼育』




「このチラシの何処に安全な仕事があるって言うのですのよっ!?」

「『運び屋』なんて一番安全な仕事じゃない。真夜中北海道からカニを木更津まで運んでくるだけ……ほらっ? 安全な仕事でしょ?」

「警察に見つかればアウトな仕事が『安全』なわけありませんわッ! あとこのサーカス団のラー君って誰ですのよ?」

「常時繁殖期の肉食ライオンよ。ただオリに入って餌やるだけの簡単な仕事よ――多分」

「当回しに私に死ねとおっしゃりたいの?」

「だから運び屋が一番楽よ。ほらっ命に関わる事なんてないでしょ?」

「捕まれば社会的に私が死ぬのですのよっ!」

 体を小刻みに震わせ……。

 そして、恐らく自分の身が怖くなったのか?

 気付くとその目元に、大粒の涙を浮かばせ。






「覚えてなさいこのぉ閻魔後衛えんまこうえいがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!! うんっわぁぁぁぁぁぁ!」

「「「お待ちになってぇ富士魅様~!」」」








 涙と鼻水を垂らして、富士魅は全力疾走でコートから出て行った。

 気づいた時はもう白子達から跡形もなく消え。

 遠く遠く……逃げ去っていった。

「ああ……あれは一週間学校休むだろうなー。教師生活三年の私でもわかるぞー」

「だったら慰めてあげて下さいよ先生」

「嫌だもーん。私、アイツらの事嫌いだしウザイし生理的に無理だもーん」

 ご自分のご年齢を考えて発言してください先生……。

 

「まっ、そんな話はどうでもいいけどよー。白子、今週の土日だけは空けといてくれー」

 何気なく言った些細な一言。

 でもふと、疑問に思い。

「あの~……チェス部って土日活動してましたっけ?」

「んなわけないだろ白子ー? たたでさえ教師面倒くさくてウンざりしてるのに土日も学校に拘束されてみろ。お前だって考えるだけで吐きそうになるだろう? なー?」

 教師である者がとても言ってはいけない発言を聞いてしまった様な気がしたが、聞かなかった事にしよう。

 ……すると、束花の手にある物に気付いた。

 私にチラつかせる様に、その物に目線を向ける様に揺らしていた。

 

 漆黒に包まれた……黒い封筒を。


「――合同練習。その対局試合に出すから準備しとけ」








 ☆ ☆ ☆

 









 煌びやかに輝くシャンデリアの下の元。

 複数に設置されたチェス盤が一列に整列し豪華な品々が並ぶその中で……彼らはいる。


「……クイーンをa2へ」

 コトンっ。

 静かなる音と共に。その駒は今、前進したった一つの駒に狙いを定めた。

 ほんの数時間前。友人と気楽に指し、駒を動かし、笑いあっていた少女。


 ――だが、その面影など今はない。


 その駒を動かした少女は……ともびは今、真剣な眼差しでチェス盤を睨んでいた。

 思い付く限りの戦略を浮ばせ。

 そして。導き出した答えを――勝利への道を相手に突き付けた。

 

 その少年――――鐙騎士あぶみきしへと。

 

 サラサラとした金髪をなびかせ、彼も本気で盤上へと目線を移し。

 だが何処か……楽しんでいる表情も浮ばせ。

 

 そう。このチェス部の一角では――【戦争ゲーム】が繰り広げられていた。

 

 灯は確信していた――この対局は『勝った』と。

 盤面を見た所、一見駒数は互角。互いに1手もミスなく進み……一般人から見れば『硬直状態』とも見受けられるだろう。

 だが……もしだ。

 もし、この一手をだ。

 それを指したなら。また別の話になるはずだ。

「私はクイーンをa5へ」

「……」

 重きその一手。流石の騎士も手を止めた。

 何手先を考えようが無駄。この予想を反するアクションに……気づく訳がない。

 そして。

 あと六手先で待つ――チェックメイトを決める準備は整った。






























 美底灯。彼女には初恋の相手がいる。

 




 今こうして、ただ盤上を眺める彼。

 

 だが。それと同時――彼女には憧れの人がいた。


 数週間前……私は部屋から出ない引きこもりだった。

 1年、2年と月日は止まることなく進み続け。

 ずっと。ただずっと暗闇の中、スマホに映し出された盤上で世界中の何千万人との王様と駒を打ち合った。

 何回も聞いた『チェックメイト』と言う言葉が……何回空しいと思った事か。

 やがて積み重なった勝利は……いつしかこの称号を手に入れる日が訪れる。









【レディ・レジェンド・レコード】


 それがこのアプリゲームの名称。誰もが知る絶大誇る人気チェスアプリだ。

 だが。普通のチェスをやること以外はシステムは他のチェスアプリとも差ほど変わりなく。課金してガチャシステムがあるわけがなく。

 単純に、普通のチェスゲームをする。ただそれだけのアプリゲームだ。

 何人かの者は疑問に思う事だろう。


 何故、そのゲームが注目されたのか?

