第一部 第7話
まさしは手にした作文用紙をひらひらと振ってみせると、つまらなそうに笑います。見ると、半分以上は何も書いていません。
普通なら人はそれを見て何か一言いいたくなるでしょうが、僕はあきれることも驚くこともなかったのです。まさしの事情が分かっていたので何も言わずに、その後はトランプをしたりプラモデルの話をしたりして過ごしました。そのうち何もすることがなくなると、突然、
「のぼる。お前、作文読めよ。」
と、まさしが僕の書きかけの作文を聞いてやると言い出していました。
「えっ、まだ書きかけだから嫌だよ。」
とは言ったものの相手は誰でもないまさしだし、この際だから良いかと思いなおし読むことにしたのです。
ちょっと気取ってのどの調子を確かめるふりをすると、
「えぇ~、僕の父ちゃんは大工でした。と言うのも、一ヶ月前にその大工をやめたからです。何でやめたかと言えば、酒を飲んで仕事をしていて柱の上から落ちてしまったからです。幸い怪我は大したことなかったのですが、母ちゃんに言われて今は地下鉄関係の仕事をしています。地下鉄関係と言っているのは、母ちゃんも父ちゃんもそう言えというので言っているだけで、本当は構内の清掃の仕事をしています。今まで父ちゃんは僕に、人間は大地をしっかり踏みしめて生きなければいけないと事ある毎に言っていました。怪我をするまで父ちゃんはすごい、人生を語ってくれているんだなっと思っていましたが、母ちゃんが言うには単に高いところが怖くなっていけなくなっただけのことと言うのです。子供ながら、父ちゃんには困ったものです。
だけど暇があればよく店の手伝いもしてくれますし、僕には優しいお父さんだと今でも思っています。」
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