第38話
光に誘われて、目を覚ます……。要はまぶしかった。
「俺は……」
頭の中を整理する。声だけの変なやつと脳内会話して巨獣鳥を倒して……。
そこまでか……。
そこからの記憶がないということは気を失ってしまったということだろう。はは…もう気を失うのはここ最近で二回と来た。なんだか情けなくも感じる。
自分はそんな程度か…これはいつまで経っても三枚目……いや、三枚目でいいのだ。
俺は映画でやっているようなヒーローにはなりたくないのだから。
天井を見上げそんなことを自問自答する。
考えながら、ここが自分の部屋だということも同時に理解した。
「おそらく巨獣鳥は八つ裂きに出来たが、そのあとの事はどうなってるんだろうか……」
体が重い。寝起きだからか、それとも本当に動かないのか、とにかく力を入れてみる。
「ああ、後者だったようだ。…まだ身体が自分の魔法に追いつけていないのか」
身体を起こそうとすると激痛が走る。無理すれば起き上がれる気もするが痛みに抗ってまだする気にはなれなかった。
「やっと起きたのね」
葵の声がして首だけ横に動かす。見守りのためか後ろにいたらしい。
「ああ…。そうだな。ため息もつきたくなるわな」
ついそんな言葉が出てしまう。
「そうね。あれくらいの巨獣鳥なら暗部は魔法で吹き飛ばせるはずだしね。正直、出し惜しみしてるのかと思った」
黒い言葉に少し心が痛む。
でもそんな事を言われても当然である。そういう意味が暗部を抜けた理由の一つ…でもある。
「前から言ってるだろ。俺は強くないって。あの俊足が封じられたら俺はすぐにおしまいだ。よくもあいつを倒せたなぁって自分でも驚いてるよ」
ふーんと返される。どう考えても理解していないという声だ。
なお葵の顔は見れなかった。
「蓮!」
勢いよく扉が開き、フィーベルが突入して思い切り俺の腹に倒れ込む。
かなり痛い。
「あの瞬間は本当に死んでしまうかと思いました! でも、生きててよがったでずーー」
俺の腹で泣きじゃくってしまう。チラッと顔を見たが目が腫れていた。
自分がいなくなる事を悲しんでくれる人がいる事を実感する。
「ほら、まだ蓮は痛みで起き上がれないから……」
そう諭し、フィーベルを俺から離す。少し、温もりが離れることに惜しい気持ちになる。
母親がいたらこんな感じなのだろうか……。
「それで巨獣鳥…は一応倒せただろう。その後は覚えてないんだが、何があった?」
「はい。とりあえず、報復に来た鳥はいなかったので残骸を埋めた後退散しました。あの男の人は蓮に申し訳なさそうにしていましたからいい報告ができそうです」
「その後も報復の可能性を見てちょくちょく行ってみたけど何もなかったから大丈夫だと思うわ」
二人の回答にそうかと返事をする。確かに鳥は集団で行動している場合もあり、誰かが倒された場合、報復に群れで来る可能性はあった。まぁ何もなかったことに少し安堵する。まぁ、葵ならなんてことなかったと思うが……。
「で、無様だけどあの巨獣鳥を倒せてしまった。魔法師の私から見れば当たり前だけどそうじゃない者にとってはものすごい功績に映ったはずよ。観客が私たちだけだったおかげでまだあまりそういう事は広まっていないけど、一応ありのままを女王に伝えさせてもらったわ」
「女王はなんて?」
「特に返答はなかったわ」
「そうか……。いっそ、この話は無かったことになればいいのにな……」
「そうね」「そうです」
二人の返事がシンクロする。正直、驚いた。
大体彼女二人はいつもつるんではいても基本的に俺に関しての意見は全く反対だ。
俺はこの光景が珍しく感じてしまった。
「そ、そうか……」
驚きを隠すことができず声に出てしまう。
「そうですよ。あの女…人をなんだと思っているんですか」
「はいはい…女王様よ。フィーベル、そんなこと言ってると殺されるわよ?」
怒りだすフィーに対して、葵は冷静に彼女をなだめていた。
「おま……葵は、正直どう思ってるんだ?」
「え?」
ついそんな言葉を呟いてしまった。
こんな場所だからこそ本音を聞けると思った。もちろん、女王との会話が本心なのかもしれないが違うかもしれないとも思った。
「私は……正直迷っているわ。あなたには悪いけれど、東洋人の名誉とあなたを天秤にかけているのよ。……あなたの戦いっぷりをみると余計にそう思ったわ……。なんというか、ハラハラするのよ!」
「ああ……」
その一言に俺への鬱憤を感じ取れた。
任せてもいいのか、それともダメなのか。任せても、もし失敗したらのリスクがどうしても付き纏う。失敗は許されない。今度こそ東洋人の差別がエスカレートする。
反面、成功すれば東洋人の見方が変わる。俺が位をもらうことにより否応でも東洋人の差別ができにくくなる事は確実だ。ただ、完璧にはいかないのがここの辛いところではあるが…。
「あんたこそ、その気はあるの? なよなよしてるから私も決めづらいのよ」
「俺は前から言ってる。それは重荷だ。俺にどうにかできるとは思わん」
呆れ顔で言われてしまったが、これの答えだけは決まっている。俺が女王の婿?性に合うわけないだろ。絶対に茨の道に決まっているそんな道にわざわざ行きたがる奴はよほど出世に飢えたやつだろう。
そんな生活はごめんだし、自分の周りの平和で精一杯だ。
「そう。ならよかったわ」
敢えて葵の方を向くのはやめておいた。俺の決心まで鈍ってしまうと思った。
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