第35話
(ダメなのよ。こんなところでこんな程度で敗れるようじゃ……)
胸に噛んだ手を握りしめる。
頭にあるのは東洋人としての彼に託していいかの不安。そして期待、希望。
本当にしてくれるのか?出来なかったら?というところで渦巻く。
東洋人は二人だけではない。この国、一億の中の十分の一と考えれば簡単に決めてもいい数字ではない。
ただもしこれが本当に女王の言うとおりになればどうだろう。今でも迫害を受ける私たちへの見方がいい方へと変わることは間違いない。
(だからこんなところで躓いてもらっちゃ困るのよ)
願うしかできないことにもどかしさを持ちながらも手を握るしかなかった。
「くそっ!」
このままではただの消耗戦になるだけだった。
何か決定打が見つからない……。
(もちろん、俺があれを発動しさえすれば話は速いんだけど……)
あれは怒りという感情をある閾値以上発動しなければならない。そしてこいつにここまでの怒りの感情はないわけではないが前のフィーが悪い奴らに捕まった時よりかは薄い。
それはあいつらにもここを譲れない理由があることを知っているからだ。
(でもやらないと……っ!)
気持ちが焦る。このままでは魔力切れも考えうる。そうなっては自分もこの鳥に太刀打ちなど到底できないどころか全員死という未来が起きることが想像に難くない。それだけは避けなくては……。
『少年…力が欲しいか?』
「え?」
突然の声に辺りを見回す。そこには誰もいない。
巨獣鳥が翼をはためかせ俺の動きを封じる。立っているだけでやっとの状態を見計らってクチバシで串刺しにしようとしてきた。さっきまでならギリギリで避けられていたが一歩反応が遅かった。
「まずい、このままだと……」
クチバシが俺の腹を掠めた。
「う゛……がはっ……」
血反吐を思わず吐いてしまった。脈がドクドクと速まっているのを感じる。このままでは死ぬと警鐘のように聴こえてくる。
霞む景色……俺はどこに巨獣鳥がいるのかもかろうじて把握できている程度だった……。
想像以上の痛みで意識が朦朧としてくる。
どこかで俺の名を叫ぶ声が……聞こえた……ような……気がした……。
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