第14話

「え?」


 ドサッという音を聞いて思わずそんな声が漏れる。驚きよりも疑問の方が強かった。私よりも強い蓮が倒れるなんて。

 振り返った先には蓮が倒れている。

 膝からではなく、頭から倒れたのが分かった。


「大丈夫⁉︎ 無事?」


 返事はない。

 軽く見てみるが、目立った外傷は見当たらなかった。

 何か精神的なものかあるいは毒か。

 まだ、息はあった。脈拍も特に異常はない。


「彼は任せなさい」

「ゴードン先輩? なぜここに」

「いいから!」


 その一喝で、私は事態の収拾を行った。






 彼が運び込まれたのは、学園の医務室ではなく、地下にある部屋だった。

 こんなところに部屋があったなんて、そもそも地下があるなんてことも知らなかった。


「ここは暗部しか知らない場所ヨ。もっとも、まだ入って間もない葵には教えてなかったけど」

「ということは、学園と暗部は繋がってる?」

「まぁ、それはおいおい……ネ」


 ゴードンは蓮を抱えて、地下にある執務室の扉を開いた。


「ん、珍しい客人……にしてはヤベェ奴ばっかだな……それに……やられたか?」

「いいえ、まだバイタルに異常はなさそうヨ。けれど、意識を失ったわ」

「そうか、それは厄介だな」


 中には白衣を見に纏った男がいた。しかし、目には覇気がなく、明らかに寝不足だという証がある。

 身体は痩せ細っており、とても医者のようには思えない。

 ソファに蓮を下ろすと、その白衣の人が蓮に触診する。


「これは、力の反動って事で良いのかしら?」

「いや、それもあるけどそれにしちゃあおかしなことが多い。さっきけど、臓器とか神経には何ら異常ないみたいだ。……あ、ちょっと待て」


 再び白衣の男が、蓮を見る。

 ジィーっと見たあと、「こりゃ毒だ」と言って、別の部屋に入っていった。

 三人が残される。


「大丈夫……なんでしょうか?」

「ええ、大丈夫ヨ」


 しばらくして、あの白衣の男が何やら解毒剤らしき、緑の液体を飲ませるまで、ただ横たわる蓮を見ていた。


「ええと彼は?」


 私は、ゴードン先輩に問いかけた。


「彼はナメック。暗部の医師の一人ヨ」

「どうも、君は新入りの鈴原葵だね。暗部も丸くなったよねー」

「どういうことですか?」

「いや、君みたいな表向きに暗部への加入を認めるなんてことは今までなかったからさ。今までは、この学園とかに特異的能力を持つものを集めてスカウトって感じだったからさ」

「今の女王が暗部を表舞台に引きずり出してしまったのよネ。一応、ああいった仕事はごく一部にしかないんだけど」

「けど危険なことに変わりねぇよ。ヤベェことにだって手を染めるし、下手したら死ぬんだからよ」


 ナメックは隣で横たわる蓮を見ながら感慨深そうに言った。

 私はまだ経験ないけれど、表舞台の戦場ではなく、死んでいった者は数多あまたいるらしい。

 そのせいで、火葬はおろか骨さえ残さずに証拠隠滅のために消されてしまうとかよく聞く。


「ああ、それはねぇよ。確かに骨に至るまで、身体的ものは何もかも消されるけど、王の機密殉職者一覧には名前が載る。つまり、最低限の葬いはされるぜ」


 そう言ってみるとそんな回答がナメックから返ってきた。出来れば、殉職はせずに、普通に辞めて安心して死にたいものだと葵は思った。

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