第6話

ゴードンは巨大鳥に向かって、何処からともなく出した斧で振り下ろす。


簡単に避けられてしまう。


「ちっ」


舌打ちしてやがる。

本来のゴードンはおネェでキモいと正直思うが、それでも戦ってる時だけはとてつもなく戦場慣れしたベテランのおっさんに早変わりする。

その姿だけは尊敬に値する。


そして、当の俺はと言うと………。


「あなたはどうしてきたの……座り込んじゃって」


そう、ただあぐらかいて座っていた。

暴風が吹き荒れる中、いい度胸だなと思う人もいれば、何、正義のヒーローみたいなフラグ立てたくせに何もしないのかよ!

と言うと思う。


いや、大半後者の方が多いのではないかと思い始めてきた。


はっきり言おう。


俺は勇者でもヒーローでも無い。


そもそもそんな奴などいないのだ。

そのようなヒーローものは第三者目線からすれば、双方正義という名の定義に当てはまる視点を持つことができる。


だから、もう一度言う。


俺は勇者でもヒーローでも無い。と。


「じゃあ、なんで戻ってきたのよ?」


座り込む俺の上から少し怒り顏の葵が訊いてくる。


「……頼まれたから?」

「なぜに疑問系⁉︎」


どこに驚くところがあったのだろうか?

俺はそっちの方が気がかりだよ。


そんな会話をしていると、巨大鳥が地面に落下する音と振動がした。


俺は立ち上がり、フェンスから飛び降りる。


颯爽と地面に足をつけて、ゴードンの方に向かう。


「やったのか?」

「いいえ、まだよ」

「ちっ」


普通に舌打ちしてしまう。

ゴードンはやれやれといった感じだ。


「もういい、俺がやる」

「でも、許可証は? 無いとやばいじゃない」

「大丈夫だ。許可証なら…」


そう言って、校舎の本来の入り口の方に目を向けると、ゼーハーと息を荒げてる葵がいた。

わざわざ、階段で降りてくるとか真面目すぎんだろ。


そう、ここは普通の学校なのだ。下手な真似は出来ないはずなのだが…。


結界あるんだし大丈夫っしょ。


誰かは分からないが、外から結界が張られていて中に入る事も外に出る事もできなくなっていた。


「じゃ、やりますか」


蓮は指をゴキゴキと鳴らす。


解放パージ!」


すると途端、暴風が吹き荒れた。

二人が、暴風に足を取られないようにしている一方で蓮は仁王立ちしていた。


「ちゃっちゃとするぞ! デケェの!」


蓮は巨大鳥に向かって走る。

そして、巨大鳥にパンチをかますポーズをとる。


「オラァああああ……」 ぴと。


殴って巨大鳥を吹っ飛ばすと思いきや、ただ触れただけだった。


「え、何? あいつは何したの?」 と、葵。

「やれやれ…」と、ゴードン。


「そうか……。分かったよ。 そこまで案内してやるから」


蓮は独り言をしている…ように見える。

が、蓮の能力は魔獣と会話できる事なのだ。

能力というと語弊があるが、小さい頃から魔獣と暮らしていた事で自然と身に付いた。


蓮は素早く、巨大鳥の背中に乗る。


「おい、ゴードン。こいつ元の場所に戻すから結界外すようにリーシャに伝えてくれ」


大声でゴードンに聞こえるように言う。

ゴードンは頷き、目を瞑った。恐らく、テレパシーで伝えるのだろう。


「………よし、大丈夫よ!」

「分かった! サンキュー」


蓮は巨大鳥と共に飛び去る。


結界が開き始めてるところから抜けて、森の方へ飛び去っていった。


「………どういう事?」

「ん?、ああそうね。蓮は魔獣に育てられたからとしか言えないわ」

「ああ、そう…じゃないわよ! ええ! 人間界にいなかったって事? それにしては会話が流暢だわ……」


と、悩みだす葵。


こちらにも同様にやれやれと嘆く。

リーシャが来たので、ゴードンは撤収する。


「あ、そうだ。 葵くん」

「はい?」


急に名を呼ばれて、さっと振り向く。


「後で、蓮を迎えに行ってあげてね」

「え⁉︎」


こっちのセリフの方が驚きは大きかった。


ゴードンは「よろしく〜」と、軽い感じで去り、リーシャはぺこりと何を語らずお辞儀だけして帰っていった。


「ええ〜ーー⁉︎」


私は叫ぶ事しかできなかった。


「よっと……。ここで合ってるだろ?」


蓮が巨大鳥に話しかける。

巨大鳥ジャイアントバードは周りを一瞥した後、雄叫びをあげる。


「うん、じゃあな」


と、巨大鳥ジャイアントバードに背中を向けて歩き出す。


…………


………


……


え?

待ってくれよ…。ここの場所は分かる。

ここから学校までの道程も分かる。


だけど、帰る方法は……徒歩?


いやいやいや、待ってくれ。いくら飛んできたからとはいえ、せいぜい速くても30分は掛かってたはずだ。


それを徒歩? 正気か俺?


どうやら俺は詰んでしまったらしい。


終わった……。


「歩くしかないか………」


と、重苦しい一歩を踏み出す。








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