第19話
でも先に行ってもらった方が良いかもしれないと思ったところだった。
「ずっと俺の後をついてきて何か用なのか?」
そう声に出して、後ろを振り向いた。
「やはり腐っても元暗部にいただけの事はある。私の気配を見抜くとは」
「何者だ? お前……」
建物から一人の騎士が出てくる。もう完全武装で鎧なんか輝いて見える。顔から清楚な感じが伺えるが、どうやら何か俺に怒りや妬み、のような黒い感情を向けられているような気がした。
「これは失礼、私だけ知っているというのはフェアじゃなかった。私は女王直下の護衛部隊ルインズの隊長、ナバール・オルドフと申します」
「それで、こんなとこに騎士の長がこんな辺境の地に何の用だ?」
「私もここに赴くのは女王の護衛として本来ならばありえない事なのだが、男の一世一代のことを起こすのならやぶさかでないと女王に無理を言ってここに立っている」
騎士様の話は回りくどすぎて要領を得ない。もっと、簡潔に敵意なら敵意で攻撃してくるとかそうしてくれた方が俺としては楽だ。
だが、彼はどっかの護衛部隊の長だと言う。であれば俺に向ける敵意は国関連のものではないということになる。
つまり何かしらの私怨ということだろう。しかし、俺が王宮で何をしたんだろう……。
「私はフィーベルさんの婚約者だ。しかし、彼女に好きな人がいるからと言われてしまった」
「おいおい……だからってどうして俺に剣を向けてくるんだ?」
そう言いながら、ナバールが剣を向けてくる。その剣は大剣と呼ばれる大きいもので、本来ならば両手でないと扱えるばすないものを片手で簡単に振ってみせた。いつ出てきてもいいように蓮も剣を抜いた。
「十中八九、君がフィーベルさんの好きな人だからだよ。調べたからね間違いない。フィーベルをこちらに送り込んだのも彼女の希望だと聞いている。そこまであれば、君なのは間違いないと断言できる」
「だ、だからって俺に剣を向ける理由にはならないと思わねぇの?」
「強い者こそが真の婚約者にふさわしい。これは君に対する嫉妬心に過ぎないかもしれない。けれど、私は彼女が愛しい、そばにいてほしい。であれば力を示す他あるまい……っ!」
その言葉を皮切りにナバールが剣を振り下ろした。
当然迎え撃つが、ナバールは身長が高くそのために体格的には蓮が圧倒的に不利だ。
なんとかいなして距離を取る。
「おいおい、お前の言い分は意味が全然分からないぞ、それにまだフィーの気持ちもわからないのに勝手に剣を向けられて……」
「問答無用! 女を取り合うのに、強さを示すのは男として当然のこと。君を倒したという実績があればフィーベルは私の元に来てくれる!」
一振り一振りが、蓮に重くのしかかる。さすが、鍛えているというのが嫌でも分かる。
俺は素早い移動でその攻撃をかわすことにした。あんなのは何度も受けていたらこっちの剣が折れてしまう気がした。
しかし、この者は魔法を有していないと攻撃から推測した。
もし魔法を扱えるというのであれば、俺も対等に使えるのだが、あまり人に見せびらかせるものでもないので軽々しく魔法を使う事はできない。
(でも、使わないといずれ……っ!)
ナバールは追い詰めるように毎回毎回避けづらい角度に剣を振ってくる。しかも、強さを証明と言いながら俺を殺しにきている。
おそらく俺さえいなくなればフィーと婚約できると思い込んでるのだろう。
フィーははっきりと断れない性格だから、相手に期待を持たせてしまったに違いない。
そのしわ寄せが俺に向かってるわけで、俺としてはとても迷惑なのだけれど。
「ちょこまかと!」
「なっ!?」
フェイントで剣を振る瞬間に短剣を俺に向かって投擲してきた。
もうすでに大剣に合わせて剣を出しかけてしまっていたのでそれを避けるのは無理と判断して、剣を高速移動させて何とか弾く。弾きかたが甘く、少し脇に掠ってしまう。ちくっというような針に刺される程度の痛みが走る。これくらいならば、大した怪我ではない。
「貴様、やはり元暗部というだけあって奇妙な技を使う。剣の捌きが私に見えないというのは君たちの中で言う“異能”の類なのかな?」
「ああ、それで間違いない。で、それは異端だとますます殺したくなったのか?」
「いいや、私が好きになったフィーベルも元は異能の類。瀕死の私の傷を一瞬にして治せるのだけでそれを人と異なる者として差別するというのはおかしな話であると思っているし、それが女王の意思の一つでもある」
「じゃあ、これからは好きに使わせてもらうぞ……っ!」
高速移動でナバールの後ろをつき、剣を横薙ぎしてその鎧を壊しにかかる。本来ならば、首を落とした方が速いのだが、これは少なくとも蓮にとっては殺しあいではないとみなしての行動だった。
けど………。
(こいつの鎧硬すぎっ!)
ナバールが剣を横薙ぎしてくるのに合わせて、高速で距離を取る。
「流石に戦闘を舐めすぎじゃないのか? 羽倉坂蓮。今の間合いで首を叩けば一瞬で落ちただろうに……」
「あいにく、俺にも少なからず義の心は持ち合わせてるんでね。自国の、しかも騎士様を平気で殺せるほど目は濁っちゃいない」
「ふっ、随分と舐められたものだな……そのセリフは私の師匠に言われた以来だ」
そう言うと、ナバールは剣を真正面に地面に対して垂直に構えた。
(くっ、どうやらマジで怒らせたっぽい…)
相手の剣に凄まじい圧力を感じ、剣をしっかりと構える。
「いくぞ、羽倉坂蓮!」
「っ!?」
いきなり大剣が赤い炎を纏い、ナバールが突進してくる。
「
「っ! この威力は……っっ!?」
炎を纏った剣に剣を合わせても、剣はすぐさま溶け、蓮に肉薄してくる。
(くっ!? こ、このままじゃ……)
それを高速移動で避け-
「がはっ……?!」
たつもりだったが、肩から腰にかけて縦にはっきりと切られていた。
幸い臓器までにはいってないものの、血が吹き出る。
痛みに立っていられず、その場に倒れてしまう。
「勝負あったな羽倉坂蓮、お前のその傲慢さがこうなった原因だ。私は君のように義などというものはこの戦いにおいて持ち合わせてはいないよ」
倒れた中で、ナバールが俺を見下ろしているのが分かる。
意識が朦朧としてくる。心臓の音がうるさく聞こえてくる。
ナバールが剣を振り下ろしたところで、意識が途絶えた。
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