 何故、そのゲームが流行ったのか?

 何故、そのゲームに皆が手を出したか?

 

 答えは一つだ。

 

 世界何億人の者達が欲し。

 その選ばれし10人のみに与えられる幻の称号。


 【十天王じゅってんおう】   


 ただこれだけ。

 ただこれだけを求め、人々は時間・頭脳――人生を捧げ手を伸ばしたのだ。

 

 『たかがゲーム内の称号』と片づける輩もいる事だろう。

 『たかがゲーム内の称号』に意味はあるのか? と、疑問の声を上げる者もいる事だろう。


 ――断言しよう。


 これは  『たかがゲーム内の称号』ではない   と。


 全世界、その9割の人口がプレイし総プレイヤー数は10憶人を超えたとされている。

 普通のチェスレードランキング戦より。遥かに人口を超えたアプリゲームで、だ。 

 そして。その中で。

【十天王】の座に選ばれる者は――上位トップ10のみ。 

 その者になれた10名は、様々な特典を運営本部から貰えた。

 一年に一回の世界一周旅行無料権利、三ツ星レストランの永久無料権利、五つ星高級ホテルへの永久無料宿泊権利など。

 どれもこれも聞けば手を伸ばしたくなる簿との特典ばかりがある。

 その中でも。今この世間をにぎわし誰もが注目するその特典に……全プレイヤー達は注目し誰もが【十天王】を目指す切っ掛けの柱となった。































『十天王の座に懸ける者へ。∞ドルに最も近い場所で、お前達を招待する』






























 CM・広告紙・そして口コミでその情報は一斉に拡散され、∞ドルを知る者にその情報は聞き捨てならないだろう。

 この世を騒がす。あの∞ドルが――たったゲーム一つで勝ち上がれば近づけるのならば。

 誰もが注目し、誰もがそのゲームを手にし、誰もが【十天王】の座を目指し。

 そして今日も。明日も。何万のプレイヤー達は駒を動かし死闘を続ける事だろう。


 誰もが∞ドルを手にする為に。

 







 けれど。



 目指す者には悪いが……でも言わせてもらうなら、そんな景品やら名誉に眼中などなかった。

 名誉など他人に言えば価値が下がる物。

 景品など少しお金を我慢して貯めれば後に手に入れる物ばかり。

 引きこもりが手にしようがどれもこれも不必要な物だ。

 そう。そんな『ただ勝てば』手に入る物など欲しなかった。

 

 私が欲した者は……勝敗なんかで掴める者じゃなかったから。

 

 『ただ気付いて欲しい』。


 『ただ彼の傍に居たい』。


 そんな甘ったれた幻想を毎日掲げ対局する日々を何年過ごしたか。

 【十天王】になろうが所詮ベスト10位止まり。彼が居座るベスト2位とは天と地の差。

 追いつくに……あと何千何万の連続勝利が必須。

 凡人である生身の人間の灯に、それは実質不可能の現実だった。

 

 引き寄せる闇にも抗う事も出来ない。

 絶望の中心、その薄暗い闇の中で私は悟っていた。

 

 ずっとここにいるんだと。


 闇が包み隠すこの空間で誰にも気づかれず亡くなっていくんだ

 

 そう諦めまぶたを瞑ろうとした……その時だった。

 

 私の前に――その子は現れたんだ。

 

 いくら拒もうが、いくら手を上げようが。

 それでも。その子は何度も差し伸べた。

 何度でも。何度でも。何度だって諦めず差し伸べてくれた。 

 暗く奥底で……その手があったから。

 心底落ちた私に……その手を伸ばしてくれたから。

 

 その手を掴んだから――――その愛した者は今、私の前に居る。

 

 して今。灯はその手を指そうとしていた。

 その決め手が決まるその時――最強の【十天王】を破った瞬間が訪れる。

 駒の配置。駒の順序もミスなどありえない。

 そう。私の勝利は確信している。一ミリのミスなどない。












 ………………そう。そのはず、だった。













「――バックランク・メイトね。確かに悪くない考えだ」


 予想を反する言葉だった。

 まさか……この1手で全てを見通したと言うのか?

