第16話 AV女優は男子高校生のヒーローなんだよ

 練習自体はSOS団にとっては珍しく、何事もなく平穏に過ぎ去っていった。

 先にゲーセンに到着していた朝比奈さんは一生懸命練習していたものの、俺の眼精疲労回復以外に何の成果も生みだすことなく元・俺の財布の住民をコイン投入口に慣れない仕草でほうりこみ続けていた。

 意外とドジっ子なのは元からかもしれない。少なくとも俺には画面に顔を近づけながら、必死にレバーを握り練習している様子は演技に見えなかった。もし演技ならアカデミー主演女優賞を4t車一台分くらい進呈してもいい。

 俺がしばらく朝比奈さんの左手に握られたレバーになりてえとか思いながら眺めていると、後ろから声をかけてくるやつがいた。

「やあ、お待ちしてました」

 振り返ると、客の財布の中身にしか興味がない自動車セールスマンみたいな微笑を顔に張り付けている古泉がいた。

 さあさあ、こいつにさっきの事を話してしまうべきなんだろうか。本人のいる前で。

 もし古泉がこのとき例のテレパシーを使って話しかけてきたなら、俺は朝比奈さんが言ったことを話してしまっていただろう。だが俺が昨日言ったことで余程気を使っているのか、このときは一切こやつの心の声を聞くことはなかった。

 朝比奈さんが「えいっ、えいっ」とか画面に向かって言ってるのを尻目に、とりあえず俺たちは俺たちで練習を始めることにした。

 今日こそはあの筋肉ダルマのキャラを倒そうと意気込んでいたものの、その前に向かいの台に対戦者が現れた。数十秒後、俺の操作していた金髪の雑魚は燃え尽きた線香花火の灰ように画面に横たわる運命となった。

 やっぱり今日は最悪な日だ。またもやゲテモノ料理は食わされるし、練習もできねえ。そんな風に考えていると、すでに線香の燃えカスと化した金髪が突然炎をあげて燃えだした。

「死体殴りですね」

 古泉が、横から野球の解説みたいな声で教えてくれた。俺が死体殴りとは一体なんぞや?と問いかけようとしたが、その前に古泉曰く

「勝利確定後に無抵抗な相手に攻撃を加えることをゲーマー達の間ではそう言うんですよ。いわゆる、一種の挑発行為ですね」

 だそうだ。これがハルヒみたいな単細胞相手なら効果てきめんだっただろうが、SOS団の、いや、北高の、いや、北市の諸葛孔明と呼ばれる俺には残念ながら――

「ここまで挑発されて退くなんてSOS団にあるまじき行為だわ。徹底的に叩きのめすのよ!」

 まあ、総大将がそういうんだからしょうがないよな。古泉はいつの間にハルヒが後ろに立っていたのに驚いていたが、ワープ航法かテレポートでも使ったんじゃないかと思うほどの神出鬼没ぶりに俺はそろそろ慣れ始めていた。だいたい、こいつがクラスの掃除をまともにやるとは思えない。どうせそこら辺のやつに押し付けて脱兎のごとく教室から抜け出してきたんだろう。何が『退くなんてSOS団にあるまじき行為』だ。まずは自分の短期記憶をアメンボ並みに引き上げることから始めた方がいいぞ。

「なんか言いたそうね。どうせ掃除はちゃんとやったのか、とかそんなことでしょ?」

「どうして分かったんだ?」

「顔に書いてあるわ。だいたい、わたしが本気をだせばあんなの5分で終了よ! 他の人にも頑張ってもらったし」

 多分、他の人の頑張りが9割くらいを占めているんだろう。

「とにかく早く連チャンしなさい! だいじょうぶ、お金ならユキが勝ってくれたおかげでだいぶ余裕があるから」

 余程てめえの目玉にねじ込んでやろうかと思ったが、心の中の張良が自重するよう促したのでそれは諦めることにした。古泉から硬貨を受け取りコイン投入口へ入れる。

 チャリん。

 画面が切り替わり、バトル開始を告げる音声が流れる。

 ヘブナヘール、ファイッ!

