第一部 第10話
気がつくと、僕は霧の海に立っていました。辺り一面、雲のような霧が覆って自分の膝から下を見ることが出来ません。
霧の海には、白くダボダボの服を着た男の子や女の子が何人もいたのです。霧は風に吹かれて厚みを増したり薄くなったりとして、座っている子はもちろん、立っている子さえ隠したり見せたりを繰り返していました。
そんな中で、僕は何かを感じてふっと側を見ると、横に男の子がいたのです。その子は、熱心に本を読んでいました。一心不乱と言うか、何も目に入らないといった様子で集中しています。
本をのぞき込むと、ページいっぱいに絵が描かれ嵐の暗い背景の中で背が高くがっしりとした船長が、まなざしも鋭く仁王立ちになっていました。そして海賊、僕が知るかぎり、おきまりのずんぐりむっくりの海賊が剣を扇風機のように振り回し、ものすごい形相で船長に迫ると息が詰まるような戦いを繰り広げていました。
「へぇ、おもしろそうだね。」
僕の声に男の子は振り向くと、きょとんとした顔でまじまじと僕を見つめます。そして表情をこわばらせたまま、
「何で?」
と、不満そうに言っていました。僕は、
「だって・・・、この絵を見ただけでわくわくするじゃない?!」
と、ただ気持ちを素直に伝えたかったのですが、男の子は僕の言葉になぜかむっとして、
「君は、断りもなく人のものを盗み見みするんだね。」
と、強い口調で言い返していました。その上に理解できないといった表情を浮かべると、僕を無視するように再び本を読み始めたのです。
思わず、「何だ、この野郎」と僕は言いそうになったのですが、この子に僕の存在など関係ないのでしょう。もしかすると、無いどころか邪魔なのかもしれません。
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