 6手先の決め技を……僅かこの一手で?


「決め手が数十手もある中でそれを選ぶと……流石だ灯、良い手を打ったじゃないか」










 ――――だが。








「悪いな――そこまで『待って』あげる時間はないよ」

 

 言い終えたと同時。今、一つの駒が盤上を去る。

 自ら差し出したクイーンの駒。最上級の強さの誇る駒を、しかも一つしかない駒を差し出した。





 その駒が今、盤上を――去らなかった。






「え……何で……」

 

 それは、予想を大きく反する裏切だった。今去った駒はクイーンよりも下。いや、遥か下級の駒でありこの盤面では本来どうでもいいはずの

 

 ……ポーンを奪ったのだ。

 

「……だったらっ! 私はクイーンを b6! これだったら」

「ナイトをe3へ」

「っ!?」



 だが再び。それは予想に反した駒が攻め込む。

 自軍の駒――白のキング。

 それに狙いを定め、騎士が差し出した手。


 鐙騎士。奇皇帝きこうてい高校二年生にしてチェス部の部長を務める者。

 何故彼が部長として選ばれた由縁がもし、あるとするなら……この駒があるからこそだろう。 

 後半戦。もし一度彼がナイトを動かせばそれは始まりの合図。

 









 『馬遊ナイト・ゲーム』――この戦争を終焉へと導く、恐ろしく不可思議な始まりが。

 

「き……キングをc1に!」

「ナイトd3」

 涼し気な表情を浮べ。だが、冷徹に攻め込む騎士。

 キングを逃すも、その犠牲の度に。


 一つ。


 二つ。


 三つ。



 そして四つ。


 早急に気付けばよかった……いや、気付きたくなかったのが正しいかもしれない。

 それは数十手前。

 白駒が優位に立ちチェックメイト寸前の所へ持ち込んだ。

 そう――まだ勝利の活路はともっていた。


 それが今は……盤面はほぼ黒一色で染まり。

 今、この盤上に『白駒が勝つ』可能性を例えるなら。


 この黒駒一色がそれを物語っている。

 

 これが騎士の力。

馬遊ナイト・ゲーム』が始まればどんな優勢の状況でも逆転させてしまう。

 それもたった。

 たかが二つのナイトだけで。

 

「――ナイトをc4へ」


 コトンっ。


 そして今……その黒のナイトが立ち誇る場所。

 




 その戦争の終わりを示す。 

 最後に。その勝者は揺ぎ無い瞳を。

 




 この戦争の敗者へ……灯に向けて宣言する。

 


「チェックメイト――で、いいかな?」



 涼しげな表情で、ニコッと彼はする。

 先程までの真剣な顔とは信じられない程。

 穏やかでカッコイイ……いつもの騎士がそこにいた。

「……やっぱり強いね。騎士君って」

「お前達のチームリーダーだからな。仲間を率いて対局する以上、弱い姿なんて見せられないよ」

「あ。なんか今のリーダーっぽい発言だったね」

「『ぽい』ってなんだ『だった』ってなんだ……だが」

 ……

「楽しい対局だった。今度、また戦おうな」

 

 『楽しい対局』……か……。

 

 本音があるとしたら……正直悔しいさ。

 あと一歩と騎士を攻め込めたのは事実。敗因を上げるなら……一瞬の油断だっただろう。

 

 『悔しい』なんて思い……騎士が知る日なんて来るだろうか……。

 

「灯。大会に出る上で確かに勝ち負けは大事な事だ。チームとして対局する上で、二人以上の敗北は許されない。確かに大事な事だ」

 

「だが、それよりも大事な事は――灯。お前が今こうしている事なんだ」


 その言葉に。ふとっ、顔を上げ騎士へと向ける。

 いつもより。真剣な顔を浮ばせ……。

 その瞳は真っ直ぐに、ただ私を見つめ。

「ずっと待ってたんだ。灯と一緒に大会に出たくて、ずっとうずうずしてたんだ。今俺の前にいるだけで……こんな幸せな事はない」

 すると……騎士は私の頭に手を乗せ、優しく撫でて、

「よく頑張ったな灯。俺の前に出てくれて、本当に感謝してるぞ」


「そ……そんなお礼なんて言わないでよ。私だってさ。私だって……私はずっと」


 ずっと 騎士君を追いかけて来たんだから と、その想いを伝え様と。

 勇気を振り絞り、言おうとした今――。









 ガチャ。



「ごめんなさいごめんなさい遅刻してごめ……って、あれ? 灯ちゃんと鐙先輩だけでしたか? 他の皆さんはど」

「おぉぉぉぉマイ・プリンセスよぉぉぉぉぉッッ! 可憐で可愛いくてキュートな愛しき君から会いに来るなんて……本望だぁぁぁぁぁ~~っ!!」

 

