第15話

 ぼやっと視界が晴れたような気がする。けれど、完璧ではないようにも思える。どのみち、よく分からない。


「お主はあの村の唯一の生き残りだった…。よほどの愛だったのだろう…死んだ母親に抱かれたまま泣いておったわ」


 誰かとの会話のようであるけれど、相手の返事はない、もしくは聞こえない。

 この半人間に助けられたことが、俺の暗部へいざなわれるきっかけとなっている。


「私はその子を育てることにした。このまま放っておいても後味悪いだけだと思ってな」

「……」

「でもな。育てかたなんてまるっきり分かっとらんかった。どんな風に育てたらええのか、どれが正解なのかサッパリだ。ワシはよく分からずあいつを育てたよ。今でもあのやり方が正解なのかは皆目検討もつかん」


 そう言って自嘲ぎみに笑い出す俺の師匠。こんなこともあったかもしれない。

 俺の中の師匠の思い出はとにかくスパルタ指導されたことしか頭になかった。

 そこからは思い出したくない…。

 ………徐々に意識が出てくるのが分かる。


「んんぅ…」


 ゆっくりと目を開けた。天井が見えたことで、どこかに運ばれたとわかる。


「あ…目を醒ましたようです」

「おお。…悪いな。目を開けたところに美少女だけじゃなくて」

「ああ……」


 まだ覚醒しきっていない身で生返事する。

 なにか葵が声を荒げているようだったが、そっちを気にするテンションじゃなかった。


「体はどう?ちゃんと動く?」


 視界にゴードンが入ってそう聞いてくるので、腕や足を上げたり、手を握ったり広げたりしてみるが特に抵抗感は感じなかった。


「大丈夫そうだ」

「そう。よかったワ」


 そう返事したことに微笑ましい表情を見せるものだから、つい口の端が上がってしまう。


「久しいな、蓮。俺のこと覚えてっか?」


 横槍から声がかかる。白衣を着たむさぼらしい格好をしている。気持ち的に「覚えていない」と言いたかったけど、暗部時代にはかなりお世話になってしまっているせいで強気にはなれない。


「覚えてるよ。……不服だけどな」

「お前、一言多いんだよ。胸にちゃんとしまっとけ!!」


 軽くど突かれるが、それほどの強さではないから大したことはなかった。


「てことはこの部屋のこと、あなたは知っていたの?」

「ああー…いや、ここは……知らないな。俺が脱退してからじゃないか?」


 見回してみるが、こんな場所は知らない。もし、あると知っていたなら現実逃避したいときなんかには寄り道してもおかしくないほどに人が寄り付かなさそうな場所だった。


「まぁ、これはおおっぴらにしなければ別に話してもいいわヨ」

「………」

「あなたが暗部こっちに戻るって言うなら無条件で教えるけどね」

「……いや、やめとく」

「ソ」


 ゴードンが俺の考えていることを読んで、心を揺さぶってくるが俺の決意はそんな簡単に揺らぐものじゃない。

 もうあの組織からはあしをあらう。

 そう決めたのだから。

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