第21話

「はぐれ魔術師…ですか?」

『ああ、有り体に言って仕舞えばそうなるな。はぐれ、と言っても弱いわけじゃない。単にこちらの意に背くんだ。本来ならば別に他人に危害を加えることはないのだが、ナバール……ええと王宮近衛隊隊長と密告していたのが分かった。何か良くない気がする』


 ナバールと魔術師が何やら良からぬことを画策していて、ナバールがここに来ているらしい。


『ともかく警戒を……っと、早速嫌な予感が的中したようだ。……あー。いや、ともかく後のことは頼んだ』

「え? あ、ちょっと!」


 引き止めるのも虚しく、耳障りな音で通話が切れた。

 所長がそう言うのは必ずと言ってもいいほどの的中率、もし違うにしても調べておく必要はありそうだ。


「おい」

「っ!?」


 いきなりの後ろからの声に飛び引く。完全に後ろを取られ、気配もなかった。

 と思ったら、羽倉坂だった。


「今、ホッとしただろ。もし俺が敵だったらお前今ここにいないぞ」

「そ、そんなこと分かってるわよ!でも、気配も一切なかったし……」

「んなもん暗部なら気配消すのは当たり前だろ。何言ってるんだ」


 こいつという男は私の気をことごとく逆撫でしてくる。さっきのは本当に今すぐ殺したくなった。

 普段の私であれば、ナイフを瞬時に相手の首筋に当てていたかもしれない。でも、それをしたところでいなされるのが関の山だと分かっているから、この怒りを抑えているだけだ。


「でだ。お前に聞きたいことがある」

「何よ。あんたに教えることなんてないわよ」

「いいから教えろ。ナバールのことだ」

「なんでそのこ-」

「知ってるんだな」

「いや-」

「いいから吐け。もうごまかしはできないって分かってんだろ」


 いちいち感に触る。

 だが、力では抗えない。


「取引よ。私にも利益のある情報か何かなきゃ教える意味がないわ。別に仲がいいとか、組織の人間でもないんだから」


せめてもの反撃としてそう言ってみた。これで少しでも怯んでくれればいいなと思った。


「俺がナバールに襲われた。しかも使えるはずのない魔法の行使があった。これで充分か?」

「……」


 一瞬フリーズしてしまう。蓮が簡単に情報を吐くとは思わなかったからだ。

 別に情報が欲しかったら力ずくでもいいはずだ。蓮は私に一度勝ってるんだから、そんなに部の悪いなんて事はない。


「どうした? 交換条件だろ。早くそっちの情報をよこせ」

「ああ……はぐれ魔術師がナバールと接触したらしいわ。おそらく、その魔法師がナバールを手助けしたのでしょう」

「……そうか。はぐれ魔術師がどこにいるか分かってるか?」

「いえ、これからよ」

「分かった。 ありがとう」

「え……」


 それを聞いて去っていく蓮。普段の彼からは想像することもできない行動だったが故に声が漏れてしまった。

 いずれにしても、蓮が協力的になるのは少し暗部への興味というより使命感みたいなものが芽生えたのかもしれない。


「待って、私もついてくわ」


 そう言って追いかけることにした。

 これは彼の暗部での仕事ぶりが見られる絶好の機会だし、何よりも自分の勉強になると感じた。

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