 その速度、僅か数秒だろうか。

 たった一瞬にして、私の片想い相手はルパンダイブを決めていた。

 その距離、僅か頭一個分の近さ……で。


「ひっ――きゃぁぁぁぁぁぁぁごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ~!」



 ぐぽっ。




 なんという事でしょう……今、騎士の喉に白旗の棒が突き刺さったじゃありませんか。

 現に。その証拠に、

「ぐっっっっほへっっ!?」

 鳥が壁にぶつかった並の声を上げ、そのまま横になってピクリとも動こうとしない。

「え? ……うっえええええぇぇぇぇぇぇ!? 鐙先輩大丈夫ですかぁコレいや絶対ダメだよこれ口から血が出てるもんうわぁぁぁぁぁぁごめんなさいごめんなさいごめんなさい鐙先輩ごめんなさい白旗振りたい振り謝りたいですけど白旗が喉に刺さってあぁぁぁぁごめんなさいごめんなさいごめんなさい鐙先輩本っ当にごめんなさいごめんなさ」

 グルグル目を回しもはやパニック状態。どうしていいか分からずただ土下座を決め謝るばかりだ。

 ……おっとご紹介を忘れてた。

 私の憧れの人物は……今こうして涙目で謝罪をしている彼女。

 その子こそがあの【十天王】をたった一局で勝利を掴んだ少女――その名は。

 ――白旗の女子高生 葉田白子。

 ……あと、恐らく白子は気づいていないだろう。

 一見気絶している様にも見える……が、よーく見て欲しい。

 右腕から少しずつ、少ーしずつ目線を下らせてみれば……。

 

 ……この人ガッツポーズしてるよ。

 

 恐らく。騎士は別に口から血が吐こうが、窒息しようがそんな命の危機は気にしていない。

 考えたくもない答えだが……きっと『幸福』の時間なのだろう。

 『好きな人のリコーダーを吹く』様、『好きな人が持つ白旗を咥える』のが余ほどの幸せを表情見ても感じられる。


 一言で言うなら……とんだ変態紳士野郎だ。


 鐙騎士。彼こそ私の初恋相手であり、片想いの相手だ。

 ……だが残念な事に、私の初恋相手は『時々変態紳士』になる様になってしまっていたが……細かい事は気にしない様努力している。


「あわっわわわ灯ちゃんどうしよ! このままじゃ鐙先輩窒息死しんぢゃうよどうしよどうしよ!?」 

 

「とりあえず……早く抜けばいいと思うよ?」






 ☆ ☆ ☆

 







 あれから数十分経った頃。



 多少のハプニングがあったが、白子含むチェス部員達が集まりそれぞれ個々の時間を過ごしている。


「まーお前らに話た通りだ。『公立魂乃残たまのこし高校』から練習対局の招待状を受け取ったのは話したなー。で、日時は明日、他にも何校か招待されているらしいがー『各校から代表4名のみ』と選抜しろだそーだ」

 で。

「今回は『緊張に慣れてもらう』と言う事で、一年生共で明日の練習対局を挑んでもらう……お前ら文句はねぇだろー?」

 

 ……だが。そこに『待った』がかかる。

「あらぁ。顧問にも呆れたものざますわ……そんな雑草練習など必要などないのに」

 ティーカップを置き、ちらっと目線を向ける彼女。

 清々しく。堂々と……その小っちゃい身体から放つオーラを纏った。



 超小柄の高校一年生、王城ラベンダーが見ていた。



「野蛮猿共ならまだしも、何故。この強者である私がお粗末レベルの練習対局で手を汚す必要があるんざますか? 練習など不要。そんなお遊びしている暇があるならオペラを聞き優雅に過ごしたいわ……あまり、私を舐めないでもらいたいざますね」

