第45話

 とはいえ、コンウィルはドリューブルから見ても遠い。峠越えの難所がいくつかあり、生半可な覚悟では生きていけない。もちろん、それを回避するようなルートも取れるのだが、その選択はしなかった。


「なぜ?」

「これは俺の勘だが…敵が待ち構えているような気がする」

「あー、確かにそうかもですね」


 それにメンバー的にも行けないという感じではない。彼女たちも戦いを経験しているだけにこのルートでも問題ないと考えた。


「だが、迂回ルートであれば険しい山道とかはないわけだから馬が使えるはず…。なんで…?」

「お前の言うことはごもっともだ。まぁ、単に学生では馬を手配できる金なんかないといえばそれまでなんだが…俺たちは暗部だ。いらんだろ?」

「まぁその通りね。木を伝って飛び飛びに行けばそこらの馬よりは速いわ」

「ええっと……すみません。私は…ちょっとできないです」


 見た目からしても運動オンチなフィー。昔から回復魔法しか出来なかったために他の暗部ほどにそういった動きは出来なかった。

 もちろん何度か挑戦させたが…な。

 そんなこんなで木を伝って走る。フィーは俺が運ぶことにした。幸いフィーはそこまで重くない。楽々、一つ目の峠を越えると言うところに差し掛かった。


「よし、ここらで休憩しよう」

「……そうね」

「不満があるならどうぞ」


 変な間があったので躊躇わず言えと促してやった。というか、言わなかったが彼女の目的は俺を暗部に戻すこと。もちろん彼女の功績によるものではなかったものの、結果的には達成したと言える。ではなぜまだここにいるのか……おそらく上から何かここにまだいるように言われたからと思われるが、確証はない。


(まぁ、いてくれた方がフィーも嬉しそうだしいいんだが…)


 俺にとっては護衛を少し抜けることができ、自身の問題に取り組める。そう言った意味では葵はとてもいい存在だと思っていた。


「いや、あなたがへばったんじゃないかと思っただけよ」

「まぁそれもある」

「え?」

「なんだよ…」

「いえ…素直に認めるとは思わなくて…」

「あ、そ」


 軽く流し、フィーの元へ向かう。

 葵はその姿を訝しげに見ていた。







 さらに峠を越え、あと一つ峠を越えればコンウィルというところで日が暮れ、野宿することにした。

 焚き火を行い暖を取る。これだけでは気休めなのでもちろん何着か着込んではいる。特に今の季節は夏を少し過ぎたあたり…少し山の方では冬に近い感じだ。

 俺たちは交代で見張りを担当することにした。フィーは戦力外だ。


「ねぇ」

「おい。寝てろ。明日死ぬぞ」


 葵が何故か起きてきて隣に座ってくる。俺は声を抑えてかつ葵のほうに視線を合わさず告げた。


「どうしちゃったの?」

「それはどういうことだ?」


 抽象的な質問によく分からず質問で返す。流石に何聞かれてるか分からないのでこうなることは仕方ない。


「だから、今日のバテた…とか、あんただったらそんなこと言わないのに…」

「俺だってそれくらい言うさ。特にこれからは殺さなきゃならない…ミスは許されない。だからこそ万全の態勢でこっちも臨まないとできないぞ…こんなこと」


 俺だって大義名分があるとは言え、殺すという行為に対して罪悪感がない訳では決してない。ただ、そんな気では逆に殺られる危険性さえある。そこは任務として割り切っていた。しかし、今回は完全に私用だ。気持ちの整理にも時間がかかったように思う。


「意外ね。あんたの口からそんな弱音が出るなんて」

「何言ってるんだ? 俺は弱音ばかりだろ? 暗部に戻りたくないとか…」

「それは、わがままなだけだわ。そうじゃなくて、そういうことはてっきり割り切ってやってるものだと思ったから…すこし、なんていうか安心した」

「あ、そ。要はそれだけか? …じゃあ寝ろ」


 葵の頭を軽く叩いてやった。

 葵は小さな声で「そうね」と言ってテントに戻った。

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