1章10.5話

市役所からの帰り道。凛は俺がこの生活に慣れるまで付き添うことが仕事だ、と言うので、俺の新しい家に2人で帰っていた。凛は当然地面を歩いている。

「なぁ、凛」

「なんです?」

「さっき、秦が言いかけてただろ。秦は凛の人生交換課の先輩だと。どういうことだ?」

「アカネさん刃本当に質問がお好きですね。お答えしましょう」

質問が多くて悪いな。あの時(質問はあるかと聞かれた時)は質問しなかったのに、どうでもいい時にどうでもいい質問をずっとしている。

「秦は元々人生交換課の死神だったんです。ですが、原因不明でどんどん視力が落ちていってしまい、今では眼鏡がなければ何も見えない状態に等しいのです」

「目が悪いとダメなのか?」

「ハッキリとした理由はあまりありませんが、魂管理課も人生交換課も、目が良くないと色々と不便な仕事なんです。先程秦は、資料管理課の死神は皆眼鏡だと言っていたでしょう?」

「確かに…」

「それは視力が落ち、仕事が出来なくなった魂管理課や人生交換課の死神が所属しているからなのです。つまり資料管理課は実はエリート揃いなんです!」

「なるほど、死神は結構目悪くなるのか?」

「ならない者がほとんどですが、人間と同じです。なる者もいれば、ならない者もいる。そんな感じです」

結構人間と似ているところがあるんだな。

それにしても、人間の世界の市役所で死神の仕事が出来るとは…。まず市役所に死神がいるという事以前に、死神の存在自体が驚きだ。

今日一日で色々なことあったな。ただ全てが嫌になって散歩していただけなのに、人生堂なる店に辿り着き、他人の人生に乗り換えるなんて思いもしなかった。ふと立ち止まりそんな事を考えていた。

「どうしました?」

立ち止まった俺を心配してなのか、少し前を歩いていた凛が振り向いた。

「凛」

「はい?」

「ありがとな」

凛は少し固まり、考えた。

そして前に向き直り、「感謝なら佐々アカネさんの人生を終わらせてから言ってくださいよ。私は仕事をしただけなので」と言った。少し顔が赤いのを見たということは黙っておこう。

「…あぁ、そうだな」

「そうですよ、早く帰りますよ」

そうして俺たち2人は新しい家へ向かった。

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