 しかし。そこに予想を反する人物の待ったがかかる。

「あ……あの……それ以上言うのって悪い気が」

「は? 誰ざます貴方? 自己紹介もなく私に注意とは呆れる事。無礼にも程があるざますよ」

「うっ……え、えーっと。に、二年の美底灯みそこともびです。一応チェス部員だから今後もよろし――」

 と、言い終える前。

「みそこともび……あぁ貴方ですか。結構耳に入るざますよ貴方の話題。盛りの男子共では話題の的ざますよね?」






























「『奇皇帝高校のザ・マドンナ』さん」




 それはマッハ100並の速度。

 一瞬にし、灯の頬はカッチカチに凍り付いてしまった。

「え、ええっと……」

 苦笑いを浮かべ、その聞き覚えあるワードに明らかと惑う灯。

 だが。

 そんな気などお構いなしにティーカップを口につけ、ラベンダーは再び話始め。

「あら? ご自覚なくて? 登校初日にして廊下を歩いただけで校内9割の男子共を魅了させ気絶者が多発したとか。して、翌日から昼と放課後にかけて10人近くの男子から告白される毎日。振って振って振りまくり……で、振った数は『計100人』を突破しとか聞きますがお間違いなくて?」 

 そんなに告白されてたの!?

 白子でも知りえない情報に驚きが隠せない。

 いや。流石に盛られた噂だろうそうだよね灯ちゃん?




「…………うぅ~」




 顔真っ赤ッ!? どうやら嘘ではないらしい。

「私から見れば到底理解できないざます。偶々お顔とお体が整ってる……たかがその程度でホイホイ男共に声を掛けられる。で、察するに余りモテると言う自覚がない様ざますね?」

 目を細め。傍から見てもわかる圧が伸し掛かるその目線。

 ラベンダーからの、その問いに有無は返せるわけがなく。

 ……気のせいか。先ほどよりも縮こまった様に伺える。

「私から見れば。見た目もこれっぽちも『小さい』と言う要素もなく、変な所に肉が着いた哀れなお嬢様としか見受けられない。一体何を食えばそんな駄肉が増えるのか理解に苦しむざますわ」

「うぅ……やめて、お願い……恥ずかしくて死んじゃうよ……」

 確かに。私だったらその辺の窓へダイレクトダイブして命を絶っているだろう。

 それ程にもベラベラとラベンダーはガミガミと……まるでどっかの憎たらしい姑レベルの小言を連発。そして、更に続けようと。

「あと他にも――」

 




「おっとすまないねお嬢様。それ以上はお言葉を謹んでもらおうか」





 そこに。颯爽さっそうと優雅に、だが落ち着いた声音で彼が止めに入る。

 ほんの一瞬、眉を細めラベンダーは。

「あら、先週の魔界オーケストラ行進曲の劇場以来ざますね。口出し出来る度胸はあるにも挨拶はなかったざますね――鐙騎士?」

「これは失礼。恐らく余りにもお身体が小さかったので、僕の身長では気づけなかった様でどうかお許し下さい。お嬢様」

 と、その一瞬。

 ラベンダーの顔は……真っ赤になる。

「ふんっ。まぁお世辞が上手な事で、これぐらいで勘弁してやるざますわ」

 そして。またティーをすすった後。

「まぁ……多少のお遊び程度なら付き合ってあげる。顧問さん、光栄に思う事ざますね」



 ……言わずともだが。今、ラベンダーは超上機嫌だ。

 あくまで予想だが……きっと、『お体が小さかった』と。ただその一言でこれだけ上機嫌になる。



 それがラベンダーの、ちょっと変わった個性でもある。




「……お前達は何も言わないが、『承諾した』と言う認識でいいんだなー?」

 ソファーで寝転がる高身長の彼。組んだ足をぶらぶらと揺らし……ただ一言だけ言う。

「ただ目の前の雑魚を倒せばいいんだろ? 簡単だ。楽勝だろ絶対」

 大きな欠伸をして、上代皇絶かみしろこうたはそう言って。

「…………」

 瞑想中の彼、星屑穂希ほしくずほまれは無言のまま。

 大体無言の時は『了解』と言う認識だ……つまり、穂希も異論はない様だ。

「んじゃ最後に白子……お前は?」

 気が緩んでいたが、突如話を振られてビクンっと体が反応する。


「私は」「オッケーんじゃあ一年共明日『魂乃残たまのこし高校』の校門前集合なー」


 ……はい。いつもの事です気にしません。

 私の応答は無用の様で。直訳すれば「来い」ですね……拒否権は相変わらずないんですねそうですか。

 さて。そんなこんなで話も終始着いた様で。

「んじゃーそう言う事でだー。二年生共は明日だけゆっくり休めー。んじゃーそういう事で」

 ぱんっぱんっ――と、束花は軽く手を叩く。

 それは活動終了の合図を現し、『帰宅していいぞ』と言う意味でもあった。

 (はー……今日も無事に帰れそう……)

