第20話

「ん? ここは……俺の部屋……」


 目を覚ました時には、俺の部屋にいた。もう死んで次に目を覚ますのは地獄だろうと思っていたが、神はまだ俺を裁いてはくれないらしい。

 ここに寝ているということは、ナバールから致命傷を受けなかったあるいは受けたが、治療により生きていると考えるのが普通だ。

 ということは……。


「あっ……」


 扉が開き、入ってきたフィーと目が合う。俺と目があった瞬間に目に涙が浮かんでいるのが分かった。


「よ、よう……」

「蓮!」


 急に抱きつかれた。咄嗟のことで、恥ずかしくなってしまう。


(ここは抱き返した方が……いや、女性の身体に触るのは……)と、自問を繰り返してしまい、後ろに手を回せない。


「いっ……な、なんだよ。き、急に抱きついてきたりして……」

「ああ、すみません。蓮が目を覚ましたのが嬉しくてつい……」

「いや、別にそれはいいんだけど……」


 逆に痛がっていることを心配される方が恥ずかしかった。


「蓮が追ってこないことに不安になって戻ってみたら……まさかあんなことになってるなんて……蓮……本当にごめんなさい……私のせいであんなことに……」


 下を向いて謝るフィー。そのような後悔のような、懺悔のような……そんな表情をするフィーを見る方が辛かった。


「それより、なんなんだあいつ。お前の婚約者だとかのたまってたぞ」


 いたたまれなくなって、無理やり話題を変えようとする。が、これでいいかなんて分からなかった。


「ナバールさんは……私に求婚してきたのです。一目惚れ…と言っていました。その時は、ええと……」


 なぜかそこで口どもるフィーベル。しかも、チラチラとこちらを見るような仕草をする。


「そこで好きな奴がいるって言ったんだろ?」

「え⁉︎は、はい…そ、そうなんです……うぅ……で、あなたの気持ちにはお答え出来ませんとお断りしました……」


 そこでなぜか悔しそうな表情を見せるフィー。


「もしかして、断ったこと、後悔してるのか?」

「いえ、全くそんなことはないです……はぁ……」

「でもため息なんかついて–」

「違います!」

「………」


 はっきりと言われた。こんなにもフィーが感情を露わにするような発言を聞いたのは出会って以来初めてかもしれない。


「ですが、私の養父が婚約にとても意欲的で……親同士で婚約者ということになってしまったのです」

「……そうか」

「おそらく、彼は意識の高い方ですから私がこのことに納得してないことを分かって今回のような行動に出たんじゃないかと思います」


 フィーベルは申し訳なさそうにしながらも話を続けた。別にそんなことでとやかく言う気はない。

 だがあの凛々しい男、そんなことをしそうな性格をしている。一応、騎士を名乗るだけあって人を欺くような悪行をするのはカンに触るらしい。


「で、俺がフィーの想い人だと勘違いされて殺されかけたと……」

「いえ……あぁいえそ、そうです……申し訳ありません……」


 またフィーは下を向いてしまう。

 だからそんな顔は見たくないって。


「あいつは魔法は使えるのか?」

「え? いえ、使えないはずですけど……」

「そうか……で、お前が殺されるところを助けてくれたんだろ?」

「ええ、凄いこっ酷くやられてしまったようで私の魔法で……蓮は本気を出せないというのに……」

「いや……と、とにかく助けてくれてサンキューな。ちょっと疲れたから寝るよ」

「あ、はい。少し無理させちゃいましたね。それじゃ…おやすみなさい」


 そう言うと、フィーベルは部屋を出ていった。というよりも俺が一方的に話を切って出ていかせたという方が表現としてはあっている気がする。

 あの最後に喰らった技は明らかに魔法が使われていた。でなければ俺の剣が溶けるなんてことは有り得ない。じゃあどうして使えない人が使えているのか、という疑問になるのだが…。


「なんか裏がありそうだな……」


 暗部にいることでこんな癖が出てしまう。まだ憶測に過ぎないけれども、調べてみる価値はある気がして部屋を出た。

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