第4話~番外編~(永峯遥)

「こうやって三人で帰るのも最後か…。」

「さすがに大学まで同じはな…。」

「歩と朋子同じらしいけど。」

「まじかよ。あいつらどこまで腐れ縁なんだ。」

「本人たちも苦笑いだったよ。」

高校の卒業式の後、私と奏と灯三人並んで帰る最後の日。同じような場所からスタートして、同じ場所に向かっていく日々が今日で終わりを告げる。

私は女子大に、奏は体育大に、灯は文学系の大学に。それぞれ夢を追いかけることなる。

そして私は灯に聞きたいことがあった。

「灯。」

「なに?遥。」

「答辞書いたの灯?」

答えはない。

「水波の答辞なんか変だったか?」

「んー。ぎりぎりのラインでセーフかしらね。水波君だし。あんな芸当できる人は限られてると思うんだけど。」

灯は観念したように、

「水波のやつが航太のところに改編を持ち込んだんだよ…。そしたら航太ぎりぎりアウトだろうってやつ作るから、何とかあそこまで持ち直させたんだよ。」

「あいつ面白くするためだけに、核弾頭みたいな後輩使ったのかよ!ほんと水波は…。」

「航太君が絡んでるならあれで済ませた灯をむしろほめるべきなのかしらね…。ほんと水波君は、全部を結果でだます…。」

「いいじゃねえか、水波の答辞感動的だったし。あれ、もとはちゃんと水波なんだろ?」

「ああ、そこが水波のいいところだ…。」

「まあ、いいわ。終わったことだし。3人で制服着てこの道歩くのも最後だから、しみじみ帰りましょ。」

私たちの学校は幼稚園からずっとほぼ一直線上にあった。その10年以上のほとんどの日々を、私は奏と灯と歩いた。お互い忙しかったりもしたのに、なんだかんだずっと一緒だった。

「それどころか、灯、この町出るんだろ?」

奏が後輩にもらった花束を振り回しながら灯にふてくされたように言う。

「なんで通えるのにでていっちゃうのさ。」

「百奈に追い出されたんだよ。母さんたちも反対しねえから。」

「そりゃ灯みたいに家事万能だったら心配もないもの。奏、あんたには無理。」

「うん、俺もそう思う。」

「家出のときはよろしくな。」

「お前は人の部屋を散らかす達人だから嫌だ。」

「けち!」

ももちゃんはきっと悪役になってくれた。私と奏が付き合うようになって、灯の心は揺れたはずだから。

私だってバカじゃない。灯がずっと奏と同じかそれ以上に私のことを想っていてくれたことくらい知っている。

奏も私も、灯と三人でいるとき、幼馴染としての距離を崩そうとはしない。でも、それが余計に灯を苦しめることを私は知ってる。

(いいじゃない、勝手に私の幸せを願っておいていくんだもの。少しくらい苦しめばいい)

なんてずるいことを私は願ってしまう。

灯は優しすぎる。私は灯も奏も好きだった。3人でいるこの空間を愛している。もし、二人とも私にそんな想いを抱かないでいたらずっと一緒にいられたのかな、って傲慢な願ったりもする。

「ま、別の道を進む時が来た、ってことだな。」

私の傲慢な願いを打ち消すように灯の声が私の耳に響く。

「ずっとこのままってわけにもいかないしよ、お前らも無事、くっついたことだし。」

灯、なんであんたはそう傷つけられに行くの。

私たちはずっと三人だった。それが一人減って一人で歩き出すなんて、まだ私には想像もつかないのに。

「そうだな、でも灯…遥。」

「ん?」

「俺たちはいつまでだって幼馴染で、親友だ。」

灯は目を見開いて私のほうを見る。私もきっと同じ表情をしているのだろう。

こういうところが奏のかっこいいところで残酷で、優しいところだ。

奏はなにか間違ったことを言ったか、と言わんばかりの表情だ。

「本当にこういうかっちょいいことを照れずに言えるのが奏だよな…。」

「本当に。」

私たちは笑いながら、3人で歩く最後の道を踏みしめる。

いつかまたこの道を三人で歩く日は来るのかもしれない。でも、きっとその時は今とは全然違うのだろう。

だからこの最後の時間を大切にしたい。












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