 しかし結果は同じだった。まあそりゃそうだよな。さっきと唯一違うのはこの台の売り上げがさきの1分間で100円増えたことくらいだ。

「なによ。だらしないわね」

「じゃあお前がやってみろよ」

「ふん」

 ハルヒは小さく鼻をならすと俺を椅子からどかし、古泉から硬貨を受け取って――投入口に乱暴に押し込んだ。

 チャリん。

 ハブナヘール、ファイッ!

 また一分から一分半後に、この戦闘開始の音声をまた聞くことになるだろうと思っていた俺の予想に反して、ハルヒは素早い操作で相手を押し込んでいった。

 どうやらこのゲームは攻める側が有利に作られているらしく、多少ガードが甘くてもゴリ押しでどうにかなってしまうようなのである。まさにハルヒの為に作られたようなゲームだな。それに、ハルヒの選んだ忍者みたいなキャラは動きが速いので攻撃を避けることも――難しくはあるが――可能ではある。鶴屋屋敷で見せたあの指さばきが、(コイツにしては)珍しく遺憾なく発揮されているではないか。多機能高性能なのにたいした使い道のない最近の家電と同じと思っていたのに、ときにはハルヒの力も役に立つときがあるんだな。正直言えば谷口のアソコと同じくらい、使われないほうが世の中の為だろうけども。(谷口のアソコが高性能かどうかはいまだに知らんがね)

 そんな風に思っている間に、とうとうコイツは挑戦者を倒しやがった。

 最後は負けたものの俺に勝ってちょっとはスッキリしたのか、挑戦者はあっさりと席を立ってどこかへ消えて行った。

 ハルヒは俺の方に振り返って言った。子供がテストで100点取ったのを見せびらかしに来た様な目を向けながら。

「これが団長の実力よ!」

 まあ、お前がそこまで操作を上手にできるようになったのは褒めてやってもいい。そこに俺の金が投入されているとしても、その努力は確かに、認めてやるに吝かではない。よくやったよ。頑張ったな。あとで賞状でもくれてやるよ。

 涼宮ハルヒ殿。あなたの健闘と努力と雀鬼並みの読みの鋭さと強運と、儚く散って逝った名もなき財布の住民たちを称え、ここに賞状を授与します。

 どうだ、完璧だろ? 

「そんなことはどうでもいいの。問題はキョン、アンタがどこまでできるかなんだから」

 やはり俺の賞状に御不満のご様子だった。

「感謝しなさい。今日はわたしに勝てるようになるまで直接指導してあげるわ。寝込んでて遅れた分を、きっちり取り戻すの!」

 俺はかつて挑戦者が座っていた台に座ると、古泉からもらった100円を投入した。

 チャリん。

 ヘブナヘール、ファイッ!

 俺は地獄のシゴキから逃れようと必死になって頑張ったが、素早く翻弄する動きについていけず、体力ゲージとやる気をゴリゴリ削られていった。やがて画面の中の俺は動かなくなった。

「言っとくけどわたしに勝つまで帰れないからね!」

 台越しにハルヒが言った。

 だったら住民票をここに移しといたほうがよさそうだな。少々騒がしい場所だが、北高に近いというのは魅力的な立地条件だ。卒業までならいてやっていいぞ。

 心の中でそんな皮肉を言っているうちに、早くももう1ラウンドもなす術もなく取られた。3本先取なので、あと一回負ければ終わりだ。

 しかし、俺はどうしても負けたくなかった。このままヤツを調子付かせれば、閉店までここにいる羽目になるかもしれない。それだけは御免こうむる。

 仕方ない。使いたくはなかったが、最後の手段だ。

 俺は向こうでハルヒの台を眺めている古泉に、捨てられた子猫の「拾ってください」的視線を送った。あいつなら予知能力とテレパシーで俺をこの地獄から救ってくれるだろう。

 古泉、おい、古泉!

 心の中で必死に呼びかけてみるが、全く返事がなかった。

 ああ、全知全能の古泉神よ、我が願いを聞き届け給え、アーメン。

 違うようだ。

 古泉イツキ、古泉イツキ、こちらデルタフォースα小隊!ただちに救援を頼む!繰り返す、ただちに救援を頼む!

 これも違うのか。

 エロイム、えっさーむ……奉霊の時来たりてここに集う……われ焦がれ誘うは焦熱への儀式……出でよ、汝時空を超えしもの、古泉イツキ!

 俺の自信作だったのに、それでも返事がなかった。

 返事はなかったが、古泉は何かおかしいと感じたのか、それまで台に釘付けだった視線を動かして俺の方へ向けた。心の中の諸葛亮と張良が「今です」と告げていた。

 ああ、世界で一番かっこいい古泉イツキさま俺をあなたのお力で救ってくださいあなたの力で悪鬼ハルヒを追い払ってくださいそうすればあなたを神として称え末代まで祝いますそれに今ならセブンスター1カートンどころか10カートンくらいつけてしかも谷口秘蔵のAVコレクションの中から好きなのを選んでもらってけっこうですだから頼むよ古泉俺を助けろ古泉俺たち友達だろ古泉――

 そうやって純情な乙女のような祈りを捧げたところで、頭の中になにか違う感触があった。脳細胞に直接触れてくるような感触だ。しばらく頭の中をくすぐられているような嫌な感覚があったが、それもすぐに消えた。

“どうかしたんですか? あなたが全く動かさないから、涼宮さんも怪しんでますよ”

 雪山で遭難して、山小屋の壊れたはずの無線がつながったときの気持ちがこのときほどよく分かったことはないね。

 とりあえず古泉、俺にハルヒの次の行動を教えてくれ。お前ならあの予知能力でバッチリだろ?

“あぁ、そういうことですか。まずは落ち着いて画面を見てください”

 そういや祈るのに必死で操作を完全に忘れていたな。

 画面内の俺は馬鹿みたいに中央に突っ立ったままだった。ハルヒは俺のこの突然の棒立ちが何らかの罠ではないかと警戒して、画面端で落ち着きなく飛んだり跳ねたりしている。

 だがそのうち意を決したのか、空高く舞い上がると俺の方へ向って飛び込んできやがった。

“ここで対空迎撃技です”

 なんか昔に聞いた覚えがある。思い出しはしたが、急に言われてもすぐに体は反応できない。結局古泉のアドバイスが間に合うこともなく、俺は無防備なままハルヒの空中蹴りを顔面にまともに喰らって後ろに吹き飛んだ。

 調子に乗ったハルヒが、またもや空中に舞い上がって俺の方へ飛んできた。起き上がりざまを狙おうって魂胆か。

 迎撃は間に合いそうにないので、手堅くガードしとこう。

 ハルヒの攻撃をしのいだ後、飛び道具で距離を稼ぐ。しかし、また飛び込んでくる。

“彼女の戦法はそれほど複雑ではありません。飛び込んできたところを対空技で撃ち落とせばいいんですよ”

 教えてもらえばどうってことはなかった。何回かタイミングが合わずに攻撃を喰らいはしたが、コツさえつかめば古典のテストよりはるかに簡単だった。しかもハルヒの選んだこの忍者のようなキャラクター、素早さはあるが防御力は格段に低いため、俺が何回か空中からきたところをはたき落とすと、すぐに気絶してしまった。

 もちろん、こんな早く帰れる好機を逃すわけはない。すぐに超必殺技――ゲージを消費する技のことで、通常の必殺技とは別物である――を発動、金髪の剣士は光をまとって忍者に突撃、このラウンドを見事勝利することができた。そしてそれは俺の帰り道の3分の1が終わったことを意味している。あと2本もさっさと取って帰ろう。俺たちがいくら上手くなったところでたかだか知れている。本番まであと2日しかないのに、コンピ研に勝てるわけがない。勝てないのに練習するのは徒労でしかないんだぜ。俺は徒労とセロリが大っ嫌いなんだ。

