第一部 第2話

 空の様子がおかしいのです。

 それに気づいた僕は、「これはまずいぞ」と考えて近道をすることにしました。今は空き地となってしまった建設会社のだだっ広い資材置き場を、早足に横切ります。最初は、遙か遠く山の上にあった小さい雲の塊が見る間に大きくなると、生暖かい風を乱暴に吐きながら僕に迫って来ていました。

 雲を見上げて僕は、「こいつ、黒龍か!」なぁんて憎まれ口を叩きますが、口と心は別ものでした。早足が、駆け足になっていました。

 「降るな、雨。雨よ、降るな」と呪文のように唱えながら資材置き場を走っていると、空き地の隅に女の子が立っています。

 激しい風に髪が巻き上げられていますが、押さえようともせずにすごく寂しそうな様子の女の子でした。どうして寂しそうに見えたのか、それは僕にも分かりません。

 ただ、女の子の側を通り抜けないと僕は家に帰れなかったのです。


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