第9話

 この学園の中はしらみつぶしに回ってみたが、気配はとうの昔に消えており今日は無理ということで明日捜索することとした。


「んで? いつまで付いてくるんだ?」


 蓮の後ろにはまだ葵がいた。


 距離は人二人分後ろを歩くような感じだが、明らかに付いてきているように感じた。


「私も今日からこっちなの」


 蓮との距離は保って、蓮の方を向かず答える。


「あそ、勝手にしろ」


 蓮はそれだけで理解したのか、手のひらをひらひらさせて歩き出した。



 寮の扉を開けて中に入る。 寮の中はシンとしておりただえさえボロいために雰囲気が出ていた。


「どうしたんだ?」


 蓮は首を傾げながらも部屋に向かう。


 生徒たちが談笑したりする大広間まで来るといきなり眩しい光が差して、蓮の視界を潰される。


「奇襲か!?」


 蓮は光を避ける為に扉の影に隠れる。

 その後に向かい側で葵も隠れていた。


「あれ? 蓮じゃん。 転入生さんは? 」


 ひょこっと顔を出したのは何故かここで俺によくしてくれるナハト。正式名は長かったので覚えてない。


 蓮は指だけを動かして葵の方へと向ける。


 その指の先を追うように見て、葵を見つけたナハトが葵の元へと近づく。


「ちょっと待ちなさい。 あなたは誰? 何者なの?」


 葵はいきなりナハトの首にナイフを突きつける。


「お、おい!」


「ちょちょちょ、ちょっとこれは!?」


「答えなさい!」


「そいつは別に大した奴じゃない! 剣をしまえ!」


 蓮がそう答えると、ナイフをしまってくれた。


 刃物の恐怖から逃れたナハトが葵から距離をとって蓮に詰め寄る。


「え、ちょっと鈴原さんて何者? ナイフを突きつけ方が素人っぽくなかたよ」


 蓮にだけ聞こえるように小声でささやく。ナハトは殺されかけてかなり震えていた。その証拠に言葉言葉に違和感がありまくっている。


 少しだけ、どう答えようか迷ったがここは常に武器を携帯する街だったのでその迷いはすぐに消えた。


「ああ、護身用にな鍛えてんだよ毎日」


「なーる。今は男が守ってくれるなんてことないもんな」


 ナハトはそう言って納得するとすぐに向き直り、葵を広間へと招く。


 蓮もそれに続くと……。


「おお……」


 そこには転校生を歓迎する横断幕が掲げられていた。


「ようこそ、クオーク学園カムイ寮へ。我々は鈴原さんを歓迎します」


「「「ようこそ、カムイ寮へ!」」」


 その言葉と同時にクラッカーの音がわめく。


 本来主催者側であるべき蓮も一瞬驚いた。というよりも蓮はこのことを知らなかった。


「どういう事だ?」


「あ、お前には言ってなかったな。 実はサユリ先生に転入生が来るからって言われて、これを用意してたのさ」


 ナハトが蓮の発した疑問に答える。


「なぜ、俺には聞かされてない?」


「いや、なんか知らんけどお前にはやらすなって先生が言ってたし、もともとそんなこと言っても手伝う気さらさらなかったろうしね」


 蓮が転校生が来ると知ったのは朝のホームルーム前の教室でのことだから無理もない。


 だが、なぜサユリ先生がこんなことを言ったのには疑問が残った。


 そんな中にも葵は、寮の仲間に歓迎されている。


「じゃ、俺はこれで」


 この和やかな雰囲気に耐えられなくなって、この部屋を出ようとする。


「ちょ、ちょっと待ちなさい」


 葵が蓮の袖を引っ張る。


「っ、なんだよ」


 強引な引き寄せに一瞬イラっとする蓮。


「私だけ残すの? 私も開放してよ」


「は!? お前は主役なんだからムリに決まってんだろ」


 二人にだけ聞こえるように話す。


 他の寮生たちは雰囲気に流されて二人のひそひそ話に気付く者はいない。


「お前はちょっとおトイレ。……とか言っときゃいいだろ!」


 蓮は掴まれていた葵の手をはらい、入り口から出て行く。


「あっ、んもう!」


 と悔しいといった表情を浮かべた葵の肩に手が乗せられてそちらの方を向く。


 もう、ここの人達が悪い者たちではないことはこの歓迎ようからも明らかだったので肩に手が乗せられた程度で警戒心を強めたりはしなかった。


「お互い、変な奴に巻き込まれちゃったよね〜。ほんっとあんな奴なんで面倒見なきゃいけないのよって毎日思うわー」


「ですよね! あいつなんかー」


 葵は共通の悩める話題を振られたことで意気投合してしまっていた。





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