第11話(柳灯)
「藍子、ついたぞ…。ってこりゃ起きそうにないな…。」
藍子の家の前にたどり着いて、声をかけるが明らかに熟睡。思えば藍子が泣いたのなんて、俺の記憶にはない。いろいろ抱えていたものもあってものすごく疲れたのだろう。起こすのも可哀想だが、ここに置いておくわけにもいかない。
俺は助手席に回って、ドアをあける。
「おっと…。」
思ったより藍子がドアに体重をかけていたようで、慌てて藍子を抱きとめる。
「こいつの性格じゃ、叔母さんたちに泣いたのばれたくないだろうし…。」
なんだかんだと言い訳しながら藍子を抱き上げる。車のカギを運転席に回って締め、勝手知ったる従兄妹の家の扉を開けて上がりこむ。
この家は平均より金持ちのくせに、セキュリティが緩い。
自分の靴と藍子の靴を地面に放り投げると
「藍子ー?帰ったの?」
ドアの開いた音を聞きつけたのか、叔母さんがキッチンから声をかけてくる。
「叔母さーん、俺、灯。藍子俺の学園祭来てたんだけど、さすがに疲れちゃったのか、寝ちゃったから運んできた。藍子の部屋入るよー。」
「あら、ごめんなさいね灯。藍子の部屋散らかってるからあんま見ないでやってね。」
「蒼の部屋に比べりゃ何でもましだよ。」
「それもそうね。頼んだわ、灯。」
「はいよ。」
そのまま廊下を突っ切り、階段を登って藍子の部屋のドアを開ける。
「相変わらず力作…。」
藍子のベット際の壁は、優ちゃんの撮った写真で埋め尽くされている。ものすごく青く藍色だ。優ちゃんがいなかった間、藍子を慰めたものであり、優ちゃんが持ち帰った、優ちゃんがいなかった時代に優ちゃんの存在を証明するものでもある。
その下に置かれた、藍子のベッドに藍子をそっと横たえる。
とたんに、ずっと見えてなかった藍子の表情が見え、そのあまりに無防備な藍子の涙の残る寝顔のあまりのきれいさと純粋さに飲み込まれそうになる。
慌てて藍子の部屋を出ようとする、俺の耳に届いた
「-ちゃん」
一体誰の名前を呼んだのだろう。
「叔母さん、藍子寝かせてきたから。」
「ありがとう、灯。お茶でも飲んできなさい。」
「ん。残念だけど、車返しに行かなきゃいけないから。」
「そ、残念ねー。また来なさい。蒼時々来るわよ。」
「はいはーい。」
玄関に先ほど脱ぎ捨てた靴をそろえ、顔を見られないように逃げる。突如妹分に抱いた、この邪とも思える感情を悟られるのが嫌で。
急いで車に戻って、ハンドルに突っ伏して深呼吸。
「暁人君に相談しよ…。」
電話を取り、暁人君がいることを確認する。
この車を貸してくれた兄貴分しか、助けが思いつかず、安全運転をいつも以上に心がけながら車を発進する。
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