第23話
「ここが、例のアジトですかい?」
「ええ、そのはずなんですけど……」
暗部の隊員二人が目を合わせて、疑問符を浮かべる。
二人が見るアジトはただの家で中を覗くものの、中はごくごく普通の一軒家のようにしか見えない。
唯一、この家が山の麓にあり、すぐそばが森になっていることとあまり住民がここにいないことが秘匿性を示している理由なのかもしれないが服装さえ普通にしていればまず怪しまれることはなく、たまの出入りでも別荘くらいに思われたはずだった。
「とりあえずここにはいなかった。待ち伏せるかの指示を上に仰いでくるよ」
「ええ……」
そう言って隊員二人はこの家を後にしようとしたが……。
「きゃああああああああああああああ!」
悲鳴の方へと向かう。幸い近く、この家の裏手だった。
「なに⁉︎」
そこには一人の焼け焦げた焼死体があった。
「あなたがたは……誰、ですか?」
自分よりも背の大きい黒ずくめの男に囲まれる。ただのお尋ね者…な訳はない。
自分のあてがわれた部屋に押入られ、退路を断たれる。逃げ道といえば窓から飛び降りるくらいだが、回復魔法以外の魔法はからっきしダメで一般人とほぼ遜色ないのだ。
彼らはそれが分かっているのかそうでないのか定かではないが、悪巧みする笑みを浮かべている。
「さぁ。別に素直に言うことを聞けば俺たちも君に手荒な真似はしないと約束しよう。さぁ、一緒にこい」
黒ずくめの一人が手を差し出した。その手ですら黒い手袋をつけており、ほぼ良からぬことに使われるのは間違いないだろう。
「も…目的は…何ですか?」
「何、身体が目的ではない。お前の希少性は俺たちも、そして魔法師がよく知っている。そんなものをみすみす殺そうと思うほど俺たちも馬鹿じゃない。俺たちのヒーラーになって貰うんだよ。この国とやりあうには、絶対的に戦力が足りなさすぎる。そこでお前だ。どんな重傷でも治してしまうお前なら、この戦力の差を解消できる」
警戒を解かず、彼らに質問を投げつける。もちろん答える義理はないと言われればそれまでなのだが、彼らはもう捕まえたと優越感に浸っているのか軽々と口を開いた。
「私の希少性を知っているなら、護衛がいるとは考えなかったのですか?」
「ああー。…もちろん、考えたさ。あのショボ魔法師のことだろ?」
「ナバールも単純だよな。あんなヒョロ男に因縁を持つなんて…。しかも彼は強いとかのたまうとか。ケケケ、ちょっと付与魔法かけてやれば一発で死んだじゃねぇか」
私を捕まえたことの優越感が増したようだ彼らはゲラゲラと笑いだした。
私もバカではないから誰のことを言っているのかはよく分かる。もう弾けそうになる気持ちを拳に力を入れることでなんとか堪える。
ヒトを助けることしかできない私にとってこの現状は甘んじて受け入れるしかない。護衛のことであれ、蓮がいるから絶対大丈夫と言い切ってつけなかった私が悪い。
そんな時に勢いよく風が吹いて、カーテンをなびかせた。
「さぁ、そろそろ時間だ。こい」
男の一人が私の手を強引に掴んだ。少し抵抗してみたが、解けることはなかった。
「ナバールさんはどうしたんですか?」
「あん? ……そうだな。まる焦げになったと言えばいいかな? まぁ、奴のことは諦めてくれ」
私の質問に二人の男たちは目配せしたのち、そう言い放った。
私のことと言い、彼の力を引き出すには程のいい材料だった。
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