第28話
不意に目が覚める。まだ、命はあるようだ。身体の動かせるところすべて動かしてみるが、どこもおかしなところはなかった。
ただ目隠しのようなものと手鎖を手足にかけられており、満足というわけではなさそうだった。
「誰かいるのか?」
五感を研ぎ澄ませてみるが、どこかへ運ばれている感覚はしない。また、誰かがいるような足音や話し声なども聞こえず、静寂の時が流れている。
「ああ、目を覚ましたのですね」
女性の声が聞こえた。
俺の呼びかけに反応したのか、椅子をずらす音が聞こえて、足音が大きくなる。
とっさに身体を縮こませる。視界を遮られている以上、性別関係なく警戒せざるおえない。
「うっ…」
おそらく女性の手が俺の髪に触れる。痛みが走ったわけではないが、そうされると頭が早とちりしてしまった。
女性の手…のようなものが俺の髪を撫でる。どうやら敵対心はないようだ。身体の硬直をとる。
「うふふ……そう。私は敵ではありませんよ。そのように警戒なさらなくて良いのです」
「こんな状態でそれを信じろって言うのか? 冗談だろ」
「そうですね。その通りだと思います。だから……」
急に視界が明るくなる。真っ暗な世界からいきなり光が入ってきたせいで、目がはっきりとは見えない。
その間に手足の拘束も解いてくれる。
俺はその瞬間に立ち上がり、相手との距離を瞬時にとる。
「まぁ、それが瞬間移動ですか? 本当に移動しているようには見えませんね。すごい……」
次第に目も慣れてきてようやく相手の顔を視認できるようになってきた。
(ドレスの少女……だと? それに……あからさまに俺を警戒していない…)
「そんなに睨まないでください。私に敵対の意思はないといったではありませんか。それで拘束も何もかも解いたのに……」
少女はしょんぼりとした顔を浮かべる。まるで人形のように整った顔からとてつもない令嬢感を抱かせるが、それとは違ってとても俺に対して優しくしてくれる。
(こいつはやられた俺を助けてくれたって事でいいのか?)
「質問させてくれ」
「どうぞ。わざわざ聞かなくても答えますよ。別に私があなたに言えないことなんてないと思いますから」
「俺は女王の命で、拘束された。で今ここにいる。ここはどこなんだ」
「ここは王室の私の自室です」
「王宮に自分の部屋を持てるなんてさぞかしすごい令嬢みたいだな。どこの貴族なんだ?」
俺の質問に対して、きっちりと返答してくる女の子。きちんと教育もされているようだ。見ず知らずの男がやって来てもきちんと礼儀を守っている。
「私、貴族じゃありません。皇族です」
「え…………じ、冗談だろ。流石に…」
今の返答にはいささかのいたずら心を感じた。もちろん彼女は笑顔だ。それだけで嘘を言ってはいないということを伝えていた。
「し、失礼しました」
その表情を見て慌てて跪く。命だけは取られたくはない。
「別にわざわざそうして欲しくて身分を話したのではありません。はい、立ってください」
そう言って俺の手を引く少女。素直に従い、気をつけの姿勢をとる。ここはとにかく逆らってはいけないと思った。それだけが生きる道だと感じたからだ。
「あなたの名は知っています。暗部ナンバー21、羽倉坂蓮。間違いないですね?」
「いや、元ですけど…ね」
皇族の言葉ではあるものの、そこは譲れなかった。
「あなたには数々の国を救った功績がごまんとあることが分かりました。そのおかげで今の私たちの国があるわけです。あなたには非常に感謝しています。ありがとうございます」
「え、ああ、ど、どうも…」
突然頭を下げて感謝されて、どう返したらいいか分からなかった。自分自身、感謝されることに慣れていなかった。
「そこで、あなたに勲章を授与するとともに、私の婿にして差し上げます。如何でしょうか?」
「は? え?」
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