第3話(高浪詩音)
「まあ、灯も遥のことを見すぎて、自分に向いている想いに気づかないから悪いんだけど…。」
「え?」
現金ながら罪悪感を減らしてくれる言葉に飛びついてしまう。
「ずっと灯のことだけを見てる娘がいるの。でも灯は遥を好きでいる呪いに縛られて。」
百奈の口から私が考えていたのと同じ、”呪い”という言葉が出てぎょっとする。それを悟られないように目をそらしながら百奈の言葉の続きを待つが、一向に続く様子がない。いぶかしくおもってそらした視線を戻すと、暁人くんは百奈に毛布を掛けながらしーっと指を口の前にたてている。
「寝落ちた。酒は強いがこんだけ飲めばさすがに酔うみたいだな。」
見れば、私の飲んでいた日本酒と暁人君の飲んでいたワインは私たちの飲んでいた量よりかなり減っているうえに、もともと百奈が飲んでいたビールも空き缶が転がっている。
「あー…。」
「荒れたね。百奈。」
「じれったいんだろうな。百奈と灯はよく似てる。器用なくせに不器用。」
「だね、正直弟の失恋でここまで荒れる気持ちはわからないけど…。」
「それは同感。」
「母親だってああはならないよ。」
「ほんとこの姉弟は、自分が自分で思ってるほど冷淡じゃないことに気づいてないからな。」
二人でほとんど百奈が飲み散らかした残骸を百奈を起こさないように片付ける。
「あ!」
「?どーした?」
「どうやって帰ろう…。酒に強い百奈がここまで酔いつぶれるのは予想外だった…。」
「泊まっていく?」
「ダメ。私はともかく百奈明日朝早いし、何も持ってきてない。暁人君の彼女に誤解されるのも嫌だし。」
一度そんな修羅場が経験ある。
「もうしばらくいないっての…。」
「灯や奏呼び出すわけにもいかないし…。悪いけど暁人君、タクシー呼んでくれる?」
「いいよ、車だす。」
「え?暁人君飲んでるでしょ?」
「モモごまかすためにだしてただけで、モモ見た時点でノンアルしか飲んでない。」
「え?ちょっと待って…。百奈私の日本酒も飲んでたんだけど…。」
ワインをほとんど飲んだ上に、ビールあれだけのんで日本酒も減っていたってことか?それに同時に暁人君も気づいたようで
「そりゃモモでも酔うわ…。」
諦めたように、
「帰るか。モモ背負うからシノ荷物持ってくれる?」
「はいはい。」
百奈を後部座席に固定して、助手席に座る。
「じゃ、発車するぞ。灯に電話しといて。」
「はいはい…。もしもし灯?百奈が酔いつぶれたから今暁人君の車で送ってる。あと10分くらいでつくから引き取って。」
『え?百奈がつぶれたの?めずらしー。』
「あんたの想像をだいぶ超えてくるレベルで酔ってるわよ。蒼も起こしておきなさい。」
おもにあんたのせいで、と言いたいくらいだが。
「灯なんて?」
「百奈が酔うってことが想像できてない。」
「だろうな…。」
家の前についてクラクションを鳴らすと灯がでてくる。
「シノ。お前も遠慮しなくていいんだぞ。幼馴染というのは大切な存在でありながら煩わしいな。」
「え?」
「暁ちゃん、詩音!ごめん!百奈確かに予想以上に酔ってる!蒼起こせばよかった!」
「だから起こせって言ったのに…。」
「だろ?理由はお前だが…。」
後半は聞こえやしないレベルの声で暁人君が返す。
「暁ちゃんに至っては飲んでないみたいだし…。詩音は一応飲んでるっぽいけど…。」
「え?」
「詩音がそんなに無防備に笑うなんて酔ってる時くらいだろ?」
むっとした私に対して暁人くんは笑いながら
「灯正解。作り笑顔の仮面がはがれてるだろ?」
「失礼な…。」
こんな風にすべてに気づくのはこの二人だけだ。すべての恋がうまくいけばいいと思うけど、それはすごく難しいこと。
「じゃあなシノ。」
「お休み、詩音」
「おやすみなさい。」
自分の周りだけでもこれだけこじれた恋がたくさんある。一つずつその絡まった糸をほどいたら、一人になってしまうのは、自分か。そのほかの誰かか。いったい誰なんだろう。
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