第42話

 目を覚ます…。

 周囲を見渡そうとするが、真っ暗だ。

 耳を澄ます…。

 僅かに音がする。足音のようだ。

 手、足は案の鎖のようなもので繋がれているようだ。動くとジャラジャラと音が鳴った。 


「気分はいかがですか? 羽倉坂蓮」

「最悪に、決まってんだろ…」


 監視していたのか、アルバートの声がした。

 即座に返してやる。


「そう気を荒立てないでください。まず、誤解を解きましょう。私は側の人間です。潜入調査という名目とともにある人物の暗殺を命じられました。それが、我が主人のマイザー様でした。私は執事になり、機会を伺っていました」


 彼は淡々とそのように話す。


「だとすればこの状況はおかしいだろ。俺を殺せと命じたのはマイザーだったはずだろ」


 蓮は当然信じられない。何故ならば、仮にアルバートの言うことがただしいのであれば俺を監禁する必要はない。ただし、逆も然りであるが……。


「もちろんその通りです。でもあなたは殺してはいけないと上から言われまして…少々困っていたのです」

「矛盾……か?」


 蓮が問うと、カツカツと革靴の音が響いた。


「その通りです。それであなたのことを知りたくてこの学園にまで赴きました」


 俺のことが知りたいというのはどうやら本当だったらしい。


「別に俺なんか…ただのはぐれものだ。知っても何もないぜ? 現に、こんなザマだしな」


 自嘲気味に言ってやる。


「そうでしょうか? あなたの功績を拝見しましたが、かなりの名だたる著名人を暗殺しています。それを考えれば、逆にあなたがこのように鎖に繋がれていることこそが逆におかしいと思います。まさに、気持ち悪いという感じでしょうか」

「あんな魔法使いじゃないやつ大したことないだろ。持ち上げすぎじゃないか?」

「確かにその人本人は魔法使いではありませんね。しかし、…用心棒は魔法使いだと考えられるのですが、そのあたりはどうでしょうか?」

「………」

「いいでしょう。では、釈放することにします」


 急に明かりがともり、鎖が魔法により解かれた。結局、場所は動いておらず校長室のままであった。


「は?」


 警戒心は解かない。アルバートは不敵な笑みでこちらを見る。


「ただし、あなたに魔法をかけました。時限爆弾です」


 胸から♾の文字が浮かび上がった。


「時限と言いましたが、条件にしました。それは改変によるものです」

「即興で改変かよ…」


 それだけで彼の魔法の才が高いものであると確信した。もちろん蓮が勝てる相手ではないと確信した瞬間でもあった。

 その時点で、アルバートが暗殺者側の人間の如何にかかわらず受け入れなければならないんだと思い知らされた。


「ストーリーはこうです。あなたはマイザーから暗殺を命じられていたのを独自に知り、逆に私を殺害しました。あなたはマイザーへの報復に向かう、と。こんな感じです。もう、今頃、私が死んだとおふれがまわることでしょう」

「だからこその時間稼ぎか」


 淡々と言うアルバート。表情もあいも変わらず平然としていた。


「その爆弾の解除条件はマイザーを殺すことです。もちろん、私を殺しても解除…ですが…やりますか? 効率主義のあなたならばどちらが簡単かはもうおわかりですよね?」

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