第43話

 拒否は出来なかった。


「わかった…」


 蓮がそう答えた。


「では、健闘を祈ります」


 そう、執事は立ち上がり部屋を後にし、外で待機していた校長と談話している。俺もその気に乗じて出ることにした。

 まさかこんなことになるとは思わなかったし、思いたくもなかった。やはりそう簡単には足を洗うことはできないようだ。悔しくはあるが実力不足だ。こればっかりは従うしかない。

 そう腹を括って曲がり角を曲がる。


「何しょぼくれてるんですか?」


 わざとらしくフィーがぶつかってきた。

 頭にまで手を伸ばしてこようとしてきたので振り払った。


「なんでもねぇよ」

「そんなはずありません。その胸の刻印を見ればわかります」

「ちっ」


 分かってはいたが、魔法師にはこの刻印が見えるようだ。

 わざとらしく舌打ちする。舌打ちする奴は嫌いだが、この時ばかりはやなねば気が治らなかった。

 手を包むようにして握ってくるフィーベル。女の手というのはなぜこうも脆く感じてしまうのに……。


「大丈夫。何も言わなくてもついて行きますから」

「ああ…勝手にしてくれ」


 俺は強がってこんな言葉しか言えなかった。








 その後、俺はさゆり先生の元に出向いた。


「しばらく休学させてください」

「はー。 お前もか…」


 そう頭を下げた俺に帰ってきた言葉はそれだった。怒られる覚悟を持っていただけに拍子抜けだった。


「お前も?」

「ああ、お前がくるちょっと前に鈴原とフィーベルがきてお前と同じようにきたんだ。理由は聞いてないが…これは偶然か?」


 腹の中を弄るかのような視線だ。彼女の素性を知っているだけあってかなりの威圧感を感じる。この机を挟んだ距離ですら危険だと感じるほどに。


「さ、さぁ。あいつらからは特段何も聞いてませんが…(うわっ、少し声が上ずったか⁉︎)」


 しかし実際、相談したわけではないので上手くできたはずだ。


(フィーはやりそうだと思っていたが、あいつも? まぁ、大方フィーが誘ったというところか?)

「…そうか。時期は未定ってことだな?」

「ええ、ちょっとなんとも…」


 こんなめんどくさいことは短期に限る。しかし、俺とて準備が必要だ。おいそれと簡単な話ではない。


「まぁ、私が止めることではないし、何も言うつもりもないが、ぐらいは言っておこうか。細かいことは私がやっておくから好きにしなさい」

「ありがとうございます」


 頭を下げ、職員室を出ていく。


(もしかしてサユリ先生は知っているのか?)


 いささか疑問の残る言い方だけに、考えてしまう。そんなことを考えている暇はない。俺は足早に部屋に戻ることにした。

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