第三章 旗を掲げる二人編

オープニングステージ 『ハッピーエンド』


 勢いよく、その物体は天に高く飛ぶ。



 透き通ったガラスの靴が宙を回り。



 こんな闇に囲まれた空間でも、それは一つの星であるかの様な輝きを放って空を舞う。


 彼女は――笑みを浮べ眺めている。





























 それはまるで、明日の天気を占う子供の様に。

 




























 明日は晴れかな?


 それとも雨?


 曇りは遠慮して欲しい。


 でも霰だったら面白いわね。


 霧なら一度は見てみたいわ。

 




























 なーんてね。





 そんな空の顔色も、もう二度と見れるわけないのに。

 

「私の足に見惚れたの? これでもまだ乙女なのだから、体に見惚れないで欲しいわ」

 そう言って。慌てた素振りで、その人は平謝りで頭を下げている。

 ……まぁ別に、誰に見られても私が害を受けたわけじゃない。単に本当に見られるのは恥いただけの事。



 可笑しい話ね。昔は見られても人なんて眼中になかったのに。

 ふとっ、その人の視線向ける先に目を向ける。




 螺旋らせん階段。




 途中から闇に覆われ、その先が見えない。ただ長く続く……【∞階段】。

 きっとその先が気になるのでしょう。普通の人から見て異状な光景に見えても仕方ない。

 何処までも続く、その階段に終わりが見えない。

 あなたはただ、その途方の彼方を見つめて。

 きっと、こう思っている事でしょう。





























 『 この先に何があるんだろう? 』っと。





























 暗く閉ざされ未知なる先に好奇心が。

 純粋無垢じゅんすいむくに、そう思うことも仕方ない事だろう。





 ……だけど。





「その階段、昇らない方がいいわよ」

 




 そう――それは決して知らなくていい事。

 『上り詰めた先に何があるんだろう』と、思うことは自由だ。


 考えるのも自由。


 想像するのも自由。


 理想を思い描くのも自由だ。

 




 だが――その先は決して上っては行けない。

 




 その理由はいつか何処かで話すわ。





 きっと――必ず何処かで。




「今日もまた話ましょう。今日はそのベットの上で横になって、ゆっくり休んで聞いて欲しいわ」




 天井が闇に覆われた空間。

 その下元で、普通のダブルベットがある。

 そこでまた体を横にして。また語ってあげよう。

 また――その物語を話そう。

 





「――【白旗少女のハッピーエンド】の物語を――ね?」

 









 ―――――――――――――。

 







 『黒旗』を掲げた少年と。『白旗』を揚げる少女の戦いは終わった。





 ――∞ドル。






 夢の様な大金を賭け、生死を削って続けた戦争は――たった一人の少女の勝利で終焉を迎えた。



 大観衆が見守る中。そこに、少女は堂々とした態度でいる。




 その大金を受け取る授与式に、観客の誰もが揃って口にした。








          っと。







 喜ぶ顔ですら、感動する顔すらも出さない。

 ただその顔に……感情がないまま。

 顔色変えずその額を受け取った少女。

 その時だっただろう。

 僅かに……ほんの一瞬だけ、少女は微笑を見せたのだ。

 今迄『笑顔』一つ見せなかった少女。

 その少女が、唯一その時だけ見せた微笑みに観客の拍手が沸き起こり、無事にこの闘いに終焉が訪れ終わりを迎えた。

 そして。

 その少女が微笑んだ一か月後。






























 アメリカ・ホワイトハウス上空から――たった一発の核爆弾が落とされた。








 その威力は計り知れず、アメリカ合衆国の半分が爆炎に包まれて無くなった。

 泣き叫ぶ事も許されない。ただ無残に――100万人近くの人間が亡くなり、灰になった町には。




 元は人だっただろう物体が何人も横たわっていた。





 主催であった大統領も亡くなり。

 平和に暮らす住民も亡くなり。

 何も罪もない人々が亡くなった事に。

 世界は悲しみの涙で溢れ。

 世界は怒りを上げ怒号が飛び交った。

 




 その主犯格にして、その国を誰もが恨んだ。

 かつてアメリカに敗戦し。

 長年の復讐を果たしたその敗戦国を。







 ――日本を。

 







 そして全世界は武器を構えた。

 ある所では何万人の兵士を。

 ある所では核ミサイルを。

 ある所では暗殺部隊を。

 ある所では核爆弾を

 




























 全世界が向けた銃口は――白旗の少女を的に絞った瞬間だった。


 

 

 

  


「今日はここまで」

 ――ね? っと、私はそう口にして。

 その人が横になるベットで、私は優しく微笑んで終わりにする。


 そこまで話した所で、その人の顔を見て……思わずクスっと笑ってしまっていた。


 不思議そうな顔をして。

 だが何処か不安げな表情を浮かべていたその人を見て。

 ダメだわ。思わず笑ってしまって失礼な所を見せてしまったわ。

「今日は疲れたでしょ? 遠くからわざわざ来てくれたお客さんだから、ゆっくりベットで休んでちょうだい」

 すると、彼女はその手を伸ばして。

 ……優しく、その人の頬を撫でて見つめる。

 やがて瞼を少し、また少しとその人は閉じていく。






 そんな怖い事は考えなくていい。





 この物語はまだまだ続くハッピーエンドのお話。





 この物語の終焉で待つのは、『悲しい』終わりじゃない。





 この物語は誰もがきっと『笑顔』で終われる……優しい物語だ。





『何故それが断言できる?』かって、そう問われれば答えは決まってる。






 だって――この物語を知ってるから。







 きっと私も――笑顔で終われる物語だと思うから――そう確信しているから。

 







「明日の朝、またこの部屋で会いましょう。……ね?」





























 今が何分か

 今が何時か。

 今が何日か。

 今が何月か。

 今が何年か。





 それとも昼? いや、もしくは今が本当に夜かもしれない。

 





 だって――





『おはよう』と私が言ったら今は【朝】なんだ。


『おやすみ』と私が言えば今は【夜】なんだ。


『おはよう』とまた言えば、また次の日になったんだと。

 

 




 次第に、瞼を閉じて行く貴方に。微笑みを浮べ。


 して。


 ――今日の終わりを告げる挨拶を送って。今日は終わりにしよう。


















「おやすみなさい――また、明日ね」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る