第一部 第4話

 玄関です。お母さんは買い物に出かけているのか、いくら呼んでも返事がありません。

 勝手についてきた女の子は開けた玄関から“ジロジロ”と家の中をのぞき込んでいましたが、急にテレビや映画で女優さんがするように腰をかがめると、

「お邪魔します!」

と、僕しかいないのに大きな声で挨拶をしていました。家の中ならどこにいても聞こえるような、とんでもない声量です。そして次の瞬間、靴を脱ぎそうになり慌てた僕は、

「誰もいないから、だめだよ。」

と押しとどめますが、女の子は僕の言ったことが聞こえないのか入ってきていました。それに、思いのほか女の子は力が強かったのです。僕は、どうして良いか分からずオロオロしていると、いつの間にか女の子は上がり込んでキャンディのビンに手をかけていました。

 僕の家は、玄関を入ってすぐのところに下駄箱があって下駄箱の横には同じ高さの台が一つくっついたように置かれていました。そして台の上には、電話とキャンディの入った小瓶が置いてあったのです。

 女の子は、キャンディの小瓶を不思議そうに眺めていましたが、

「ねえ、あの色とこの色。それにあれとこれとそれ、もらってもいい?」

と、尋ねているのか自分勝手に言っているのか、とにかく僕が返事をする前にふたを開けると中にあったキャンディを取っていたのです。僕は女の子の素早さと図々しさについて行けず、

「・・・。」

言葉もなく突っ立っていると、女の子は何を思ったのでしょうか、手にした中の一つ、白いキャンディを天井めがけて“ぽぉ~ん”と投げ上げていました。

 すると、どうでしょう・・・。辺り一面が、真っ白な霧で覆われます。

 どうして、こんな事が・・・。僕は、またまた理解できません。でも湧き出た霧を見ているうちに、頭の中は真っ白になっていました。その時、女の子が僕に言います。

「必ずあなたと、また会うわ。それまでしばしの間、御機嫌よう。」

と、本当に勝手な再会の約束をしていました。

 霧の中で、私は別の男の子になっていたのです。


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