2章3.5話【凛のフリータイム】
凛、死神界人生交換課、年齢不詳。人生堂という変わった店の店主をしている少女(仮)。
彼女の仕事は人生堂の店主。だが、客足が少ない。それでも潰れないのは、普通の人間には見えないから。
現在は、元佐藤一樹、現佐々アカネという人物のサポート中。
これは、そんな小さな店主の一人の時間の話。
朝、サポート対象である佐々アカネを起こし、学校に行かせる。凛は関係ない者には見えない。見えないので、サポート対象と会話をしてしまうと、サポート対象が独り言を言っているように見えてしまう。だから凛はサポート対象と話せない暇な時間がたくさんある。
教室に入り佐々の様子を見に行ったり、空を飛び街の様子を見たりする。
時には、市役所へ行き凛の先輩である秦に会いに行く。
「あれェ?凛じゃないかァ。一人で来るなんて珍しいねェ」
秦、元人生交換課、現資料管理課。
「アカネさん、今学校なんです」
「暇なのねェ。ということは、今日は仕事なさそうだねェ。よし凛、遊びに行こうじゃァないか!」
「アカネさんの学校が終わるまでなら構いません」
「おー。今日は珍しい事が続くねェ。明日はキングの鎌が降ってくるかねェ」
「キングの鎌が降ってきたら地球壊れますよ」
「モノの例えさァ」
秦は幸せそうに凛の方へ行き、凛とともに市役所の外に出た。
2人は浮いていた足を地面に付け、小さな喫茶店に入った。その店は、少し薄暗く昭和の雰囲気漂う喫茶店だ。2人の暇な時間があれば、いつでもこの店に足を運んでいた。2人は何も言わず席に着くと、数秒後には珈琲が2つテーブルに用意されるほどの常連だった。
“眼鏡をかけた洋装の女と小さな和装の少女”。これがこの喫茶店の店員に知られた2人組である。
珈琲が用意され、2人は一口飲む。沈黙が続いた後に、秦が口を開いた。
「ねェ、凛はさァ?ずっと人生交換課でやれると思う?」
「………」
「少なくとも私はさ、一生あの場所で人生堂の店主やってるもんだと思ってた。けど、それは私の理想であって運命ではなかった。だから今私は、市役所で資料管理課の仕事をしている。いつ、どうなるかなんてキングでさえも知らないんだよ」
突然真面目な口調で話し始める秦の目は、光を映していなかった。そんな秦の目をただじっと見ながらお茶を飲む凛は少し考え、口を開いた。
「私も、秦の助手としてずっと人生堂を営んでいくものだと思っていました。確かに、いずれかは私も自立して自分の人生堂を持つ日が来るとは思っていましたが、こんなに早く来るなどとは。死の神とはいえ、私たちも神。神である私たちですらこの先起こることが分からないというのですから、誰にも分かるはずがない、と私は思います」
珈琲カップを手に持ちながら、珈琲に映る自分を見ながら凛は答えた。
「そうだねェ。私たちが分からないのなら、人々が信仰を続けている神にも分かるはずがないのかもしれないねェ。凛、こんな話をするために来たわけじゃないだろうに悪いねェ。ここは私が奢ろう。凛はそろそろ佐々アカネのところに行かないといけない時間じゃないかい?」
凛は自分の懐に入っている懐中時計を見て少し驚いた。時計が指していたのは午後3時30分。模試が終わりまもなく帰る時間だった。
「時間が経つのは早いですね。秦、私は秦と話が出来ればそれで十分です。ここは先輩に甘えさせて頂きます。ご馳走様、秦。」
「いーえ、凛がそう言ってくれると少しでも気が楽になるもんだねェ。早く行ってあげなァ」
「はい、ではまた」
凛は軽く会釈し、喫茶店から出る。急いで佐々アカネがいる学校へ向かい、校門前で待つ。誰にも見えないように宙に浮きながら。
佐々アカネの知らない、凛の時間。
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