第13話(柳灯)
「灯さん。蒼で散々遊んでしまったので、ねぎらい代わりの打ち上げ連れて行ってもいいですか?」
俺が暁兄のところを出てすぐ、航太から電話がかかってくる。そんなどうでもいい連絡LINEでいいのに、こいつは電話が好きだ。
あまりにタイミングが良いものだから、俺はついつい周りを見回す。
「心配しなくても見てないです。」
「まじかよ!?」
「冗談です。」
「見てないですよ。藍子さんとやらを車で送っていくところも。」
「見てたのかよ…。」
「見てないです。車がなくなってたので鎌をかけただけです。」
こいつに真面目に話していても仕方がない。
「車回収したらまずかったか?」
「もう入荷は終わってるので問題はないですよ。佑都先輩も車ありますし。」
「そうか…。んで、蒼?打ち上げってまだ学祭残日あるんだけど。」
「大学生というのは得てしてそういうものですよ、灯さん。」
「なんでもいいけどよ…。蒼もお前も未成年だから飲むなとは言わないが、飲みすぎるなよ。あと蒼に飲むなら実家じゃなくて俺の家のほうに来るように言っておいてくれるか?」
「了解しました。」
「ああ、あと俺は不参加で。」
「はなっから灯さんの代わりに蒼をカウントしてるんです。」
「あ、そ…。」
相変わらず遠慮のないやつ。
そしてそれから数時間後、家に帰り着いた俺は、落ち着けるため、作ったことも作ろうとしたこともないややこしい料理をしていると、俺のアパートのチャイムが鳴る。
「蒼か。」
時間はまだ8時。打ち上げ終わりにしては速い気もするが…。
「蒼?あれ、航太…。」
「どうも。」
「蒼は…つぶれたか。」
「すみません、さすがの俺もビール二杯でつぶれるのは予想外でした。」
淡々と蒼を担いでいた航太が言う。蒼
「それは弱すぎる蒼が悪い。気にするな。」
謙遜でもなんでもなく、ビール二杯は飲ませすぎじゃない。なんでこんなに弱いんだ。
「蒼、寝てるのか?」
「爆睡です。言っちゃなんですがここまで結構雑に担いできましたが起きる様子もないです。」
蒼を受け取り流れるように床に落とす。
「え、お前会場からこいつ担いできたの?あとお前も酔ってるの?」
蒼はいくら細身であっても割と長身で、言っちゃ悪いが航太より明らかにでかい。
「流石に無理です。タクシーです。あと俺は飲んでないです。」
「なんで?」
「未成年なんで。」
「その理屈で飲まない大学生はお前くらいだ…。それにお前姉さんたちから推測するに、まったく酔わないだろ。」
「姉さんたちは強すぎです。それにあれだけ酔っ払いが発生しそうな空間でおちおち飲んでいられません。」
「…お前も泊まっていくか?」
「帰りますよ。家に帰って姉貴とでも飲みなおします。」
「…ちょっと待ってろ。」
床に落としていた蒼を担ぎ上げてソファに落とし、近くにあった財布から適当な金額を親からの仕送りを入れていた封筒にねじ込む。
「まあ、汚いけどいいだろ。封筒あってよかった。」
余計な出費だが、おそらく立て替えているであろう上に、場の処理をしてきたのが予想できる航太に対してそのままでいるわけにもいかない。
「航太。」
封筒を渡すと航太は察したらしく嫌そうな顔をする。
「いりませんよ。幸い金には困ってないので。知ってるでしょう?」
普通の大学生なら嫌味だが、こいつの場合事実だ。こいつは売れっ子作家様だから。
「お前がやたら稼いでいるのは知ってる。だが、弟の金を後輩に払わせたら、俺のメンツがないだろ。俺の顔を立てると思って受け取っておけ。」
まだ嫌そうな顔を引っ込めないながらも渋々受け取る航太の頭をなでる。
「じゃあ、ありがとうな航太。気を付けて帰るんだぞ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます