19/23.一ノ鐘
見上げるような大木の、太い枝の上に黒い影。
ウォードだ。
「あそこだ、
この日のため、丈夫な木の
ぼっ!
「効かねえ!」
ぼっ! ぼぼっ!
逆に高所から投げ落とされる石弾は、容赦なく
だが、さすが
「あわてるな! 追い込め!」
空中ハイウエイを駆使するウォードを、数の優位を生かした集中攻撃で追い込んでいく。さしものウォードも、地上・空中両面からの十字砲火を浴びてはたまらない、とうとう1本の大木に釘付けにされてしまう。
「行け!」
地上に展開した
圧倒的有利。だがそれこそが油断。
「行け、行け!」
木を登る地上部隊を鼓舞していた
「どうした! 矢を絶やす……な」
最後の『な』は、無声音。下腹部から心臓を貫かれ、即死したのだ。
見れば周囲に、既に5人の
「み、ミーマァィイ!?」
愛用の細剣を手に、尻尾をくわえた戦闘形態。ミーマの剣が、元同僚たちに襲い掛かる。
(遅い!)
し!
ミーマが跳ぶ。一跳三閃。両目と喉を貫かれたヤマネコの
冬の間、ウォード相手に磨き抜いたミーマの剣。元々の神速はそのまま、強靭さを増したようだ。
『私一人でも処理できる』
ミーマの言葉に、いや剣に嘘はなかった。一対一の局面で、彼女の剣に敵う
「囲め!」
地上にいた
対して罠の位置を熟知するミーマは、文字通り好き放題に各個撃破を続けていく。
「ほぉウ!!」
一方、地上からの射撃が止んで自由になったウォードは、とうとう射程内の気球すべてを撃墜してしまった。残るは遅れてきたふたつだけ。それも風向きが変わり、島の外へと流されていく。風に逆らえない、気球の泣き所だ。
大木を登ってくる
2人が用意した要塞のひとつ、造りは雑でも守りは堅い。
(ひの、ふの、み……半分近くは潰したか)
治癒薬でも蘇生不可能な
「ミーマ!」
一声、合図を投げ、またも投石紐を振り回す。
ぼっ! ぼっ!
樹上からウォードの援護射撃。足の止まった敵をミーマが振り切り、ウォードのいる樹上へと退避する。といっても大木の幹は罠だらけ、いくらミーマといえども登れない。樹上から垂らした
ミーマが
ぎゅぅぅぅん!!
これがもうロケット並みの上昇力。地上からミーマへ射られた矢が、遥か足下を虚しく通過していく。あっという間、樹上に作られた
空中でくるり、と身体をさばいて着地できたのは、
「馬鹿力」
「悪りぃ」
ウォードとミーマ、短い挨拶とキスを済ませ、備えのドライフルーツをひとつかみ
「化け猫ババアがいねえな」
「ええ。まだ船にいるか、さっき流されていった気球に乗っていたか」
「だったらマヌケで済むんだがなあ」
ウォードが笑う。が、ミーマは笑わない。
「そんな甘い相手じゃないわ」
引き締まった表情のまま、マヒトを受け取って授乳を始める。
「必ず来る……あの女は」
そして、ミーマの予想は当たる。
島の頂上、ウォードとミーマが心血を注いだ砦に、その女はいた。
「良く出来てるわ。これを一冬で造ったなんて、凄いわね」
砦を見回す
実際、いかに屈強な砦を築こうとも、守りの手勢がいない無人では意味がない。多勢に無勢の戦いを考えるなら、最初から砦に立て籠もっておくべきだった。
いや、2人は最初そうするつもりだったのが、
不運といえる。
「でも、結果としてうまくいった。ミーマァィイたちを
この島でミーマが生き残っているかどうか、その確証はなかったが、
(もし
そう考えた
人数を誤魔化すため、気球のいくつかは無人。そこまでして、
そして赤子を抱えたミーマを発見した、その喜びをどう表現したものか。
密偵の
ミーマの戦闘能力に賭けたのは正解だった。
ただ一度の陵辱で
望みを叶えたいならどうすればよいか、悪魔とやらに教えてやろう。
「神の子は目の前よ」
弟、獅子の法王は、彼女のなすがまま。
「本当なのだな、姉上? 我は神になれるのだな?」
ぼそぼそとしたしゃべり方は、百獣の王の
「もちろんよ、ガララグルルラ」
「殺してはならない。炸光弾を使いなさい。必ず生け捕りにするの」
眼下の山肌を、ミーマとウォードが駆け上がってくる。
砦の中から、
「打って」
指示は短く。
そして。
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