第11話

「でもあの速さはまるで瞬間移動よ。加速するだけなら魔術師であるならできるだろうけど限界まで相手に超速で近づいたら普通はそのままぶつかってしまうわ」


 葵の言い分はもっともである。

 通常、走る場合には加速と止まるためのブレーキが必要である。人間でも車でも加速している中で急にブレーキを踏んだ瞬間その場に止まるというのは不可能だ。それが魔法でも同じことが言える。

 だから蓮のあの魔法は物質移動といった方がいいのではないかと思われる所業である。しかも、これまで瞬間移動なんて編み出した魔術師なんて文献にもないから蓮のオリジナルとなって公になれば何らかの賞が貰えるかもしれない。


「あまり野暮なことを考えるなよ。俺は平和に生きたいんだ。お前らの事情なんて知ったこっちゃない」


 やはり剣を振る手を止めずそう言った。

 つまるところ、言い触らすな…と言いたかったのだろう。

 いじわるの意味も込めてやろうとも頭には登っていたけれども、見透かされてしまいますます悔しくなってくる。

 結局、みんなが起きてくるまで剣を振り続けていた。





 今日の学校にふらっと吸血鬼が現れてくれることを期待したが、当然そんなことはなく、彼女がいたことさえ周囲の人間にはもうわからなくなっていた。

 存在が人の記憶の中から消えるのは魔術師や異能者にとって難しいこと、それだけでも簡単な相手ではないことが分かってしまう。

 だが、彼女が俺を欲していたように何かしらの方法で俺に接触してくるのではないかと思っている。

 それができれば学校じゃなく人を巻き込まないところであることを願うばかりだった。

 移動教室に向かいながらそんなことを考えていた。


「ねぇ……」

「……」

「ねぇってば!」

「ぐはっ⁉︎」


 葵に不意打ち腹パンを食らった。女子なのに加減のない一撃……。


「いてぇだろうが!!」

「そりゃそうよ。てっきり避けると思ったんだから思いっきりやったのよ」

「ったく、もっと優しくしていただけないんですかね」

「そうして欲しいなら普段の態度を改めたら?」


 廊下にいた取り巻き達から完全に注目を浴びてしまっていた。

 それぞれ、恐怖の目線と葵の勇敢さにさまざまな思いが入り混じっていた。

 俺は気にせず、歩き出す。それに葵もついてきた。


「で、なんだっけ?」

「ええ、例の件だけどこの学校にまゆを張ったけど何にも引っかからなかったわ」

「あ、そ」

「ちょっと、その態度はどういうことよ⁉︎」


 無視して歩調を速めようとしたら止められた。

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