第30話
婿になれ宣言の翌日。あっさりと拘束から解放されて王宮を彷徨う日々となっていた。
なぜ逃げないのかは社会的に逃げられなくなることを恐れてのことだ。王宮を出た途端に俺を婿にするという通知を国民に広めることだろう。そうなれば、俺の命がよく思わない連中によって狙われるのは容易に想像がつく。
「はぁー」
ため息が出る。女性関係に関しては全くもって考えてなどいなかった。もっと心が昂るようなそんな感覚に流されていくのかと甘い想像をしていたのにそれすらも飛び越えて結婚なんてますます実感がわかない。
「何でため息なんですの?」
後ろから女王の声がした。
ばつがわるいと思いながらも姿勢を正し振り向く。
「いえ、なんでもありません」
「それはいくらなんでも苦しいわよ。絶対に私との結婚のことで悩んでるのがバレバレよ?」
「………」
返す言葉もない。黙り込んでしまう。身分が身分だけに今後の生活を考えたときにこれほどいい話はないのだろう。かつ、メアリーが考えとしている本当の意味での平等実現に対する気持ちも生半可なものではないこともよく分かる。
もし、それが実現したらということを考えたら……と気持ちが揺らぐ。
「女王様に向かってそのように黙り込むのは無礼ではありませんか?」
声を上げたのは女王の斜め後ろにいたメイドだった。睨み付けるように俺に鋭い視線を向ける。少なくとも俺はそのように感じた。
「いえ、その通りです」
「だったら、その死んだ顔は女王の前では絶対にしてはいけないのではなくて?」
「おっしゃるとおりで」
つらつらと鬱憤をぶちまけるように俺に言葉を重ねるメイド。その一言に怒りが乗っかっているのが明らかに分かる。
ただ、その通りであるからこそ言い返すことなどは一粒もない。
そんなメイドを女王が
「無理やりの求婚ですもの。困惑されるのは当然のことと存じます。私も正直あなたに対して分かっていないとも思いました」
「も、勿体ないお言葉……」
「これから夫婦になるのですから、もう畏まった言葉遣いはやめにしてください」
「はぁ……」
立ち上がり、「分かったよ」と返す。メイドの顔がピクっとなったが敢えて無視しておく。あまりメイドは規格外のことがあるので敵にはしたくないのだが……。
「それで、まずはお互いにどんなかを知らなければいけないと思いまして。あなたの学園に行きたいと思いますの」
「え゛」
「表向きは学園視察ということにして校長クラスにはこのことを伝えればいけるでしょう。……お願い」
そうメアリーがメイドに向かいお願いと向いた。メイドは「かしこまりました」うやうやしく頭を下げて、来た道を戻っていった。
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