『今日も終わる』……と。

 その安堵からか、ドッと体が重く伸し掛かった気がしなくもない。

 

 そしてドアノブに、手を掛け。帰宅しようと……した瞬間。

「あーそうだ。『』って言う事だからよろしく頼むぞー。んじゃあそういう事だから……解さ――」

「待ぁぁぁぁぁぁぁぁぁってくださいッ!」

 

 ……一瞬に、その沈黙が流れる。

 若干白けた空気を作ってしまった気もする。だが、そんな事などお構いなく真っ先に出た疑問ワード。

 それを……口にする。

 



「……まいこまって……何ですか?」


「いやーマイ駒はマイ駒だろ?」

「マイ駒はマイ駒だろうがぁ」

「マイ駒はマイ駒ざますね」

「マイ駒知らねぇンざ呆れたァ女だ」




 お願いだから真面な回答をしてよ……。

 まぁでも、鈍感な私でも多少気づいてしまった。

 恐らく、だが。

「仮にですが、もしマイ駒って『自分の駒』と言う意味でしたら……私、駒なんて持ってもせんからね」

「またまたー。白子お前ジョークが上手いなー、チェスやってる奴ならマイ駒持ってないアホなんかいねーよ」

「無理矢理チェス部に入れされてマイ駒持ってる方がおかしい話って思いませんか……?」

「じゃ買えよ。今日の帰りとかー、校門出たら信号渡ってすぐそこのセブンの店。あそこ便利だから何でも売ってるし駒の一つ二つあるだろうー」

 ……コンビニに駒単体で売ってるわけないだろ……。

 テキトーすぎる。そんな束花の返答に返す元気もなく、

「そもそもっ、駒なんて買う大金なんて持ってませんよ……ごめんなさい」

 そう言って。「皆さんの対局を見て勉強するので……見学って形でお願いします」と白子は束花にダメ元で提案する。

 ……が、まぁそんな事を束花が許すわけが

「あーいいんじゃねー別に」

 いいのかよ……それはちょっと予想外の返答だが。

「ごめんなさい。そう言う事なので……明日はよろしくお願いします」

 灯に手を振り。部室を出た後。

 無事に……本日の部活動は終了した。

 

 




























 次の日。


 手錠と目隠しされ。校門前で白子は拉致られました。



☆ ☆ ☆




  

 千葉県君津きみつ市。

 

 電車で数分乗った先にある木更津の隣町だ。

 駅付近には多少の建物で囲まれ。一見すると『木更津よりも都会』と思っても不思議ではない。

 『飲食店』は100数件。『大型デパート』は小さいものの5件近くあちこちに並び立つ。

 

 事実、『普通の町』木更津と比べれるとどれだけ盛んな地域かわかる。

 それは……一目瞭然程。

 ここまで聞けば。如何に君津が都会ということは伝わっただろう。

 

 そう――ここまで聞け、ば。


 実際はそうでもない。数キロ車で走れば田圃が広がり。

 もぅ数キロ進めば……森。

 また数キロ進めば森。

 そして数キロ進んでも森だ。

 大自然豊かな場所と言えばそうなるが……言ってしまえばド田舎レベルの田舎さだ。

 しかし、そんな田舎町で。


 駅周辺の人通り少ない路地。そこで一台の黒塗りスポーツカーが今停車する。

「よーぉし着いた着いたー。待たせたな白子ー、ここが私行きつけの『チェスショップ』だぞー」

「……」

「こんな細っこい道だが、チェスファンなら知る人こそ知る場所で隠れが的にある……どうだ? ロマンに感じるだろー」

「……」

「いやー道路は渋滞してたが案外早く着もんだなー。」

「……」

「……おいおい白子ー。聞こえてるかー?」

「……」

「聞こえてんだろー。さっきから無視すんな私が寂しくなるだろー? せめて返事ぐらい返せよー。苦しまない様 耳 と 口 は塞いじゃねーんだから返せるだろー?」




 誰かこの犯罪者黙らせろ。




 意気揚々と話してるが。朝、閉まる校門に着いて(あれー……先生何処で待ち合わだったっけ)と、辺りしていたら。

 ガバっ! って背後から目隠しされ腕手錠かけら車へぽいっと拉致され今に至る。

「……先生。これ普通に犯罪だって自覚してます?」

「安心しろー白子。私は女だー」

 どうしよう回答になってない……。

 