 よって俺は早く帰るほうを選ばせてもらうね。



 それからは俺の見事な逆転三連勝によって、SOS団は無事帰路につくことができた。

 よほど悔しかったのか、俺に負けた瞬間ハルヒは台を思いっきり叩いて

「今日はこれで解散! あとは各自で練習!」

 と言い残して店を出て行った。

 むろん、残った団員が素直にハルヒの遺言に従うわけがなかった。んなもんクソ喰らえだ。朝比奈さんと古泉を促してさっさと店から出て行ったね。

 帰り道、ニヤケ野郎を半ば無視して朝比奈さんと他愛もない四方山話をしたのがその日一番の楽しいできごとだった。長門がいなければ、朝比奈さんはおとなしくておっちょこちょいな未来人にすぎない。逆に朝比奈さんがいなければ長門も無害な文芸部員に――いや、そうでもないか。何せ中身は一部分谷口だ。ニトログリセリン入りホッカイロくらい危ない代物だな。

 だが楽しい時間は本当にはやく過ぎ去るもんだ。帰り道がこんなに短かったのか真剣に悩みながらも朝比奈さんは途中で別の道へ姿を消して行った。

 あとに残ったのは計算間違いでなければ古泉と俺だけだ。ひとりで帰るよりはマシだと思うしかあるまい。家についたら、あとは別に大した愛情のこもってない晩御飯を食べて適当に宿題でも済ませよう。俺がそんな人畜無害なことを考えているとき、古泉が横から話しかけてきた。

「実は、あなたに伝えたいことがあるのですが」

「愛の告白と惚気(のろけ)話以外ならなんでもいいぞ」

 こいつがこういう風に話しかけてくるときは、大抵悪い話に決まっている。

「どうせコンピ研との対戦のことだろ。確かに時間がないし、そろそろ対策を考えた方が――

「いえ、今回の話はその件ではありませんよ」

 こいつが俺の話を途中で遮ってまで話したいなんて珍しい。というかはじめてのことじゃないのか?

「いまのところ、閉鎖空間も発生していないようですし」

「なら、その話したい、ていうのはいったい何なんだよ」

 俺は強烈な陽光を避けて、なるべく建物の影に入るように歩道の端に寄った。一方古泉の方はといえば、正面からまともに陽光を喰らっているにもかかわらず、涼しい微笑を張りつけたままだ。

「2つあります。2つとも鶴屋さん関連のことなのですが。ひとつはいいニュース、ひとつは悪いニュースです」

「……じゃあ、いい方から聞かせてもらおうか」

「鶴屋さんのだいたいの居場所が分かりました。今日、『機関』の他の仲間から報告があったので」

 それは確かにいい知らせだ。もうハルヒの鶴屋さん探しに付き合わされることもなくなった、てわけだ。俺は夢でしか参加してなかったけどな。

「まあ、それ自体は確かにいい知らせなのですが」

 古泉が俺に遠慮するように言う。

「今は少し厄介な場所にいましてね。そこで今晩、我々が鶴屋さんを迎えに行くので、あなたにも協力を仰ぎたいのですが」

「厄介な場所、ていうのが引っかかるな。まさかハルヒの言ってたように黒幕にでも監禁されているとかか?」

 いくら先輩のためとはいえ、俺はただの善良な一般市民である。両手にマシンガン持って敵本拠地に乗り込んでワイヤーアクションでも決めればいいのか?

「そんな危ないことはできんぞ」

「いえ、行き先自体は到って平穏な場所ですよ。生命に危害を加えられるような場所ではなく、ごくごく平和な場所です。ただ、少し特別な場所、とでもいいましょうか。今晩、機関の車であなたの家の前まで迎えに行きます。詳しい話はまた車中で」

 なるほどな。今回は鶴屋さんが閉鎖空間にでも閉じこめられたのだろうか。きこうと思ったがどうせまたあとで説明してくれるらしいし、ここはもう一つの知らせをきいておこう。

