第39話
だいぶ体も動くようになってきた。
ただ、ベッドにいてもしょうがないので外に出て剣の素振りをすることにした。
こういった地道なことも勝利につながる……すなわち生きることにつながると思えば誰だってやるだろう。というかやらざるおえないだろう。
あのよく分からん回想によれば怒りの閾値をコントロールしてやることで出力は劣るもののある程度の魔法は自由に使えるようになるということを言われた。しかし、その代償に同じ程度の痛みで動けないとなれば諸刃の剣だ。連戦に関しては全く意味をなさないだろう。それをどうにかなれば使う気にもなるのだが……。
と、模索した結果が取り敢えず鍛えようということで素振りをしていたりもする。
「蓮」
「ん?」
なぜかフィーベルが後ろにいた。別に誘ったつもりはないのに後ろに立っている。しかもご丁寧にタオルまで持って。
「その…痛みとかないですか?あればすぐに言ってくださいね」
「ああ…」
生返事で返す。
フィーベルの治癒能力は素晴らしいものがある。ただし、厳密に言えば痛みを取り除くことはできない。治癒の定義は傷を塞ぐこと。これに尽きる。では傷とは例え胸が貫かれようが、脳が裂けようがそれは傷と認識されもとのふさがった状態に戻す事ができる。
しかし、その間またはその後に発生するあるいは発生し得る痛みに関して、なくすということはできない。少なくともそうであった。
それ故に気を失ってしまうということはよくあることであり、前回俺が起こしたのとなんら変わりない。まぁ、大半は生きているだけマシという者ばかりだが…。
(少し、がっかりしたか……)
剣を横目に彼女の方を伺う。
少し俯き加減にしている。やはり本人的には気にしてしまうのだろう。
しかし、言うべき言葉は見つからない。
あっという間に登校の時間となってしまった。
剣を振るのをやめ、寮に戻ることにする。
「はい。蓮」
タオルを受け取る。いつもなら自分のがあるからと突っぱねるところではあるが、俯いて差し出す彼女に対してそのような言葉を投げかける気にはなれなかった。
だからこそ…。
「……ありがとう……」
それが精一杯の慰めだった。
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