 ともあれその後。無事に両足両腕の縄を外してもらって、束花の後ろを追いかけ無事にチェスショップへと入店し店内を探索していた。

 空箱の段ボールが積み重なって余り広くもない店内の道……だったが、

 奥へと進んだ先に広がる景色に言葉が失った。

 

 そこは――キラキラと輝き放つチェス盤が広がっていた。


 壁一面にガラスケース。その中綺麗に並び立つ色とりどりの駒が飾られ、もはや芸術のそのものだった。

 チェス好きなら『一度は行ってみたい』と思う程の品揃えの数々……もはや宝庫だ。

「ほらっ、ボーっと見てないで行くぞー」

 そう言い、スタスタ歩き出す束花。流石常連と納得する程、わき目も振らず歩き出し白子はおどおどと後を付いていくしかない。

 どうやら、目的の駒は既に決まっていたらしく。

「こ、これですか……結構豪華そうですね……」

「ああ。ブランドもそこそこ有名だしなー、白子が持つならこれぐらいじゃないとな」

 値札は何処にも付いていないが……駒だけなら然程高くもないはずだ。

 決まれば早い。早速この駒セットを購入しようと、

「あ、あのーすいません。これお願いします」

 レジ後ろ。そこにいる店員らしき人に購入をお願いしようとした。

 そう。しようとした……が。

「…………」

 後姿からしか分からないがその男性店員。ボサボサ髪のまま、パソコン画面に向かい。

 ……いくら待っても返答がない。

 聞こえなかったかな? と、今度は。

「えーっと、ご、ごめんなさい。この商品お願いします!」

「……………………」

 なるべく大きめな声を張って言った。言った……が。

 相変わらず画面の向こうを覗くばかり。全くこっちを見ようとも返答もない。

「あっ……あのっ! これっ! お願いしますぅぅぅぅっ!」

 今度は店内に響く程の声だっただろう。

 自分で言ってても恥ずかしい程、こんな屈辱を味わっても店員さんの返事は。






























「……」




 相変わらずの……無反応でした。

「…………私もう帰ります」

「そぅへこむなってー白子。そろそろアイッが出てくるから少し待ってろー」

 アイツって誰だよ。……だがもう遅い。私の心は既に帰宅モード。

 そう思って。白子が立ち去ろうと振り返っ――た、

「はーいはい! 待たせて悪かったねお嬢さん達」

 が。その言葉に呼び止められた。

 

 ジーパンに白Tシャツ一枚となんともラフな格好で挨拶してきた……お兄さんがいた。

 

「よっ。初めまして可愛いお嬢ちゃん。今はこの店の店長代理してる愛雄まなおだ。良かったら覚えて帰ってくれ」

「はぁ……どうも」

 

 第一印象は……チャラ男。

 服はジーパンに白のシャツ一枚とラフな格好。パッと見は人畜無害にも伺える。

 何振り構わず。きっと誰でも気楽に女性に話しかけるタイプだろう……。

 きっと私もそうだ。腹の中では『へへっ。この女、どうお金を巻き取ってやるか』とか『へへっ。この女、良い尻してんな~』とかっ! そんなゲスな事を考えて話しかけて来るんだ。きっと……そうに違いない!!


 ……と。まぁそんな偏見は置いといて。

「すみませんあのぉ~、あそこにある駒セットを一つお願いします」

「いい物選ぶねお嬢ちゃん。その駒を選ぶとは相当見る目がある……」

 手慣れた手つきは流石店員さん。パパパっと、レジを打ち込み。

「それじゃあ『バカラ』駒単品のお買い上げで」

 パッと。レジ画面に金額が表示され、淡々と愛雄は言う。


「計10005350頂戴するね」



 バチコォーーーーンッッ!



 勢いよく丸めた広告紙が頭上にクリーンヒットされた。

 だが、その痛さに動じず(※だが、ちょっと涙目を浮べ)。

「束花先生。帰りましょう。詐欺師と話しても真面な会話なんて無理です、さぁ今から一緒に警察に届を出しましょう。『詐欺に逢いました』とっ!!」


「 落 ち 着 け 」


 バチコォーーーーーンッッ!

