第8話
いきなりの攻撃にたじろぐ。
葵が急に剣を突き立てる。
ギリギリのところでその突きをかわす。
「あぶねぇだろ⁉︎」
「戦場じゃあそうはいかないんじゃない? 」
(俺を含めて、お前たちはそんなやばい環境下でやりあうことなんてなかっただろうが⁉︎)
次々と突かれる攻撃を避けながら思う。
正直、こんな攻撃へでもないのだが、あちらも本気を出しておらず、どんな攻撃をするのか見定めようとしているみたいであった。
そうと分かっていながら、この攻撃が当たればタダでは済まない凶器なのは間違いない。
「様子見ならもうちょっと手加減してもらえませんかね!」
蓮はお返しとばかりに葵が蓮のど真ん中を突いてくる瞬間を狙い、その短剣を摘む。
摘んだのは、短剣の刃の部分の切れない側面を片手で挟む。そのまま、身体を短剣に突かれない位置へと移動させ、前に行くのと同時に挟んだでを引き、その手を離す。その時間、コンマ5秒程度。
「キャ⁉︎」
葵は自分の力と蓮の引く力でまっすぐ飛ばされ、反対側の引き戸に穴を穿つ。無様にも身体ごと。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
抜け出そうとしてもがいているらしく、声にならない声が蓮の耳に入っていた。
蓮はその扉に近づき、葵のお尻に向かって話しかける。
「あの、もう決着ってことでいいすかね?」
そう言うと、足をバタバタさせた。な、何が言いたい?
正直、いけないことしてるみたいで嫌な気分になってきた。
抵抗してもらっても困るので、手に持っている短剣を先に回収する。
「さて、どうすっかなぁ〜」
相変わらず挟まったままの葵。 何度か足をバタバタさせたり、休んでいるのか急に動かなくなっていたりを繰り返していた。
「あんひゃもてしゅだいなしゃいよ!」
ドアの向こうから、聞きづらい声が聞こえてくる。脳内で大体は変換されたからニュアンスは分かったけれども、このまま簡単に助けてしまうのもそれはそれでやりたくないといういたずら心が芽生えた。
蓮は、葵の足の裏に指を這わせて高速で動かす。
「あははは……いひひひひひひひ……ちょ、ちょっ、あはははははは」
くすぐり攻撃による手助けをすることにした。暴れまわる葵はある意味自分の力だけで脱出した。
脱出したはいいものの完全に黙りこくって両手足をつけて床を見ている。まぁ、四つん這いてやつかな?
そして、ぎっと蓮を睨みつけるが、ごあいにくさま武器は取り上げているので無理だと悟ったのかその場に立ち上がる。
「ちょーーーーーーーーーー悔しいけど、私の負けよ。やはりあなたの実力は所長が認めるだけあるわ」
「おいおい、今度は褒めちぎって組織に戻そうってか? いい加減諦めてくれよ」
蓮は呆れ顔で言い返す。
(もうあの組織は御免被りたい……その気持ちに嘘はない。しかし、そこまでしてでも俺を引き入れる要素なんてなかったはずだが)
蓮は武器を葵に返しながら考えていた。組織の狙いを。
正直、蓮なんぞいなかろうがあの組織は屈強な奴らばかりの集団だ。この国なんてそいつら全員反逆すれば乗っ取れる。それくらいの力は蓮なんていなくても十分にあると考えていい。
しかし、蓮はそこでもなお蓮を組織へと戻したがるのかを理解できなかった。別に大した力はないと思った方がいい。……あの組織では。
−もちろんこの学園の中では俺は強いのかもしれないとか思ったりしないのだけれども……
「…でも、これは命令なの。遂行しなければならないの。ねぇ、どうしたら
もう力ずくで引き入れるのは諦めた葵がそんなことを口走る。
あの組織にいてはならない。
そのように感じたのはこの学園に入学してすぐの事だ。
どこかの才に秀でて入れば入る事の許されるこのクオーク学園。
初めはなぜ、俺が入学を許されたのかさっぱり分からなかったんだ。
あの力は使いたくはない。
今ではそう思う。
「無理だ。どんなに色じがけだろうがなんだろうがされたってあの組織だけは行きたくないんだよ」
「じゃあなんでなの? あの組織に入れる事自体、この国に貢献できるという名誉ある事なのよ。それなのになぜ…?」
「俺はこの国に愛国心なんか持ってねぇよ」
「………」
葵は蓮を睨む。
蓮も見返す。
そこに通信を知らせる着信音が鳴った。
「……ごめんなさい。 はい、鈴原です。………」
手持ち無沙汰になった蓮は踵を返そうとする。
「ぐわっ!」
首根っこを掴まれた。
どうやら、話はまだ終わりじゃあないらしい。
葵が通信機を切って、しまう。
「女王陛下の依頼よ。 命令は絶対だということよ。分かってるわね」
蓮の方をじっと見据えて話す。
迫力がさっきとは別人のように違った。
「そういうことかよ。でもな−」
「命令違反は死刑、ということらしいわ」
葵は蓮の異論を待たずそう告げる。
その言葉だけで蓮は納得した。
「ちっ、内容は」
「さっきの吸血鬼の排除……だそうよ」
「マジかよ。面倒いな……」
あの吸血鬼は流しときゃよかったと思ってたので正直、逃げてくれればいいと思っていたあたりさっきやってときゃよかったなと後悔した。
「御託はいいからさっさと探すわよ」
「へいへい」
蓮は葵に連れて歩き出した。
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