第5話(神野優)

「優ちゃーん!」

ああ、来てくれた…。安心した僕の意識はそこで薄れていった。


「ん…。」

僕の意識がいい匂いに刺激されて復活した。

「起きたの?寝てて?どーせまともに食べてなかったんでしょ?年下の従妹の女の子に運べる程度の軽さなんだもの。」

まくし立ててくる百奈に謝罪も感謝も放り投げる。

「百奈。」

「ん?」

「その食材どこにあった?」

自慢じゃないけれど、冷蔵庫は空っぽで栄養食品しか入ってない。こんなおいしそうな匂いがだせるような食品はない。

「さっき叔母様から食材が届いたのよ。勝手に受け取って使わせてもらってる。また優ちゃんが倒れないか心配で仕方がないんでしょ。」

「母さんか…。おかげで写真撮りにも行かせてもらえない。」

「さすがに1年放浪、1年眠り続けるのはやりすぎよ。その間にいろいろなことがあったんだから…。」

「いまだにあれが何だったのかわからない。」

「眠っている、としか表現のしようのない状況だったからね。」

百奈は僕のおでこにふれて、

「まだ熱があるね、」

横に湯気の立つ雑炊を置いてくれる。それをありがたく受け取りながら答える。

「ちょっと頭痛いけど、このくらいなら平気…。母さん、食品にはこだわるから、定期的に送ってくるんだよな…。半分も使い切れなくて方々に配ることになってしまうんだが…。」

「もったいないね。っていうか、優ちゃんが今日ならいるっていうから相談に来たのになんで優ちゃんがぶっ倒れてるのよ…。」

「ゴメン…。話くらいなら聞けると思うけど…。」

百奈はふっと笑って、

「病人に負担をかけるようなことはできないわよ。」

「そりゃ見上げたプロ根性で…。」

熱にうかされながらも、百奈の思いつめた様子に兄的感情が沸き上がる。

小さく笑った百奈は

「どのみち私も相談はしたかったけど、あまり話したくない話だったからいいわよ。もしかしたら本人が来るかもしれないし。」

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