「んで、悪い方の知らせっていうのはなんだ?」

「愛の告白と惚気話以外ならなんでもいいんですよね?」

 古泉が念を押すように言う。こう言われると俺も少し不安になってきた。風呂敷を広げ過ぎると後でどんな厄介事を背負わされるか分かったもんじゃない。

「まあ、そうだな。あとは借金の頼みとかマルチ商法や新興宗教の勧誘とかも禁則事項だな。無論、諸々の法律に違反するような行為の依頼も禁止だ」

 こんだけ言っとけば大丈夫だろう。

「なら大丈夫です。実は、あなたに少しだけ知っておいてもらいたいんですよ」

「お前の好きなAV女優をか?」

 そう言って古泉の顔を見ると、そこには確かにいつもの微笑が張り付いていたが、明らかにいつもとは違う影が差していた。俺がちょっと目を離した隙に、10年くらい年を取った古泉と入れ替わっちまったのかと思われるくらいだった。

「ええ、実はそうなんです」

 横断歩道の長い赤信号で止まってそう言ったが、そうでないことは谷口でも分かる。

「んなわけあるか。2つとも鶴屋さん関連なんだろ? まさか鶴屋さんが生活苦のせいでAV女優にでもなるのかよ」

 だったら買うぞ。

「いえいえ。まあ、本当に言いたいのは、要するに鶴屋財閥の崩壊についてなんですよ」

「やっぱりハルヒが言ってたように、裏にカラクリでもあったのか」

「おおよそ、その通りです。単刀直入に言うと、鶴屋財閥を崩壊させた一因は、少なくとも僕にあります」

 木材を積んだ大型トラックが、目の前をガタガタいいながら通り過ぎて行った。

 俺は言葉を失っていた。確か、昼休みの保健室でも朝比奈さんからそんな話をきかされた。朝比奈さんは、未来からの情報をもとに株価を操作していたらしいが。

「実は、鶴屋財閥はこれまで『機関』の有力なスポンサーでした。しかし、現鶴屋家の当主が援助の見返りを求めてきたんです。超能力を悪用すれば、いくらでも自分の利益を得ることができますから。しかし『機関』はそれを許さず、逆に鶴屋家に懲罰を与えました」

「それを実行したのがお前というわけだな」

「ええ、御名答です。正確には、僕は実行した人間のひとりにすぎませんがね」

 いつの間にか古泉の顔から、モザイクみたいな鬱陶しい微笑が消えていた。今度機会があれば、その超能力で俺の持ってるDVDのモザイクも消してくれないか?

「しかし、何も財閥を崩壊させようという気はなかったんです。なにせ鶴屋財閥は我々の強力なスポンサーです。ほんのちょっとお灸をすえるつもりで、内部の機密情報をリークしたにすぎません。大抵の会社は知られたくない情報のひとつやふたつはあるものです。ましてやそれが由緒正しい財閥となれば尚更でしょう」

 まあ、確かに経営一族と政治家との癒着とか、いろいろありそうではある。

「そうはいっても、実際に財閥はバラバラになってるじゃねえか」

「そこが問題なんですよ。なぜか我々が機密情報をリークしたとき、それに合わせるかのように株価の乱高下、リコール問題などが噴出した。まるで何者かが裏で糸を引いているかのように」

 一瞬、ドキッとした。

 なるほどな。そのうち株価の乱高下の犯人は俺もお前もよく知ってる人物だよ。

「おそらく、涼宮さんの言う黒幕がいるはずです。彼女は黒幕の出現を望んでいるようですし、いてもおかしくありません」

「絶望して未来の人類滅ぼすくらいだからな。確かにありえそうだ」

 俺はこの時点で今回の事件のだいたいの真相を掴みかけていたが、あえて言わずに話を合わせておいた。通知表と同じく、知らない方が心安らかでいられるだろうからな。

「ですから、もし『黒幕』が何かしてきた場合は、遠慮なく僕に言ってください。全力であなたを守りますよ。もちろん、SOS団もね」

「ずいぶんと頼もしいな」

「ええ。これでも今回の件に関しては、僕なりにかなりの責任を感じていますから」

 古泉の顔にいつもの微笑が戻った。

 同時に、長かった信号が青になった。

 俺と古泉は横断歩道を渡り切ったところで、別々の帰路についた。

「それでは。とりあえずは、今晩また会いましょう」

 何とか生きて帰れますように。それだけ祈りながら、俺は家路についた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る