 うぅ~……。

「二度も頭に打ち付けないで下さいよぉ……」

「お前がアホ丸出し発言連発するからだろー? それぐらい自覚しろー」

 明らかに呆れた表情を浮べ、束花は持ってた広告紙をゴミ箱に入れた。

「今このバブル時代で駒の相場なんて大体それぐらいだ。数十年前だって高い駒なんて『数十万』する物なんてざらにあったもんだなー。今はチェスブームあってか、昔よりもブランドもメーカーも多数参戦して中にはそのれを何十種類も棚に飾るイカれたブルジョアも存在する」

 だから。

「この値段は妥当って事だー。嘘でも詐欺でもねぇーから安心して買え」

「…………」

「まーた黙りか、おい。最悪今の持ち金で買える駒探す事に変更するから有り金全部ここに出せー」

 白子は頷く事もなく、ボロボロのがま口を取り出し。

 ちゃりんーー…………っと。

 愛雄も束花も流石に目を細め、その縁型に輝く物体を見つめた。

 

 500円玉が……キンっキラに光っていた。


「……お前さー。まさか500円玉が大金なんてクッソ面白くもねージョーク言うんじゃねーよな?」

「……」

「おーい白子さーん? おーい。おーい。反応しろやおい白子。流石に今回白旗振って許しを乞うしても『500円玉で駒を譲ってください』とか最安値1憶円からの店で爆弾発言するなよー」

「……ぐっす」

 それは前触れもなく、唐突に訪れる。

 白子の。悲痛な声と共に。

 ――どっかの都知事並の号泣顔が浮かばれていた。

「だ……だぁぁぁぁぁっでぇ~~ッ! 仕っ方ないじゃぁないですかぁぁ~~ッ!」

「うっわ声汚」

 思わずうずくまり、頭を抱え白子の悲痛な叫びが店内中に響き渡る

「月一回貰えるおこずかい150円ですよ? それを貯めに貯めてやぁーーーーっと貯めて500円になったこの重みと意味がわかりますかっ!? そもそも貧乏人がチェスセット買う所から話がおかしいです有り得ないんですよぉぉぉぉぉ~っ!」

「わーかったわかった。だから頼む、お前もぅピッチピチの女子高生でそんなどっかの号泣会見並の顔で喋んなー。色々絵ずらが酷くて先生困惑だー」

 なんのなこの人。全く話聞いてないじゃん!

 どうやら。長く我慢していたこの人への不満がついに限界が来た様だ。

 もぅ……言いたい事言ってやる! ……と、した時。

「あ! そうだぁお嬢ちゃんいい物があった。ちょ~っとだけ失礼」

 だが、そこに待ったがかかる。

 何やら後ろの棚へ振り向き、ホコリを被ったその袋を掴み白子達の前で出して見せた。

 レジ・カウンターの上に広がる木製の駒達……

 お世辞にも『綺麗』とは言えず。

 まるでそれは……古びた駒だった。

 

「昔から店にあった駒でね、処分に困ってたんだ。それならタダでいいよ」

「 タ ダ ! ? 」

 

 …………。

 

 ……はっ! しまった。

 条件反射的に貧乏人特有の反応をしてしまった……少し顔が赤くなった気もする。

「ははは! そうだよな誰だってタダは嬉しいよなー、わかるよその気持ち」

「ごごごめんなさい! あの……つい素が出てしまってその……」

 ゴツンっ! 「いたっ」

「謝罪はいい。早く受け取ってささっと会場に向かうんだから、貰える物は貰っとけー」

 そう言い呆れた表情で束花は


 これが……私の駒達……。


 複雑な気持ちを抱いたまま、その駒を。

 恐る恐る。この手を伸ばし……して。

 それに触れた。

 

 ――瞬間。

 

 ドックンっっ!!

 

 その時、私はよく分からなかった。

 何故か分からない……分からないが。

 さっきの駒に触れた瞬間、妙な衝動に襲われた。

 心臓の音が大きく跳ね上がり、息苦しい衝動に突然襲われたような感覚。

 けど、その時ふと思った事がある。

 何故そう思ったか分からない。けど……私の中の『どこか』で、自然とその想いが出てた気がする。

 たった一言だ。

 その駒を握った時、ふとそう感じたのだ。

 心の何処からか――湧き出たその気持ちを。

 

 





















 ―― 懐かしい ――と。







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